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※最初で最後のゆっくり虐待に挑戦中です。 ※どくそ長いです。 ※うんうん、まむまむ描写あり。 ※標的は全員ゲスです。 ※虐待レベルはベリーハードを目指します。 ※以上をご了承頂ける方のみどうぞ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『永遠のゆっくり』17 「さていよいよ、本格的に苦しめる下準備に入りましょっか。 春奈流のゆっくり虐待は手間かかってるよ~。 すごく時間かかるけど、協力お願いね」 「例の「処置」を施した時点で、俺の目的はほとんど達せられたようなものだ。 あとは君に任せるよ」 「はいはい。じゃ、ゆっくり虐待のレクチャーを始めましょ。 圭一さんが前にやっていた方法はね、 スタンダードなんだけど、虐め方としては中の下ってところ」 「そうか」 「ゆっくりを苦しめる方法はいろいろあるけど、 一番効果的なのはやっぱり次の二つ。 「後悔」と「絶望」。 絶望を与える下準備はもうできてるから、後悔のさせかたをお見せします」 「後悔させることが重要なのか」 「それがあるとないとじゃ雲泥の差だねー。 圭一さんのやり方だと、ゆっくりはね、相手を憎むの。 苦しめられるほどにその相手を憎み、 そして、被害者としての自分を憐れむ。 憎悪と自己憐憫、この二つがね、ストレスを発散させちゃうんだな。 プライドの高い生き物だからね、この発散がバカにならないのよ」 「一切発散させずにやるっていうのか」 「そう。そのために必要なのが、後悔。 というわけで、ひとつあたしの手並みを見てってちょーだい」 「ゆっくりしていってね!!」 目覚めた直後、親れいむはすぐに挨拶をした。 「ゆっくりしていってね!!」「ゆっくりしていってね!!」 周囲のゆっくり達から、反応はすぐに帰ってくる。 傍にいるのは、自分を入れて総勢十三匹の家族。 まりさ種もありす種も揃っており、プラチナバッジを見るまでもなく頭の飾りですぐに判別できる。 今後、長浜圭一に飼われていた十三匹のゆっくりについては、 親れいむ、子れいむというように、「親」と「子」をつけて特に表記する。 そのほかにも、大勢のゆっくり達がいた。 れいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりー、ちぇん、どの個体も見知った顔だ。 人間ををペットにしたあの森で知り合った群れだ。 ドスまりさは見当たらなかった。 「ゆっくりしていってね!!」 そう言ってぽんぽん跳ねてきたのは、ゴールドバッジをつけたあのれいむだった。 「ゆゆっ、れいむのおはなし、とってもゆっくりしてたよ!! れいむのおねえさんははんせいしてないてたよ!!」 「ゆゆゆ!あたりまえのことをいっただけだよ!!ゆふぅ~♪」 つい顎を反らしていい気分になる。 すでに話は広まっているらしく、群れのゆっくり達もれいむに駆け寄って賞賛しはじめた。 「れいむったらとってもとかいはなのね!!ほ、ほめてあげてもいいのよ!?」 「わかるよー、ゆっくりはせかいいちゆっくりできるんだねー」 「もうをひらかれたわ!ゆっくりのかくめいよ、むきゅ!」 家族たちや金バッジが、自分が人間に向かってしてあげた説教の内容を群れに伝えたらしい。 「とってもゆっくりできるおはなし」として、群れの皆が感動していた。 親れいむはいまや革命家、ヒーローとなり、一目置かれ尊敬されている。 周囲で飛び跳ね、自分を称賛するゆっくりに囲まれ、 親れいむはいよいよ顎を反らし、ブリッジせんばかりにひん曲った。 「ゆっふぅぅぅ~~~~~ん♪ にんげんさんはばかだから、 あんなかんたんなこともおしえてあげなきゃいけなくてゆっくりできないよ! ゆふんっ♪ゆふんっ♪」 仲間同士でひとしきり盛り上がったあと、親れいむはふと我に返って聞いた。 「ゆっ、ここはどこ?」 そこは見渡す限りの荒野だった。 荒野というよりも岩場。地平線まで無限に続くその荒れた地面には、 ぺんぺん草一本生えておらず、水の気配もない。 しかし、ゆっくりは大勢いた。 自分たちの群れと離れたところに、 ちょうど自分たちと同じ規模の群れが固まっているのが見えた。 他のあらゆる方向にも、ほぼ同じぐらいの間隔を開けて、同規模の群れがいる。 なかば群れのリーダー的な気分になっていた親れいむは、 声をはりあげて、前方にいる群れに向かって挨拶をした。 「ゆっくりしていってね!!」 同時に、向こう側の群れも挨拶をしてきた。 挨拶に挨拶を返すのではなく、まったく同じタイミングで挨拶をしたのだ。 「ゆゆっ!!ゆっくりできるね!!ゆっくりしていってね!!」 そう言い、ゆっくり達が互いに近づいていく。 しばらくの間群れは跳ねながら相手の側に近付いていった。 見ると、自分たちの左右方向にいる群れも、 自分たちと同じように、前方に向かって進んでいるようだった。 突然、先頭のゆっくりが向こう側の先頭のゆっくりに激突した。 「ゆびゃっ!!なんでよけないのおぉぉ!?」 あちこちで激突が繰り返され、互いに罵り合うゆっくり達。 「ゆゆっ!!これはかがみさんだよ!!ゆっくりやめてね!!」 金バッジのれいむが叫んだ。 「ゆっ?なにそれ?ゆっくりおしえてね!」 「かがみさんはきれいなかべさんなんだよ! それで、れいむたちのすがたがみられるんだよ!! ここにうつっているのはれいむたちなんだよ!!ゆっくりりかいしてね!!」 そんな事が、と疑いながらも、 鏡の前で動いているうちに、目の前にいるのが自分の鏡像だということを理解するゆっくり達。 「ゆゆっ!かがみさんはおもしろいよ!!」 「ゆっくりできるね!!」 始めて見る鏡にはしゃぎ、跳ねまわってゆっくり達。 たっぷり一時間は騒いでいたが、 そのうちに、一同は空腹を感じ始めた。 「ゆっくりごはんさんをさがすよ!!」 群れは再び鏡にそって移動しはじめた。 しかし、どこまで行っても岩場と硬い土だらけで、雑草さえも見当たらない。 長い探索を経て、 一見どこまでも広がる荒野に見えたこの土地は、 四方が鏡張りの壁に囲まれた、密閉された空間であることがわかった。 初めは沢山いると見えた群れもどうやらすべては鏡像で、 実際には群れひとつ、自分たちしかここにいないようだった。 当然、どちらを向いても餌になるようなものは一切見受けられない。 「ゆぅ~……ゆっくりできないよ……」 「おなかすいたよ!!かわいいれいむをゆっくりさせてね!!」 「まりさはかりがとくいなんでしょおぉぉ!?はやくごはんさんをあつめてねぇぇ!!」 口々に不平をこぼしはじめるゆっくり達。 空腹はつのるばかりだった。 何時間かが過ぎ、ゆっくり達の不平が頂点に達したころ、状況に変化が現れた。 鏡張りの壁のある一面が、突然ぱっと向こう側の風景を映し出した。 それまでこちらの姿を映しているだけだった壁が、いきなり隣の空間を映し出し、 ゆっくり達の視線は自然とそちらに集まった。 そこは天国だった。 こちら側よりもずっと広く、天井が高い。 そこは階段やしきりがあちこちに配備された多層的な空間になっており、 数多くのゆっくり達がそこかしこにひしめいている。 ふかふかしたクッションの載ったソファや天蓋つきのベッドの上でゆっくり達が心地よさげに眠っている。 ブランコや簡易メリーゴーラウンドやトランポリン、 マットの上で飛び跳ねることでゆっくりでも操作可能な単純なビデオゲームなど、 飼いゆっくりでさえ想像したこともないほど豪華で楽しそうな遊具で、ゆっくり達が遊びに興じている。 床にはとても食べ切れないほどの果物やお菓子が盛られた大皿があり、 小腹がすいたゆっくりが、気の向くままに近づいてはかじりついていった。 ソフトクリームやオレンジジュースのサーバーがあり、 使い慣れたゆっくりは器用にハンドルを操作してコップに注いでいる。 壁の透過に伴い、向こう側の音も伝わってきていた。 家族ですーりすーりしてリラックスしているゆっくり達。 遊具で飛び跳ね、歓声をあげる子ゆっくり達。 室内には、なんだか複雑でよくわからないが、非常にゆっくりできる音楽が流されていた。 そして、そこにいるゆっくり達は、どれもが極上の美ゆっくりだった。 手入れの行き届いたさらさらの髪ともっちりした肌、きらきらした瞳に色鮮やかな髪飾り。 かつて群れの中ではあこがれの的だったゴールドバッジのれいむでさえ、 このゆっくり達を前にすると、急にみすぼらしく思えてきた。 「ゆゆゆうううぅぅ~~~~~………!!!」 群れの全員が、きらきらと目を輝かせて涎をたらす。 これ以上ないゆっくりプレイスの現出。 自分たちもその恩恵に浴することができると全員が確信している。 「ゆっくりしていってね!!!」 群れの全員がガラス壁に駆け寄り、飛び跳ねて挨拶をした。 それは向こう側に伝わったらしく、向こう側のゆっくり達がこちらに視線を向けてくる。 群れのゆっくりはますます声を張り上げて要求した。 「れいむたちもいれてね!!れいむたちはそこでゆっくりするよ!!」 しかし、答えは返ってこなかった。 返答するどころか、不快そうに眉をひそめるもの、 せせら笑うもの、こちらを無視して何事かひそひそ話しているもの、 どれもこれもとても友好的とは言えない反応だった。 苛立ちながら親れいむ達は要求を重ねる。 「ゆゆっ!!きいてるの!?かわいいれいむたちがおなかをすかせてるんだよ!! きこえないの!?ばかなの!?しぬの!?ゆっくりいれてね!!」 叫びながらガラスに体当たりをしはじめたゆっくり達を見ながら、 向こう側のゆっくり達はひとしきり相談したあと、こちらに向かってきた。 「ゆゆゆっ!!れいむたちをいれるきになったんだね!! そこはれいむのゆっくりぷれいすにしてあげるからね!!ゆっくりしていってね!!」 向こう側のゆっくりは、荒野とゆっくりプレイスを隔てるガラス壁の隅まで行き、 そこの扉を開いた。 隅のそこだけは扉になっており、開くようになっていた。 「ゆゆうぅぅ!!」 矢も盾もたまらず、扉に殺到してゆく群れ。 しかし、小さな扉の前に立ちはだかり、そのゆっくり達は言い放った。 「ゆっくりできるね!!」 「ゆゆっ!?」 珍妙な声を受け、群れは戸惑った。 今のは何だろうか。 ひとまず、普段どおりに反応してみる。 「ゆっくりしていってね!!」 「ゆっくりできるね!!」 向こう側のゆっくりは、先ほどと同じ挨拶を繰り返した。 「ゆゆっ!?そのあいさつはへんだよ!!ゆっくりできないよ!!」 「そっちのほうがゆっくりできないよ!ゆっくりりかいしてね!!」 理解し難いことを言ってきた。 なんだこいつらは? 扉から出てきた向こう側のゆっくり達は、 おおよそ総勢十匹程度だった。 種族は、れいむ、まりさ、ありす種の基本三種に加え、希少種もちらほら見受けられる。 図抜けて美しいということを除けば、一見ごく普通の外見だったが、 よく見ると、全員がリボンに特殊な飾りをつけていた。 白く光る銀製のその飾りは、アルファベットのYの形をしている。 「よくわからないけど、さっさとれいむたちをいれてね!!」 「だめだよ!! ここにはいっていいのはにんげんさんと、ゆっくりできるゆっくりだけなんだよ!!」 Yの飾りのまりさがはっきり言い放った。 「ゆゆっ!?うそはゆっくりできないよ!! にんげんさんなんかいないよ!!」 「いまはいないけど、ときどききてくれてゆっくりさせてくれるんだよ!!」 「ゆっ!!どれいにしてるんだね!!」 そう言った瞬間、Y飾りのゆっくり達が大声で怒鳴った。 「どれいじゃないでしょおおおおおお!!!くちをつつしんでねえええぇぇ!!!」 「ごみくずがにんげんさんにそんなくちをきいていいとおもってるのおおおおぉぉ!!?」 「ごめんなさい!!ごめんなさい!!にんげんさんごめんなさいいい!!」 異常なほどの怒りをあらわにして食ってかかってくる。 この場にいもしない人間に向かって詫びはじめるやつまでいた。 「ゆゆゆっ!?にんげんさんなんかにあやま」 「ゆっくりだまってね!!!」 Y飾りのれいむが叫ぶ。 群れのゆっくり達は、その迫力に思わず身をすくませてしまった。 「れいむたちはゆっくりできないね!!ここにはむかえいれられないよ!!」 「どぼじでぞんなごどいうのおおおぉぉぉ!!? れいむたちはとってもとってもゆっくりできるんだよおおぉぉぉ!!!」 「どこがゆっくりできるの?」 「みてわからないのおおぉぉぉ!?ばかなのおおぉぉ!?」 「それじゃあ、これからてすとをするよ!!」 Y飾りのまりさが鋭く叫んだ。 同時に、固まっていた十数匹のY飾りのゆっくり達が散らばって移動し、 品定めするように群れの先頭にいた親れいむを取り囲んだ。 「ゆゆっ?てすと?」 「れいむたちがほんとうにゆっくりできるゆっくりかどうかてすとをするよ。 れいむたちがみんなをゆっくりさせられたら、ゆっくりぷれいすにいれてあげるよ!」 「ゆゆっ!!かんたんだよぉ!!」 「それじゃあ、みんなをゆっくりさせてね!! ゆっくりはじめてね!!」 「ゆゆゆっ!!」 テストが始まり、親れいむは気合いを入れた。 「がんばってね!!がんばってね!!」 「ゆっくりぷれいす!!ゆっくりぷれいす!!」 群れの仲間たちが応援している。 全力でこいつらをゆっくりさせてやる。れいむは意思を固め、行動に移った。 「ゆっくりしていってね!!!」 全身にゆっくりパワーを漲らせた、渾身の挨拶だった。 顔に浮かべた笑みも、飛び跳ねる高さも、これまででの自己ベストを叩きだしたという自信があった。 親れいむは勝利を確信した。 しかし、帰ってきたのは冷たい沈黙だった。 Y飾りのゆっくり達は、誰もが冷やかな無表情で親れいむを眺めている。 「ゆゆゆっ!?」 取り囲むY飾り達を前にきょろきょろして狼狽する親れいむ。 どうしたのだ。 もしかしてよく見ていなかったのだろうか。そうだ、そうに違いない。せっかくの渾身の挨拶を。 腹が立ったが、それより空腹のほうがせっぱつまっていたので、 さっさと終わらせるべく親れいむは再度挑戦した。 「ゆっくりしていってね!!!」 それでも、帰ってきたのは失笑だけだった。 そればかりか、Y飾りのまりさが言い放ってきた。 「はやくゆっくりさせてね!てすとはもうはじまってるよ!!」 「ゆゆゆっ!?なんでゆっくりしないのおぉぉ!!?」 「ゆっ?もしかして、いまのがゆっくりさせてたの?!」 不思議そうに聞き返され、親れいむは屈辱に赤面した。 今まで、あの挨拶をされたゆっくりは皆が笑顔で挨拶を返してくれた。 れいむの可愛い挨拶を見れば、誰もがゆっくりするはずなのだ。 その確信が、今揺らぎはじめていた。 「れいむはゆっくりできないね!しっかくだよ!!」 「ゆゆゆぅぅぅ!!?まってね!!まってね!! かわいいれいむのゆっくりしたあいさつだよ!!こんどはほんきだよ!!」 三度目の、渾身の「ゆっくりしていってね!!!!」。 こんなにゆっくりできる挨拶は、本来、心を許した親友や家族にしか見せない。 しかし、返ってきたのは侮蔑と嘲笑だった。 「れいむ。ぜんっぜんかわいくないよ」 「じぶんのことをかわいいとおもってるんだねー、わかるよー」 「いたいたしいね……」 「みてるほうがつらいから、もうやらないでね。ごめんね」 親れいむは顔中を真赤にして涙を浮かべていた。 「ゆ………ゆ………」 恥辱と悔しさに歯軋りし、とめどなく涙があふれ出す。 生涯最高の屈辱だった。 「泣いてる、泣いてる。効くねえ」 「こんな顔は初めて見るな。子供を殺してみせた時でさえ、こんな表情は見られなかった」 「この前確認したとおり、ゆっくりにとっては可愛さが最高の価値観であり存在意義なの。 ゆっくりが可愛いからこそ他の生き物はゆっくりしている、だからゆっくりが一番偉いと信じてるぐらいだから、 可愛くない、ゆっくりできない、と言われるのがゆっくりには何よりの苦痛なんだね」 「同じゆっくりに言わせる、というのがやっぱり重要なんだな。 人間が言ってやったところで一蹴されるだろうし」 「しかも、言ってるのは極上の美ゆっくり達だもんね。 そんな相手に言われちゃ反論もできない。 自分の存在価値を全否定されるというのは、人間だったら自我が崩壊するくらいの苦しみだろうねー」 その他にも、自信家のゆっくり達が何匹か挑戦したが、 どのゆっくりの挨拶も侮蔑と冷笑で応えられ、屈辱に歯噛みすることになった。 ついにはY飾りのまりさが宣告した。 「あいさつはもういいよ!! それしかできないならゆっくりできないね!ゆっくりぷれいすにはいれられないよ!!」 「ゆゆううううぅぅぅぅ!!?」 群れに背を向け、ゆっくりプレイスに戻っていこうとするY飾り達。 親れいむが必死になって呼び止めた。 「ゆ、ゆっくりまってねぇ!! まだあるよ!!れいむはとってもゆっくりできるんだよ!!」 「あいさつならもういいよ!」 大義そうに振り返るY飾り達に、親れいむは跳び上がって言い放った。 「れいむはゆっくりできるおうたがうたえるよ!!」 「ゆゆっ!?」 Y飾りの目の色が変わる。 「おうたがうたえるゆっくりはとかいはよ!!むしできないわね!!」 「それをはやくいってね!!まりさたちもおうたがだいすきなんだよ!!」 「ゆゆっ、どんなおうたかたのしみね!!」 「おうたはゆっくりできるよ!!てすとをさいかいするよ!!」 いそいそと親れいむを取り囲み直すY飾り達。 余程歌が好きらしく、期待に目を輝かせている。 その反応を見て、得たりとばかりに親れいむは顎を反らした。 「ゆっふっふ!!れいむのびせいによいしれていってね!!」 早くも勝ち誇り、親れいむは歌いはじめた。 「ゆっゆっゆ~♪ゆゆゆゆゆ~♪ゆ~ゆ~ゆゆゆ~♪ゆゆゆ~ゆっくり~♪」 群れのゆっくり達が、親れいむの歌に合わせて体を揺らしてリズムをとっている。 いつもながらの自らの美声に陶然となり、親れいむはますます声をはりあげた。 「ゆっくり~のひ~♪すっきり~のひ~♪まったり~のひ~♪」 目を閉じながら自らの音韻に心身をゆだねて歌い続ける。 「ゆっゆゆ~ゆゆ♪ゆっゆっゆ~♪ゆっくり~ゆっくり~♪」 喉の調子は最高だ。 これならこのY飾り達もゆっくりせざるをえまい。 山場にさしかかり、親れいむは片目を薄く開けて観客の反応を確かめた。 これ以上ないほどローテンションの無表情がれいむを取り囲んでいた。 「ゆ、ゆゆゆっ?」 思わず歌を中断してしまった。 うっとり聞き惚れているはずのゆっくり達が、全くゆっくりしていない。 親れいむの心に、再び不安の影が差し始める。 親れいむが歌いやめたのを見て、先頭のY飾りまりさが面倒臭そうに言った。 「れいむ。それはなに?」 「ゆゆっ!?おうたでしょおぉ!?」 「…………ゆっくりわかったよ……」 Y飾りまりさは深いため息をひとつつくと、仲間たちとひそひそ話し始めた。 どのY飾りもゆっくりしていない、不快そうな顔で喋っている。 親れいむは、冷や汗が自らの全身をつたうのを感じた。 やがてYまりさが向きなおって言った。 「れいむ。れいむはおうたをしらないんだね?」 「ゆゆゆっ!?なにいってるのおぉ!?れいむはおうたがとくいなんだよおぉ!?」 「まりさ。もういいわ、ほっときましょう」 「いなかものにきたいしたありすがばかだったわ」 Y飾り達の会話に、れいむは再び赤面する。 Yまりさが言い渡した。 「おうたはこうやるんだよ。みんな、じゅんびしてね!」 たちまち、Y飾りのゆっくり達が散開して扇型に並び直した。 居並ぶY飾り達の前方にYまりさが向かい合って立つ。 おさげには妙な棒を握っていた。 Yまりさが棒をひと振りすると、Y飾り達がいっせいに歌い始めた。 群れのゆっくり達を衝撃が襲う。 それは音の乱舞だった。 Y飾り達が声をあげ、転がし、跳ね、躍らせる。 まりさの振るタクトに合わせ、あちらのゆっくりが歌えばこちらのゆっくりが休む。 何重にも重なる音階とリズムが繰り広げるメロディーの洪水。 それらの音韻はゆっくり達をおののかせた。 歌い終え、Yまりさが振り返って言った。 「これがおうただよ。「じーせんじょうのありあ」っていうんだよ」 よくわからない。 ゆっくりできた、というわけでもないが、 その歌を前にした親れいむは、 自分のがなり立てていた雑音がたまらなく恥ずかしくなっていた。 自分が歌だと思っていたのは何だったのだろう。 「もういちどきくよ。れいむはなにがうたえるの?」 「ゆ……ゆ……れいむ…れいむは………」 親れいむはまた涙目で赤面し、へどもどと口を濁すしかなかった。 見切りをつけ、Y飾り達が再び戻ろうとする。 しかしまた、それを呼び止める者がいた。 親まりさだった。 「ゆっへっへ!まりささまがほんきをだすときがきたようなんだぜぇ!!」 「……まりさはゆっくりできるの?」 「ぐもんなんだぜ!!まりさいじょうにゆっくりできるゆっくりはいないんだぜ!!」 「どうゆっくりできるのかいってね!」 「まりささまはとってもつよいんだぜ!!つよいまりささまがおまえたちをまもってやるのぜ!! まりささまがまもってやってるからこのむれはゆっくりできるんだぜえ!!」 群れのほうから不平の声がいくつかあがったが、親まりさはまるで聞いていない。 Y飾りのまりさが答えた。 「ゆっ、じゃあまりさのつよさをてすとするよ! まりさたちのだれかとたたかってかったら、ゆっくりできるとみとめてあげるよ!!」 「ゆっへっへっへ!!さっさとするんだぜええ!!」 Y飾り達が顔を突き合わせて相談していると、一際高い声が上がった。 「むきゅ!!ぱちゅりーがいきゅわ!!」 「はああぁぁぁ~~?」 親まりさが唇をゆがめていると、そのぱちゅりーが前に進み出てきた。 Y飾りをつけたそのぱちゅりーは、年端もいかない子ゆっくりだった。 ゆっくりの中でも特別脆弱なぱちゅりー種の、それも子供。 意外な挑戦者の登場に、群れが騒ぎ出す。 「ゆゆっ!!あぶないよ!!やめてね!!」 「ゆっくりごろしはみたくないよー、わかってねー」 Y飾りの側も騒いでいた。 「ぱちゅりー!ゆっくりかんがえなおしてね!!あぶないよ!!」 「ぱちゅりーはまだこどもでしょおぉ!?おかあさんにまかせておきなさい、むきゅ!!」 「しんぴゃいいらにゃいわよ!!ぱちゅりーはもうおとにゃなのよ!!」 「ゆっへっへっへっへ!!とりけしはきかないんだぜええ!! いちどやるといったからにはさいごまでやるのがゆっくりできるのぜええ!!」 親まりさは得たりとばかりにY子ぱちゅりーににじり寄った。 なんだか知らないが、勝てばテストに合格できるのだ。 「ちゃんすをみのがすほどまりさはばかじゃないんだぜえ!!ゆっへっへっへえ!!」 「ゆ、しかたないよ………」 Yまりさがあきらめたようにうなだれた。 「それじゃあ、ゆっくりはじめ………」 「ゆっくりしね!!!」 開始が宣せられる前に、親まりさはつっかけていた。 大きく跳び、Yまりさのほうを向いていたY子ぱちゅりーにのしかかる。 Y子ぱちゅりーは親まりさの下敷きになって見えなくなってしまった。 「やったのぜ!!かったのぜ!!しとめたのぜぇ!! げらげらげらげら!!やるっていったのはそっちなんだぜぇぇ!!!」 「………ゆっくりはじめてね」 Yまりさが、改めてテストの開始を宣告した。 「ゆっ?もうおわっt」 「むっきゅ!!」 親まりさは、ひねりを加えて高々と投げ飛ばされた。 きりもみながら頭から地面に激突し、 状況が理解できないまま激痛に身もだえる。 「ゆがあああぁぁ!!いたいのぜえええぇぇ!!」 「むっきゅうぅん!!」 横っ面に体当たりを受け、親まりさは再び大きくバウンドして転がった。 欠けた歯を吐き出し、泣き叫ぶ一方で、親まりさの視界は向かってくる相手を捉えていた。 まごうかたなき、それはY子ぱちゅりー。 「なんなのぜええええぇぇ!!?」 「むっきゅりしにぇ!!」 猛烈な頭突きを顔面の中心に受け、親まりさはさらに吹っ飛んだ。 Y子ぱちゅりーは縦横無尽に飛び回り、その後も親まりさを蹂躙しつづけた。 親まりさはほぼ無抵抗で、泣き叫びながら逃げ惑うばかりだった。 群れは呆然とそれを眺め、Y飾りのほうは焦って騒いでいる。 「やっぱりぃ!!こどもだからてかげんができてないよ!!」 「むきゅ!!ぱちゅりー、もうやめなさい!!しんじゃうでしょおぉ!?」 「こにょまりちゃはひきょうなてをつかっちゃわ!! にゃにをされちぇももんきゅはいえにゃいわよ!!むきゅ!!」 「いいかげんにしてね!!にんげんさんにおこられるよ!!」 「むきゅっ!!」 Yまりさに叱りつけられ、Y子ぱちゅりーはしおらしくなって仲間の元に帰った。 「むきゅう、ごめんなしゃい……」 「わかればいいんだよ!よくやったね!!」 群れは言葉もなく立ち尽くしているばかりだった。 親まりさのほうは、また何本も歯を折られ、傷だらけでゆっゆっ呻いていた。 「とかいはなありすがゆっくりさせてあげるわ!!」 次に進み出たのは親ありすだった。 「……ありすはどうやってゆっくりさせるつもり?」 「ゆふんっ!!」 親ありすは顎を反らした。 その顎の中心ではぺにぺにが屹立している。 「ありすのとかいはなてくにっくですっきりさせてあげるわ!! ありすのあいをうけたゆっくりはとってもゆっくりできるのよ!!」 「…………」 Y飾り達が軽蔑の視線で親ありすを眺めているが、親ありすは頓着する様子はない。 「ゆふふ、みんなつんでれさんねええ!! はずかしがらなくていいのよ?!えんりょなくとびこんでいらっしゃああい!!」 「……ちょっとだまっててね」 Y飾り達が再び相談し、結果、また一匹が選び出されて進み出た。 「まりしゃをしゅっきりさせちぇね!!」 進み出てきたY飾りのまりさは、またも子ゆっくりだった。 早くもぺにぺにから先走り汁を垂らし、親ありすは猛り狂った。 「ゆっほほほほおおおおおおお!!」 「それじゃあてすとをはじ」 「こどもまむまむこどもまむまむこどもまむまむうううううぅぅぅぅ!!!!」 はやくも理性を飛ばし、先ほどの親まりさと同じく開始宣告前につっかける親ありす。 激突するようにY子まりさに密着し、素早くへこへこと顎を振り始める。 Y飾り達はこれ以上ないほどの蔑みの視線で眺めていた。 群れの仲間たちの中にも目をそらす者は多かった。 「んほっほっほっほほほほおおおおお!!! まりさかわいいよまりさああああああ!!! まりさのおはだすべすべでとってもとかいはよおぉぉぉ!!!」 涎と体液をまき散らしながらピストン運動を速める。 手入れの行き届いたY子まりさの肌は親ありすの快感を著しく高め、 早くも絶頂が訪れようとしていた。 「いぐ!いぐいぐいぐいぐいぐぅぅぅ!! あでぃずのどがいばなあいをうげどっでねえええぇぇぇ!!! す!!すすすすすすっきりいいいぃぃーーーーーーーーーーー!!!」 絶叫しながらびくんびくんと痙攣する親ありす。 絶頂を迎えてようやく余裕ができた親ありすは、Y子まりさを見下ろしながら声をかけた。 「ゆふう、ゆふう……まだまだあいしあいましょうねえ……?」 「………………」 親ありすはぎょっとした。 Y子まりさは妊娠もせず、冷めた目でありすを見上げているだけだった。 「ゆゆゆっ!?まりさったらつんでれさんねえええ!! すなおにかんじてもいいのよおおおおぉ!!」 「……にゃにしてるにょ?」 「ゆっ!?」 親ありすの目元に狼狽が浮かぶ。 「と、とかいはなあいにきまってるじゃない!!いわせるなんてやぼないなかものね!!」 「まりしゃ、しゅっきりちてにゃいよ。 しゅっきりならはやきゅちてにぇ」 「も、も、も、もちろんよおおぉぉぉ!! こんどはほんきであいしてあげるわあああぁ!!!」 言うが早いか、屹立したぺにぺにをY子まりさのまむまむにつき立てて顎をふり始める。 再び涎をまき散らし、親ありすは極楽浄土の快楽に身をゆだねた。 Y子まりさの胎内に精子カスタードを放出し、親ありすは愛の成就を確信した。 「ゆふう………ありすのあかちゃん、だいじにそだててね!!」 「あかちゃんってにゃに?」 Y子まりさはやはり冷めた目で眺めていた。 「ゆゆゆっ!?」 ゆっくりの交尾は、互いがすっきりすることでにんっしんっする。 仮に意にそまない強姦であっても、性欲が高く感じやすいゆっくり種はたやすくオーガズムに達し、 ほぼ100%の確率でにんっしんっに至る。 しかし、Y子まりさはにんっしんっしていなかった。 すっきりしていないのだ。 それどころか、親ありすの粘液にまみれながら、自身は粘液の一滴もしたたらせていない。 「よだれをまきちらしてるよ。みっともないね……」 「あんなけだものがとかいはをなのってるの?いなかはそうぞうをぜっするわね」 「ひとりよがりなおなにーなんだねー、わかるよー」 「せんずりー!!」 Y飾り達が蔑んでいる。 親ありすはうろたえたが、すぐに気を取り直した。 「ゆふふ!!まりさはちょっとつんぞくせいがつよすぎるわね!! ありすのてくにっくではやくでれなさああああい!!」 まむまむに舌を這わせ、体をからみつかせ、 かつて人間に教わったあらゆるテクニックを駆使して親ありすはY子まりさを責める。 しかし、どれだけやってもY子まりさには快感のきざしさえ見受けられなかった。 親ありすばかりがすっきりし、無為に精子カスタードを吐き散らすばかりだった。 「ゆふう……ゆふう……なんでえええ……… ぜつりんすぎるわああああ………」 「もういいよ!!きもちわりゅいだけだっちゃよ!!」 Y子まりさは苛立って叫んだ。 「ありしゅはじぇんじぇんへたくちょだにぇ!! しゅっきりはこうやりゅんだよ!!」 Y子まりさは舌を伸ばし、親ありすの体に這わせた。 「ゆふんっ」とよがり出す親ありすの体を慎重に丹念に調べていき、 親ありすの反応が強くなる部分を確かめると、 その性感帯を、バイブレーターのように舌を動かして攻めはじめた。 「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆほほほほほほほほほおおおおおお!!!」 たちどころに親ありすはすっきりさせられた。 それでも休むことなく、Y子まりさの舌は別の性感帯を探り当て、再び振動を始める。 「ゆっほほほほほおおおお!!!ずっぎりいいいいいぼうやめでええええええ!!!」 子ゆっくりに、しかも舌だけですっきりさせられるという屈辱に顔を歪めながら、 衆目の注視のもと、親ありすはのたうちまわりながら何十回もすっきりさせられた。 自らの精子カスタードの海の中でぐったりしている親ありすに向かって、 Y子まりさは言い放った。 「こりぇはいちびゃんきほんてきにゃてくにっきゅだよ! こんにゃのでこんにゃにしゅっきりしゅるゆっきゅりははぢめちぇだよ!!」 Y飾り達がせせら笑った。 恥辱に歯噛みする親ありす。 「ありしゅのきゃお、しゅっごくばきゃみたいだっちゃよ。 ちょきゃいはにゃあいをうけちょっちぇにぇええええ~~!!」 親ありすの顔真似をして、 子まりさは歯をむき出し舌をへろへろさせてみせる。 Y飾り達ばかりか、群れのゆっくりまでが笑いだした。 「ありしゅはちょっちぇもちょかいはだにぇ!! こんにゃにわらわしぇちぇくれちゃもんにぇ!! でみょ、でおちだきゃらもうにどとやらにゃくちぇいいきゃらにぇ!!」 笑いながら、子まりさは群れの元に帰っていった。 親ありすは地面に突っ伏して泣きじゃくっていた。 「ぱちゅりーはもりのけんじゃなのよ!」 最後に叫んだのは、群れの参謀役を務めていたぱちゅりーだった。 「……ぱちゅりーはなにができるの?」 「ぱちゅりーのちしきはぼうだいなのよ。 このほうふなちしきで、ぱちゅりーはむれをゆっくりさせてきたわ。 あなたたちもゆっくりさせてあげられるわよ!」 「はいはいゆっくりゆっくり……」 いい加減うんざりしているらしいY飾り達だったが、 それでもまた相談を始めた。 群れの中から選ばれて進み出たのは、またも子ゆっくり。 「じゃおおおおおん!!」 めーりん種だった。 「むきゅぅぅ!?」 「このこよりちしきがあったら、ゆっくりできるとみとめてあげるよ!!」 「むきゅう!ばかにしないでよ!」 ぱちゅりーは怒った。 子ゆっくりの、それもめーりん。 めーりん種は希少種の一角だが、 「じゃおーん」という鳴き声しか発せられないために、 ゆっくりの中では蔑まれ、苛められている。 そんなめーりんと知恵比べをさせられるという状況が、 ぱちゅりーのプライドを傷つけていた。 「こんなばかがぱちゅりーのあいてになるわけないでしょ!? しょうぶするならほかのにしなさいよ!」 「はいはい、はじめるよ。 まりさがしつもんをするからゆっくりこたえてね!!」 そう言い、Yまりさが二匹の前に立った。 「それじゃだいいちもんだよ!! 「みろのびーなす」のみろは、なにからつけられたなまえ?」 「むきゅ?」 ぱちゅりーは首をかしげた。みろのびー、何? 何を言ってるのかよくわからない。 隣では、Y子めーりんが鉛筆を咥えてスケッチブックに何か書きつけていた。 書きつけたスケッチブックを差し上げ、Y子めーりんが高らかに叫ぶ。 「じゃおおおん!!」 スケッチブックには、「発見された島の名前」と書いてあった。 「ゆっ!めーりん、せいかいだよ!!」 「じゃおおおぉん!!」 「ま、ま、まちなさいよ!」 ぱちゅりーは叫んだ。 「も、もんだいのいみがわからないわ!ひきょうよ!」 「なにがひきょうなの?」 「いみがわからないって……まさか、みろのびーなすをしらないの?!」 心底驚いたという風で聞き返してくるY飾り達。 ぱちゅりーは言葉につまり、必死に取り繕った。 「ちょ、ちょっとめんくらっただけよ! こどもあいてだからようすをみたのよ!」 「そうだよね!!つぎはほんきをみせてね!! だいにもんだよ!! せかいいちめんせきのひろいさばくは?」 さばく? その意味をなんとか推測しようとしているうちに、 Y子めーりんがまたもスケッチブックを差し上げて叫んだ。 「じゃおおおん!!」 「さはらさばく!めーりん、せいかいだよ!!」 「むっきゅうううぅぅ!!?」 その後、何回にもわたってぱちゅりーの自信は粉々にされていった。 「せかいしぜんいさんにはじめてにんていされたのはどこ?」 「がらぱごすしょとう!めーりん、せいかいだよ!!」 「えんしゅうりつの、しょうすうてんだいじゅういのすうじは?」 「ご!めーりん、せいかいだよ!!」 「せかいでいいちばんながいきょくはなに?そのえんそうじかんは?」 「えりっく・さてぃの「う゛ぇくさしおん」、じゅうはちじかん!めーりん、せいかいだよ!!」 「ぱちゅりー、さっきからぜんぜんこたえてないよ!!どうしたの!?」 「む、む、むきゅうぅ……!」 「もしかしてひとつもわからないの!?」 ぱちゅりーは涙目になり、ぎりぎりと歯を食いしばるしかなかった。 「………ゆっくりわかったよ。もういいよ。 めーりん、もどってきてね。よくやったね!」 「じゃおーん」 テンションの低い鳴き声を上げ、 いかにも無駄な時間を過ごしたというようにY子めーりんは仲間の元に跳ねていった。 「ほかにゆっくりできることはないの?」 Yまりさが群れを見渡したが、もはや答えるものはいなかった。 何をしようとせせら笑われるだけだとわかった今、 挑戦しようという気概はすでに消え去っていた。 「ゆ、ぜんぜんだめだったね。 かわいくないし、おうたもしらないし、よわいし、すっきりもへただし、あたまもわるいよ。 そんなんでだれをゆっくりさせるつもりなの? そんなゆっくりできないいきものはなかにいれられないよ!!」 群れのいずれもが、プライドを完全に破壊されて泣きじゃくっていた。 その後、群れは泣き喚いて懇願したが、 Y飾り達に体当たりを受けて転がされ、拒絶された。 扉は閉まり、ほどなくしてガラスの壁は元の鏡に戻ってしまった その晩、群れは岩場の真ん中ですすり泣きながら眠った。 「よしよし、うまくいってるね」 「おいおい、なんなんだ、このゆっくり共は……」 「ハーバード大学のほうで実験してたゆっくりでね、 ま、ちょろちょろっと改造してみただけ。 ゆっくりの潜在能力っていうのはすごくてね、 ちょっとリミットをいじってやるだけでいくらでもすごい事ができるようになるよ」 「言葉もないな」 「このゆっくり達を使って、自尊心と価値観を徹底的に壊し、洗浄する。 まずこれをやっておかないと、何を教えようとしても無駄だからね。 第一段階は順調ってとこかな」 続く
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※初投稿 ※設定注意 モンスターゆアレント 1 季節は初夏。 野生のゆっくりたちは長かった梅雨が明けた事に全身で喜びを示すように山林を駆け回っていた。 気の早いセミの声を聞きながらこの一匹のれいむもまた、日の光を体いっぱいに浴びて散歩を楽しんでいる途中だった。 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 突然かけられた挨拶に反射的に定型句を口にするれいむ。 振り返ると、とてもゆっくりしたまりさが茂みの中から姿を現した。 一目でれいむはまりさの逞しさに惹かれ、まりさもれいむの美しさに惚れた。 「「ずっと一緒にゆっくりしようね!!!」」 二匹は息を吐く間もなく求婚し同時にそれを成立させた。 ゆっくり達は一般的に春と夏に番を作る。 厳しい冬篭りや梅雨時の通り雨で失った仲間の数を補うように子を儲けるのだ。 そこには厳しい自然の中で培われた本能的な部分があったのかもしれない。 まりさは頬を上気させて顎の中心からぺにぺにを突き勃てた。 「ゆっふ~ん…まりさはもう辛抱たまらないんだぜ!」 「ゆゆっ! 駄目だよまりさ、もっとムードがあると・こ・ろ・で・ね(はぁと」 れいむの方も受け入れ態勢完了といった次第で流し目を送っている。 まりさは俄然やる気を見せ、れいむを自分の巣へと誘った。 「「んほぉぉぉおおぉぉ~~~~すっきりぃィィ~~~~~~!!!!」」 その日、れいむはまりさの子供を体内にんっしんっした。 2 この地方の梅雨明け宣言がされてから一週間が経とうとしている。 そろそろいい具合かな、と虐待鬼井惨である男は行動を開始した。 人里にほど近い山の中を適当に練り歩きながら、最近のマンネリなゆっくり虐待を打開すべく 考えを煮詰めに煮詰めた新しい虐待プランを思い浮かべて口角を吊り上げる。 「ゆっ……ゆっく……頑張……!」 どこからかゆっくり特有の甲高い声が耳に届いた。 男は声がした方に足を向けて急ぎ駆け出す。 少し背の高い草の乱暴に掻き分けて進むと、目の前の樹の虚から件の声が発せられた。 「ゆふぅうううぐるじぃいいいいいいい!!!」 「頑張るんだぜれいむ! 可愛いまりさのちびちゃんを生むんだぜ!」 そのゆっくりの声に男は嬉しそうに破顔した。 「なんて運がいいんだ俺は」 呟くや否や、その樹の虚へと野球選手顔負けのヘッドスライディングを決める。 「ゆっ!!?」 「ゆぎぃいいい、おちびちゃん早く生ばれてねええええええ!!」 まりさは突然現れた男に驚き硬直。 れいむはそれに気づかず出産の痛みに耐え続けている。 男はざっと巣の中を確認し、妊娠していないまりさを両手で鷲づかみにする。 「ゆっ!? なにするんだぜ!!? 離せジジイいぃぃ!!!」 「ゆぅうう騒がじいよまり…どぼじて人間さんがいるのおおおおお!!?」 ようやくれいむは男に気づいたようだが、目を丸くするだけで産気づいた体は動けはしない。 まりさは尻をぶりんぶりん振りながら男の両手から逃れまいとするが、抵抗は敵わなかった。 「いつもなら虐め抜いてあげるんだけど、今日はにんっしんっしたゆっくりに用があるんだ。 残念だけど、じゃあね~まりさちゃん」 「ゆぎゃああああああああああ!!!」 「ばりじゃああああああ!!?」 男は極めて作業的にまりさを真ん中から半分に引きちぎった。 饅頭に変わり果てたまりさをそのまま巣の外へと投げ捨てる。 愛しのダーリンの死にれいむは絶叫した。 「どぼじてぞんなごとずるのおおおお!!?」 「それは俺が虐待鬼井惨だからさ!」 「意味がわがらないいいいいいい!!」 滝のように涙を流し慟哭するれいむ。 だが男はそんなれいむに構うことなく次の行動に移る。 「それにしてもツイてたなぁ。 体内にんっしんっしてるゆっくりが手に入れば恩の字だと思ってたのに、 まさか出産の真っ最中のゆっくりと会えるなんて」 男は独り言を口にしながられいむの飾りのリボンをしゅるりと解き、それで自分の髪を結った。 「でいぶのお飾りざん返じてぇええええええ!!」 「嫌だよ」 「どぼじてごんなごとするのおおおおお!!? おにいさんはおにいさんでしょおお!??」 「男がリボンで何が悪い」 「悪いに決まってるでしょおおお!? 馬鹿なの!? 死ぬの!??」 「死ぬのはれいむちゃんだけどね」 「でいぶは死にたくないいいいいい!!?」 「安心しなよ、おちびちゃんは俺が育ててあげるからさ」 言って、男はれいむのつむじを人差し指で突いた。 「ゆぐっ!?」 「加工所秘伝の強制出産のツボを突いた。お前はもう生んでいる」 「ゆびゃぼおおおおおお!!!」 れいむのまむまむから黒い三角帽を被った赤まりさがスポーンと小気味良い音と共に噴出される。 男は瞬時に体を動かす。 まずれいむを思い切り蹴り飛ばして巣の奥に叩きつける。 これでれいむは死んだか、生きていてまとも動けはしまい。 それから緩やかに滞空する赤まりさを手で優しく受け止め、素早く帽子を奪ってポケットに隠した。 もぞもぞと手の中で震える赤まりさ。 男はそっとまりさを地面に下ろす。 赤まりさは円らな瞳を開き、男の顔を見てお馴染みの第一声を上げた。 「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ! おきゃあしゃん!」 赤まりさは男の顔を見て母と呼んだ。 最初に目にした生き物を親だと思いこむ『インプリンティング』である。 しかし餡子脳しかもたないゆっくりとはいえ、素の状態であればこのような現象は起こらない。 男が親のリボンをつけていたが故に刷り込みがなされたのである。 「おちびちゃん、ゆっくりしていってね!」 男は赤まりさにそう答え、計画通り物事が進んでいることに顔をにやけさせた。 「ゆっ……ゆ……」 か細いゆっくりの声が巣の奥から聞こえてくる。 れいむだ。まだ生きているとはしぶとい奴め、と男は半眼をそちらに向けた。 「ゆっくち! おかぁしゃん、ゆっくちおなかがすいたよ!」 帽子のない、目の開かないうちに帽子を奪われて それが無いことに違和感も感じない赤まりさが空腹を訴えてくる。 男はにやりと笑い、 「それならお饅頭を食べようね! あまあまさんはゆっくりできるよ!」 皮がぶち破れて虫の息のれいむを赤まりさの前に置いた。 「ゆ……れいむのおちびちゃ……」 「さぁ遠慮しないで食べてね!」 「ありがちょう、おかあしゃん!」 皮の破れた箇所かられいむの中身を食べていく赤まりさ。 れいむは激痛に白目を剥き、舌をピンと巣の天井に伸ばした。 「む~ちゃむ~ちゃ…ちちちちちあわしぇええ~~~~!!!」 「だってさ、良かったねれいむちゃん」 男はボリュームを絞って赤まりさに聞こえない声量でれいむに話しかける。 「ゆがぁあ…じ……じねぇ…ジジィをおかあさんって呼んで……でいぶのあんこ…さん食べるゲスはじねぇ…」 れいむは怨嗟の言葉を紡ぎ、暫くして物言わぬ饅頭となった。 最愛のパートナーと結ばれて生んだ子供に、ただの饅頭だと思われ食われていく。 れいむの内心を慮ると男は愉快で堪らなかった。 「ゆふぅ~もうおなかいっぴゃいだよ! まりさはおねむだよ! スピースピー……」 満腹になった赤まりさは即座に眠りに就いた。 ゆっくりというのは不思議なナマモノである。 眠る宣言をして1秒もせずに寝れる生物などこの世にゆっくりをおいて他にいないだろう。 少し羨ましいくらいだ。 男は実の親の餡子の中で寝ている赤まりさを手に乗せて、我が家へと戻った。 3 男が赤まりさを家に連れ帰って一週間が経った。 帽子が無くとも他にゆっくりがいない家の中では関係ない。 まりさは自然ではお目にかかれない甘い餌を与えられてすくすくと育った。 同時に男はまりさに事あるごとに「さすがれいむのおちびちゃんだね」「おちびちゃんは特別に可愛いね」 などと甘言を吐いてまりさを増長させた。 まりさはこの一週間で脅威的な早さで子ゆっくりにまで育ち、 「きゃわいくってごめんね」が口癖の虐待鬼井惨でなくとも潰したくなるウザイ性格をした饅頭になっていた。 「さて、そろそろかな」 「ゆっ? おきゃあしゃんどうちたの?」 男の言葉に体は子ゆっくりになっても心は赤ゆっくりのままなまりさが反応する。 「おちびちゃん、今日は可愛いおちびちゃんをみんなにお披露目しに行くよ!」 「ゆゆっ? みんにゃってなんなにょ?」 「おちびちゃんはずっとこの巣に居たから知らないだろうけど、れいむ達以外にもいっぱい仲間がいるんだよ。 みんなはれいむ達みたいにゆっくりはしてないだろうから、おちびちゃんを見てもらってゆっくりしてもらうよ!」 「ゆっ! きゃわいくってごめんね!」 まりさが尻をぷりぷりと振る。これがこの饅頭の中でとびきり可愛い仕草らしい。 男はいつもこの仕草を見るたびにまりさを潰しそうになったが、この後のカタルシスの為に我慢をしていた。 だが、もう限界である。 「さぁ、おちびちゃんはお母さんの手に乗ってね」 「ゆゆ~ん、お空を飛んじぇるみちゃい~」 男はまりさを連れて再び山へと赴いた。 そして事前に調査していたゆっくりの群れの方へと足を進めていく。 その道中で、男はぴたりと足を止めた。 「ゆゆ? おきゃあしゃんどうちたの?」 「おちびちゃん、お母さんちょっと疲れちゃったよ。 ここからもうちょっと行くと広場があって仲間がいっぱいいるから先に行っててね!」 「ゆぅ~、まりしゃおきゃあしゃんから離れたくないよ…」 「おちびちゃんは可愛くて勇敢なれいむの子供でしょ! それくらいできるよ!」 「ゆっ! しょうだね! きゃわいくってこめんね!」 男がまりさを地面に下ろすと、まりさはバチンとウィンクし、ぴょんぴょん跳ねて先に進んでいった。 その後を男が緩慢につけていく。 子まりさは遠くに自分と同じような饅頭を数匹見つけると急ぐように近寄っていった。 母以外の初めての同種。 仲良くできるかな? 可愛い過ぎるから妬まれたりしないかな? 不安と期待を胸に声をかけた。 「ゆっくちしていってね!」 「「「ゆっくり……ゆっ!?」」」 ゆっくりの憩いの広場として活用されている山の中の少し開けた場所。 そこで雑談に興じていたれいむ・まりさ・ありすの三匹は突如現れた飾り無しゆっくりに驚いた。 次いで、湧き上がってくるのは異常なまでの嫌悪感。 ゆっくりは飾りの無いゆっくりを極度に嫌う。 飾りの無いゆっくりは排斥されて当然。殺されて当然な存在だった。 だから、 「飾りのない変な子はゆっくり死んでね!!!」 「ゆぎゃん!」 三匹の中で比較的気性の荒いまりさが自分より小さなゆっくりに容赦なく体当たりを決めたのは、 これもまた当然の帰結だった。 飾りの無い子まりさは五回ほど地面を転がされ、仰向けに止まった。 なんだ、何をされた? 生涯初めての痛みに子まりさは理解できなかった。 なんであのおねえちゃんは攻撃してきたのだろう? 分からなかった。 当然である。 子まりさには飾りの有無の重要性など知る由がなかった。 ただ、ただ理不尽。 涙がボロボロとこぼれ、悲鳴が上げる。 「やんやあああああああああ~~~~いちゃいよぉおおおおおおお!!!」 「うるさいクズだぜ!」 「まりさ! さっさと変な子を潰しちゃってね!!」 「すっきり殺してあげてもいいわ!」 子まりさの泣き声など我関せずといった態でまりさは更に追撃する。 見たところ目の前の変な奴は弱いようだ。 まりさはもみあげでビンタするように子まりさをはたく。 致命傷を与える攻撃ではない。 ただ弱者を嬲るだけの攻撃。 それでも子まりさには恐ろしくて、そして痛かった。 「ゆやああああ~~~!! やめちぇえええええええ!!!」 「おお、うるさいうるさい」 「ゆぷぷぷ、泣いてる馬鹿みたいだね!」 「ゆっほおおお、SMプレイなのねぇ」 ベシベシとはたかれる子まりさの頬が赤く腫れてきた。 子まりさは渾身の力を込めて叫ぶ。 「たしゅけてえええええええ!!! おきゃあしゃあああああああああんん!!!」 その瞬間、子まりさへの攻撃が止まった。 子まりさが顔を上げると、そこには男の姿があった。 「おかあしゃん!!」 「どうしてれいむの子供を虐めてるの!? 馬鹿なの、死ぬの!?」 男は足の裏でまりさを死なない程度に踏み潰して詰問した。 しかし、まりさは痛みで呻き声しか上げられない。 それを見ていたれいむとありすが抗議する。 「れいむたちは飾りのない変な子をせーさいしてたんだよ! はやくまりさを離してね!!」 「いなかもののれいむ! 早くまりさを離しなさい!! とかいはじゃないわ!!」 今ありすは男のことをれいむと呼んだ。 これも今男が髪に結わえるのに使っているれいむのリボンのおかげである。 ゆっくりは髪飾りで個を認識する。 髪飾りをつけるだけで人間はゆっくりに化けることが出来るのである。 ゆっくりとはつくづく愚かだな、と嘲笑しながら男は演技を続ける。 「どこが変な子なの? れいむの可愛いおちびちゃんなんだよ! 謝罪と賠償を要求するよ!」 「飾りが無い子は変な子でしょおおおおおおおおお! 早くまりさを離してねえええ!!」 「いなかものはゆっくり死ね!!」 ありすが男の足に体当たりをしてきた。 べたんべたんと成体ゆっくりの体重分の衝撃はあるが、男にはむしろマッサージのように心地良い。 が、あまり嘗められるのも計画に支障が出るのでありすをつかみ上げ、 「おちびちゃんを虐めるゆっくりは許さないよ!」 「ゆぐっ!!!」 顔面から地面に叩き付けた。 ありすの口から前歯が飛散する。 「ありずぅううううううううう!!」 「れいむは強いんだよ! 分かったら群れの偉いゆっくりやみんなを連れてきてね! 謝罪と賠償を要求するよ!」 ありすは力なく地面に横たわって震えている。 れいむはそんなありすと男の足元で潰されかかっているまりさを見て目の前のれいむに勝てないことを悟った。 「早く群れのみんなを呼んできてね! 早くしないとまりさをゆっくりさせなくするよ!」 「ゆ、ゆゆゆ~っ!!」 れいむは男の言葉に従い一目散に群れの方へと跳ねていった。 「おきゃあしゃんは強いんだにぇ!!」 子まりさは男に羨望の眼差しをきらきらと向けていた。 「ゆっふん、れいむは世界一強いんだよ!」 男が答えると子まりさは勢いづき、男の足元に敷かれているまりさに体当たりを始めた。 「まりしゃがきゃわいいからってひどいこちょするにゃんて! ちね! ゆっくちちね!!」 「ゆぎぎぎぎぎぃ!!!」 子まりさの攻撃はまりさにとって大した効果はなかったが、著しく自尊心を傷つけた。 このまりさ様がでいぶに負けて、こんな変な奴に好き勝手体当たりされるなんて! まりさの瞳に憎悪の炎が燈る。 男は更にその炎を煽るために子まりさに指示を出す。 「汚いまりさだね! おちびちゃんのしーしーで洗ってあげたら?」 「ゆっ! それはいい考えだにぇ! まりしゃお姉ちゃんはまりしゃのきゃわいいしーしーで身も心も綺麗になってにぇ!」 「ゆがああああああああああああああ!!!」 子まりさの暖かい放尿がまりさを濡らしていく。 尿はそのまま地面に溜まり、地に伏しているまりさの顔を汚した。 まりさは憤死しかねないほど全身を赤くして咆哮する。 男はその声をさも可笑しそうに聞きながら、れいむが呼びに行ったゆっくりの群れを待つ。 「さぁ、モンスターゆアレントごっこの始まりだ」 つづく? ※髪飾りなどの考察は他の作者様から頂いております。 初投稿です。 なんか文体おかしいし面白いのか微妙… 一応テーマである「人間がゆっくりの親になってモンスターペアレント」を 少しは消化してるので、このまま終わっても問題ない形にはなっていると思います。 この後の展開も考えてはいますが…SSって難しいなぁ… 挿絵:儚いあき
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序 見渡す限り緑の山が広がっている。 青い若葉をつけた木々が山の斜面を覆っていた。 山々から突き出た一際高い峰には、まだ冬の名残が白く残っている。 川は、森を貫いて南北に走っていた。 大きな川とその支流に鉄橋がかかり、その上を国道が走る。 鉄橋の上を走る道路は、トンネルへ繋がっていた。 反対側の出口からは、スノーシェッドが伸びている。 コンクリートと鉄骨でできた骨組みだった。 トンネルを抜け出た後、しばらく道路の上を覆って建てられている。 雪崩が起きても、強固な屋根が道路を走る自動車を守ってくれる。 その中を一台の車が走っていた。 ワゴンタイプで、運転席には一人の男が座っている。 横顔に鉄骨の影が映っては流れていく。 男はこの先にある小さな丘に向かっていた。 もう何度もそこを訪れていた。 何の変哲もない、どこにでもある丘のうちのひとつだ。 男は地元のドライブインに勤めている。 休みの日にドライブに行く振りをして、こうして森の中へ向かうのが楽しみだった。 ゆっくりを虐待することが生きがいのようなものだった。 骨組みの途切れたところで、男は車を停めた。 道は緩やかにカーブして、周囲を林に囲まれている。 ここから少し歩いたところに目的地はある。 車を下りて、草むらの中を歩いた。 少し前にも、こうしてここを訪れたことがあった。 あの時連れ帰ったみょんは、まだ家の中にいる。 大人しいもので、最近はついそこにいることを忘れそうになる。 帰ったら久しぶりにちょっかいをかけてみるかと男は思った。 草むらの真ん中で男は足を止めた。 この先にはゆっくりたちの群れがある。 再びそこを訪れようか、それとも今日はこのまま帰るか。 男はポケットに二つの飴が入っていることを思い出した。 確か赤と青の二種類があったはずだ。 他愛もない遊びだ。 どちらか一つを取り出して、赤なら訪れる、青なら帰る。 男の手はポケットの中で二つの飴をまさぐっている。 一ヶ月前ここに来た時も、こうして二つの飴を選んだ。 ただし、それを選んだのはあのみょんだ。 男がそうさせた。 男は飴を取り出した。 手の中のそれは、紫色をしていた。 少し笑って、考えるそぶりを見せた。 どうしようか? 男は逡巡を楽しむようにゆっくりと辺りを見回した。 この群れであったことを、思い出していく。 あれは、一ヶ月前のことだった。 1 一ヶ月前。 木々がようやく芽吹き始める頃。 日差しが暖かさを増して、朝夕に土から立ち上ってくる匂いが春を告げている。 この群れでは、大小三十匹程度のゆっくりが暮らしていた。 今はそれぞれが土の中から顔を出し始めた虫を狩りに出かけたり、すっきりに勤しんでいる。 れいむはまりさを待っていた。 巣穴の前でのーびのーびをして、木々の奥をさかんに覗いている。 待ち遠しくて仕方ない様子だった。 すぐに、れいむの見ている場所の茂みから小さな黒いものが姿を現した。 こちらへ跳ねてくる。 まりさだった。 まりさは上機嫌だった。 れいむも待ちきれずに駆け出した。 跳ねながら叫ぶれいむに、まりさもおさげを振って応える。 「まりさ、おそいよ! おなかぺこぺこになっちゃったよー!」 「れいむ、ごはんさんとってきたよ! いっしょにむーしゃむーしゃしようね!」 れいむは狩りができなかった。 まりさが狩りに行っている間、巣の中でおうたを唄っていた。 待ちきれなくなって様子を見に外に出たところに、まりさが帰ってきたのだった。 狩りはまずまずの成果だったようだ。 まりさが開けた帽子の中には木の実や虫がどっさり詰まっている。 土の上にこぼれ落ちたそれらを、れいむは見境なく食べ始めた。 「むーしゃむーしゃ! うめっ! これめっちゃうめっ!」 「れいむ、おうちについてからゆっくり食べようね」 「ゆゆ、そうだね! ふたりで食べたほうがおいしいもんね!」 二匹はいそいそと巣穴の中に潜り込んだ。 巣は土に穴を掘っただけの簡単なものだ。 二匹が入るとそれだけで一杯になってしまう。 「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」 笑顔でご飯を食べる二匹。 顔を突き合わせて、二匹の間に置いたご飯を少しずつ口に運んでいく。 その日が幸せなら、どんな場所でもゆっくりは幸せなのだった。 そんな二匹にも、悩みがあった。 おちびちゃんがいないのである。 「れいむ、もうからだはだいじょうぶ?」 二匹は数週間前に一度すっきりーをしていた。 れいむに生えた茎に実ゆがつき、おちびちゃんの誕生を二匹は待ち望んだ。 しかし、れいむの餡子をたっぷり吸って丸々と大きくなった四匹の実ゆは、 北の空っ風に吹かれて、運悪く茎から落ちてしまった。 地面に叩きつけられた四匹は、全て餡子を飛び散らせてゆっくりした。 目の前でそれを見たれいむは、ひどく悲しんだ。 待望のおちびちゃんが、不幸な事故で、生まれる前にゆっくりした挨拶もできずに飛び散ってしまったのである。 初めての子供を期待していただけに、そのショックも大きかった。 ご飯も喉を通らず、砂糖水の涙を滝のように流して泣いた。 まりさにも当たり散らした。 まりさは、たったひとりのつがいがそのように悲しんでいるのを見ていられなかった。 弱って動けないれいむに餌を運んだ。 その間すっきりもできないので、持て余したむらむらをひとりすっきりーで発散させたりもした。 その甲斐あってか、徐々にれいむは元気を取り戻し、失った餡子も回復してきている。 れいむ自身も、そろそろもう一度、まりさとすっきりしたいと考えていた。 当ゆんたちから見れば、いまだ授からぬおちびちゃん以外、何一つ不満のない生活だった。 二匹がご飯を食べていると、遠く丘の上のほうからゆっくりたちのわっという歓声が聞こえてきた。 「ゆゆ? なんだろう?」まりさが外をのぞく。 れいむも外を見た。 ちょうど自分の分を食べ終えて、まりさの隣に並ぶ。 狭い入口に二匹が並ぶと、お互いに変な形に潰れて窮屈そうだった。 「なにかあったのかな?」 「いってみようね!」 二匹は連れ立って丘の上に向かった。 まりさはれいむの体を心配したが、もう大丈夫とれいむが言うと、まりさも頷いた。 なだらかな斜面をぽよんぽよんと登っていく。 国道沿いの林の周りには草むらが広がっている。 そこから群れのある森が広がり、丘をぐるりと囲んでいる。 反対側は崖になっていた。 丘の上には、一本の大きなイチョウの木があった。 冬の間に芽を伸ばし、今は若葉が枝に開いている。 れいむたちは丘の上に着いた。 声はそこから聞こえてくる。 たくさんのゆっくりたちが集まって大騒ぎになっていた。 大きなイチョウの根元にまりさや、ちぇんや、ありすなどがいる。 他にも数え切れないほどのゆん数がいる。 群れの全員が集まっているのではないかというほどだった。 その中心に、れいむは見慣れないものがいるのに気付いた。 それは非常に背が高かった。 森の木々に比べれば低いが、集まったゆっくりたちよりはるかに大きい。 その顔は地上からはるか上にあり、ゆっくりたちを見つめている。 顔から下にはぼんやりと白く霧のようなものがかかっていて、 目を凝らしてもよく見えなかった。 れいむの知っている、どのゆっくりとも違った。 まりさやぱちゅりーたちのように、顔の横におさげがない。 おかざりやぼうしを着けているわけでもない。 長ぱちゅりーの話にたまに出てくる、「人間」と言うやつかもしれない。 それはとても恐ろしく凶暴で、ゆっくりたちのことをよく潰してまわっているそうだ。 なんだかゆっくりできないやつだな、と思った。 れいむはそれが本当に人間かどうか判断がつかなかった。 いまいち、ぴんと来ない。 森の獣が恐ろしいのは知っていても、人間など一度も見たことがない。 人間の手からは、あまあまが落ちてくる。 白い霧からにゅっと空中に突き出されたあまあまが地面に落ちると、いっせいにゆっくりたちが群がる。 そのたびに歓声が上がった。 れいむたちは、ゆっくりたちの輪に近づいた。 とても人間には近づけないくらい、混み合っている。 その混雑の中に長ぱちゅりーがいた。 ひどくあせっている様子だった。 喉が張り裂けそうな大声をあげて、何ごとかを訴えている。 「まって! みんな!」ぱちゅりーが叫ぶ。 「にんげんさんからもらったものを食べてはだめ!」 ゆっくりたちは聞く耳を持たない。 あまあまに殺到した一匹のゆっくりが押し合いになって転がり、ぱちゅりーにぶつかりそうになった。 帽子に傷のあるまりさが、さりげなくぱちゅりーを押して避けさせたのをれいむは見た。 まりさが長ぱちゅりーに声をかけた。 「おさ、どうしたの?」 「まりさ、あなたからもみんなに ちゅういしてちょうだい。 にんげんさんは、とってもきけんなのよ! すぐに にげなきゃだめよ!」 「ゆ? なんで?」 れいむは平気な顔をしている。 いきなり現れてあまあまをくれるなんて、いい奴に決まってるじゃないか。 長ぱちゅりーがなぜむきになるのかわからない。 今危険でないなら、これからも危険ではないだろう。 大抵のゆっくりも似たようなものだった。 「なんでかはわからないけど、とにかくきけんがあぶないのよ!」 出所のわからない衝動に突き動かされて、ぱちゅりーは叫んだ。 遠い親の親から受け継いだ、かすかな記憶が警告を発している。 「人間から離れろ」という警告だった。 しかし、それはすでに遅かった。 最初の犠牲者が出た。 ぐしゃりと湿った音がする。 人間の手から差し出されたクッキーに顔を近づけて受け取ろうとしていた一匹のまりさが、人間の翻した拳に潰された音だった。 全ゆんが静まり返った。 ぽかんと人間を見上げている。 れいむとまりさも、その場で人間と潰されたまりさを交互に見比べている。 人間は次の獲物を探した。 ゆっくりと動き出し、まりさの隣にいたつがいのありすを捕まえる。 ごく自然に手を伸ばし、ありすを持ち上げ、地面に叩きつけた。 「ゆびゃ!」 ありすは顔の前半分が潰れた状態でまだぴくぴくと痙攣していた。 カスタードが地面に染み出してじわじわと広がっていく。 それまで絶句していたゆっくりたちがやっと声を上げた。 「……ゆ、」 目が段々大きく見開いていき、顔が青ざめる。 「ゆぎゃぁぁぁぁ! ゆっくりできないにんげんさんだぁぁぁぁ!」 ゆっくりたちは我先に逃げ惑った。 前列にいたものは後列のゆっくりの頭を踏みつけ、後ろの方で見ていたゆっくりは数メートルも丘を転げ落ちて止まった。 潮が引くように、丘の上からゆっくりたちが離れていく。 大混乱の中で、れいむは立ちすくんでいた。 まりさが必死に逃げろと叫んでいるが、耳に入らない。 その目は、いましがた二匹のゆっくりを殺したばかりだというのに何の表情も浮かべていない、人間の顔を見ていた。 人間が一歩、れいむの方へ踏み出した。 喧騒が遠く聞こえる。 れいむの世界にいるのは、自分と人間だけになった。 他には誰もいない。 人間もこちらを見ている。 自分も、あのつがいのように殺されるのかと思うと、餡子がきゅっと縮まる気がした。 その時に見たその顔が、餡子脳に深く刻み込まれた。 取り残されたれいむとまりさに、人間が近づいていく。 まりさが必死にれいむに呼び掛ける。 れいむには水中にいるようにぼんやりとくぐもって聞こえた。 人間が、また一歩を踏み出す。 その手がれいむに伸びた。 一方丘の下に逃げ出したゆっくりたちは、上を下への大騒ぎだった。 長ぱちゅりーがしんがりで声をかけて、何とか全ゆんが安全なところまで後退した。 長ぱちゅりーは、すぐに丘の上へ戻った。 長として、れいむとまりさを見捨てるわけにはいかなかった。 ゆっくりたちの輪の中から抜け出して、今や人間とれいむとまりさしかいなくなった丘の上に登る。 風に乗って、途切れがちな声が聞こえてくる。 大きくなったり、小さくなったりするが、辛うじて会話の内容は聞き取れた。 ぱちゅりーは耳をすませた。 「……にんげんさん、こっちこないでねぇぇ!」 見ると、人間が二匹の方へ歩いて行くところだった。 れいむとまりさは、最初の位置から動いていない。 逃げようにも、れいむが動けなかった。 人間は手を伸ばした。 とっさに、まりさはれいむを後ろにかばうように、人間とれいむの間に入り込んだ。 「れいむをつぶさないでね! わるいにんげんさんはこっちこないでね!」 「まりさ?」 れいむの目の前にまりさが立ちはだかる。 まりさの後頭部を見て、はっと我を取り戻したれいむは辺りを見た。 もはや群れのみんなはどこにもおらず、人間の手がすぐそばに迫っていた。 まりさの悲鳴がした。 「ゆわぁぁぁ!」 人間はまずまりさを捕まえた。 道に空き缶が落ちていたから拾ったとでもいうように、無造作につかみ上げる。 まりさが暴れてもわめいても、人間の手はがっちりとまりさをつかんで離さない。 「はなしてね! つぶれりゅぅぅ!」 「にんげんさん! まりさをはなしてあげてね! まりさがつぶれちゃうよ!」 人間は聞く耳など持たなかった。 まりさを掴みながら、れいむにも手を伸ばそうとする。 まりさは、つい先ほど無残に潰されたつがいを思い出してぞっとした。 「やめてぇぇ! れいむをころさないでね! まりさはどうなってもいいから! れいむをたすけてあげてねぇぇ!」 まりさは、つがい思いのゆっくりだった。 人間と言う圧倒的な恐怖を目の前にして、自分よりもれいむのほうを選んだ。 人間の手の中で涙をぼろぼろこぼしながら、そんなことを叫んだ。 そんなまりさを、人間は一瞥しただけだった。 再びれいむに手を伸ばすが、その動きをちょっと止めた。 小脇に抱えた紙袋の中を覗く。 それはほとんど空っぽだった。 そこに入っていたあまあまの大半はゆっくりたちの腹の中に収まっていた。 底のほうに小さな飴玉が二つ、忘れられたように転がっている。 人間は何かを思いついたように、飴とれいむを交互に見比べた。 人間がいつまで経っても何もしてこないので、れいむは縮こまっていた体を伸ばして上を向いた。 放心したような表情で、人間を見上げる。 「にんげんさん、たすけてくれるの?」 人間はそれには答えずに、袋から飴を二つとも取り出し、呆然としているれいむの前に投げた。 二つの飴は、透明なビニールの安っぽい包装に包まれた市販のものだった。 赤色と青色が一つずつある。 「お前ら、全部ぶっ潰すつもりだったが、少し残してやってもいい」 「ゆ? ほんと?」 「ああ。まりさのつがいを思う心に胸を打たれた。でも見逃して帰るのもしゃくだ。 だから、むれか、つがいかどっちか助けてやるよ」 「あ、ありがとう、にんげんさん!」 心にもないことを言う人間。 れいむはわずかな希望に目を輝かせている。 「ただし、残すのは一つだ。群れか、つがいか。お前に決めてもらう」 「ゆゆ? わかんないよ!」 「そこに飴があるだろ? 赤い飴を選べばこのまりさを返すよ。 その代わり、群れのやつらはだめだ。赤を選んだら潰す」 「なにいっでるのぉぉー!」 まりさが宙ぶらりんで叫ぶ。 人間が何をしようとしているのか全くわからなかった。 「青を選べば、群れのやつらは潰さないでやる。その代わり、このまりさは」 人間はいったん言葉を切ると手に持っていたまりさを殴る真似をした。 「ぐしゃりだ。俺はどちらでもいい。ただゆっくりを潰したいだけだ。さあ、どうする?」 「ゆ? ゆゆ?」 れいむは、今の言葉を半分も理解していたか怪しいものだった。 しきりに体を左右に傾けている。 首を傾げる動作に相当するようだ。 「ゆう……よくわからないけど、まりさをえらぶよ!」 「だめ゛ぇぇぇ!」 まりさは悲痛な叫び声を上げた。 「あおをえらんでねぇぇ! まりさのことはいいからっ! あかをえらんじゃだめぇぇ!」 「どぼじでぇぇぇ! まりざをたすけるんだよ! いっぱいーむーしゃむーしゃしようね! すーりすーりもしようね! まりさがいないと、どっちもできないでしょぉぉ!」 「だめだよ……れいむ、むれのみんなが……」 れいむははっとして後ろを振り向いた。 遠くに、恐る恐る人間とれいむたちを眺めている群れのゆっくりたちが見える。 長ぱちゅりーが何か叫んでいるが、小さくて聞き取れない。 人間は、まりさを助けたら群れの皆を潰すといっているのだった。 まりさといっしょに助かっても、群れの皆は戻ってこない。 群れを助けても、まりさは死ぬ。 れいむはまりさが大切だった。 まりさのためなら、群れなんかどうなったっていいとさえ思う。 しかしまりさは群れを選べと言う。 自分ひとりのために、群れ全体を犠牲にすることは出来ないという判断だった。 どちらを選んだらいいか、れいむにはわからなかった。 まりさはじっとれいむを見た。 無言で、青を選べと伝えていた。 それはれいむにも伝わったようだった。 「ごめんねぇ……まりさ……ごめんねぇ……」 仕方なく、れいむは青いキャンディを選んだ。 その瞬間、まりさは少し微笑んだ。 全てを許容したような笑みだった。 「ふーん、絶対つがいを選ぶと思ったんだが、まあいいや。 それよりも、このまりさは気に入った。ここで潰すより、楽しめそうだ」 人間はまりさを手に持ったまま、踵を返した。 「まってねええ! まりさをかえしてねぇぇ!」 「れいむぅぅ!」 追いすがるれいむ。 人間の手の中に宙吊りになったまりさを見上げながら、大股で歩く人間と併走する。 まりさも、空中でれいむの方を必死に見ていた。 丘を降りた人間は、草むらを突っ切って国道に出た。 停めてあった車に乗り込む。 その頃には、れいむは引き離されて、はるか遠くにいた。 「これから家に帰って、虐待フルコースだ」 「ゆわぁぁぁ!」 乱暴に後部座席に放り込まれるまりさ。 エンジンをかけて、人間が出発する。 まりさの悲鳴は、エンジンの音に掻き消されて聞こえなかった。 一人と一匹を乗せた車は段々小さくなっていき、山の向こうへ消えた。 残されたれいむと群れのゆっくりたちは、呆然としていた。 長ぱちゅりーが追いついて、れいむの様子を見て驚いた。 れいむはまるで生気を失っていた。 体中から全ての力が抜けたようになって呆然とした表情でまりさと人間が消えた方角を見つめていた。 心なしか餡子もへたっているようだった。 「れいむ?」 れいむは答えなかった。 群れのゆっくりたちが集まってきて、大騒ぎになった。 長ぱちゅりーはそっとれいむに寄り添った。 一体何が起こったのか、誰も説明できるものはなかった。 人間は甘い顔で近づいてきて、ゆっくりたちを恐怖の底に叩きいれ、嵐のように去っていった。 まりさも連れ去られた。 誰もが納得できる理由を欲していた。 自分たちの身に起こった不幸を、説明できる現象が欲しかった。 天災なら諦めもつくが、人間の行為を自然のせいにすることはできなかった。 遠巻きに見ていたゆっくりたちは、不思議に思った。 近づくだけで潰されるような、危険な人間がどうしてれいむを潰さなかったのか。 つがいのまりさは連れ去られたというのに、れいむは無事だった。 当事者のれいむは、長の洞窟に篭もりきりだった。 まりさを失くしたショックでただ虚ろな目をするばかりだった。 不憫に思った長ぱちゅりーが、自らの洞窟に一時住まわせたのだた。 多くのゆっくりが説明を求めたが、長ぱちゅりーが会わせなかった。 根掘り葉掘り聞き出すのは、餡子脳に負担をかけることにもなる。 そのうち、こんな噂が立ち始めた。 れいむは、特別なゆっくりだったんだ。 だから、人間と対峙しても生き残ったんだ。 時が経つにつれて人間への具体的な恐怖は薄れ、代わりにそれが引き起こした結果が一人歩きし始めた。 まりさとありすのつがいが殺された。 れいむのつがいのまりさも連れ去られた。 れいむだけが生き残った。 れいむ本ゆんから話が聞けない以上、事件について語るときは憶測が多くなる。 元々精度の良くない餡子脳は、自分たちに都合のいいように事実を捻じ曲げて伝え始めた。 「にんげんさん、こわかったね……」 「あのれいむは、どうしてつぶされなかったの? わからないよー」 「きっと、にんげんより つよかったんだぜ!」 「ちがうわ、れいむはとかいはな ゆっくりだから にんげんがたすけてくれたんだわ!」 「どれもちがうよ! まりさとひきかえに、むれをまもったんだよ!」 どれもこれも尾ひれのついた、罪のない噂話に過ぎなかったが、最後だけは事実に近かった。 ゆっくりたちは襲撃という大きな痛手を乗り越えようとしていた。 自分たちに起こったことが、意味のないただの人間の気まぐれだとは信じたくなかった。 そこに意味をもたせることで、辛い事実にも耐えられるのだった。 れいむは祭り上げられた。 信じたいものを信じるゆっくりたちによって、れいむは英ゆんになった。 もちろんれいむは知る由もなかった。 暗い洞窟の奥で、日がな一日ぼーっとして過ごすだけだった。 長ぱちゅりーが餌を与えると、辛うじて食べた。 このまま回復するまで、放っておいたほうがよさそうだと長ぱちゅりーは判断した。 群れのゆっくりたちは、いつも通りの生活に戻り始めている。 長ぱちゅりーは一息ついて、洞窟の床に体を落ち着けた。 まだ芽吹いたばかりの草が、外の地面に広がっていた。 それが成長した時、この群れがどうなっているのか長ぱちゅりーは静かに思いを馳せた。 2 群れは平穏だった。 一週間が経ち、何ごともなかったかのように以前の生活に立ち戻っている。 れいむたちは長ぱちゅりーの洞窟で食事をとっていた。 そこは崖の下にある横穴で、奥は村の貯蔵庫も兼ねている。 長ならつまみ食いする心配はないと信頼されているためだった。 洞窟の少し奥まったところから、何かを咀嚼する音が響いている。 「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」 「うめっ! はふはふ! むーしゃむーしゃ!」 れいむは虫や木の実を食い散らかしていた。 手当たり次第に口に運んでは、乱暴に噛み砕く。 まだ小さなミミズや、ヤスデが細切れになって地面に落ちた。 「れいむ、もっとゆっくりたべなさい、むきゅ」 「ゆっ、なんだかわからないけど、たべたいんだよ! もっともっとたべたいよ!」 「みんながもってきてくれるごはんはそんなにおおくないんだから、だいじにたべなきゃだめよ」 「わかってるよ!」 あれかられいむは、元気を取り戻していた。 以前のような生活には戻れないが、少しずつ回復している。 まりさと住んでいた家は、辛い思い出があるのでもう住めなかった。 れいむは狩りができないので、そのまま長ぱちゅりーの家に居ついていた。 長ぱちゅりーは体が弱くあまり狩りに行かない。 しかし、ご飯に困ったことはない。 群れのゆっくりたちが、代わる代わる、その日余ったごはんを届けてくれるのだった。 ぱちゅりーが長になったときに出来た奇妙な習慣だった。 豊かなこの森では、小さな群れが暮らすには充分すぎるほどの餌がとれた。 いつからか、狩りに行って余ったごはんを長に「おすそわけ」するようになっていた。 長ぱちゅりーはたいていは群れのゆっくりたちが持ってきてくれるご飯を食べ、保存のきくものは巣の奥に貯蔵する。 万一の時にはここから食料を皆に配るのだった。 皆に余裕がないときは、自分でも狩りに行くことがある。 「みんなとってもゆっくりしてるわ。しあわせー、よ」 「しあわせー!」 二匹は虫を食べ終わると顔を見合わせた。 「これからどうする? ぱちぇはかりにいってくるわ」 「れいむはおるすばんしているよ!」 よろしくね、と言って長ぱちゅりーは去って行った。 長ぱちゅりーが洞窟を出ると、れいむは狭い洞窟の中にぽつんと一人取り残された。 「おるすばんさんはゆっくりしてるね! れいむもゆっくりするよ!」 日はまだ高い。 外の日差しが洞窟の入り口から斜めに入ってきて、地面をわずかに切り取っている。 れいむのあげた声は、洞窟の壁に反響して自分の耳に帰ってきた。 れいむは特にやることがなかった。 もみあげを意味もなくぴこぴこさせたり、のーびのーびしてリボンを洞窟の天井にくっつけたりするが、やがて飽きた。 半分うつろになった目でぼんやりと外を眺めていると、一匹のゆっくりが入口から顔をのぞかせた。 「おさはいるかみょん?」 凛とした声だった。 小ざっぱりとしたみょんが洞窟を覗き込んでいる。 リボンはぱりっとして傷一つなく、銀色の髪はさらさらとゆれ、一本一本が日光に反射してきらきらと輝いている。 逆光の中でもなお美しいその姿に、れいむは一瞬我を忘れていた。 「誰だみょん!」 みょんが叫んだ。 長の住処にいる怪しいゆっくりに一瞬驚いた顔を見せたが、 すぐにれいむを見据えて厳しい顔つきになった。 怪しい動きをすれば体当たりが飛んできそうな雰囲気だった。 れいむは慌ててリボンを揺らしてみょんによく見えるようにした。 「れいむだよ、れいむ! おさのおうちにいっしょにすんでるんだよ!」 「あ……れいむ、あのまりさのつがいの……」 みょんは表情を緩めると、悲しげな顔になった。 「ごめんだみょん。みょんはあのとき、みんなといっしょに 逃げてたみょん。 にんげんに立ち向かったれいむはすごいみょん」 れいむはぽかんとしていた。 実際は何が何やらわからず、その場に残っていただけだったのだが、 いつの間にか群れではそういう評判が広がっていた。 もともと餡子脳で都合のいいことしか覚えられないゆっくりたちだから、 れいむを人間の襲来でつがいを失った悲劇のヒロインと捉える向きもあった。 れいむはあの後一晩まりさのいた巣で過ごした後、長の洞窟に移ったため、 そんな噂があることは知らなかった。 美ゆっくりにほめられて悪い気はしないれいむは、つい調子を合わせた。 「そ……そうだよ! にんげんはつよかったけど、なんとかおいかえしたよ!」 「まりさのことは、ざんねんだったみょん」 「ゆ……」 「元気をだすみょん。ゆんごくのまりさも、れいむをたすけられてよかったとおもってるみょん」 れいむの顔は曇った。 やはり、まだまりさを失ったダメージが残っているようだった。 みょんは空気を変えようと続けた。 「これ、みょんはひとりものだから、いつもかりをするとご飯さんがあまるみょん。 おさに持ってこようとおもったけど、れいむからおさに渡してほしいみょん」 「ゆっくりわかったよ!」 みょんはリボンの隙間から木の実を取り出してれいむに渡した。 長ぱちゅりーから要求したことは一度もなかったが、こうして若い健康なゆっくりは、たいてい長のところにご飯を運んでくるのだった。 用事が済むとみょんは帰って行った。 去り際に、みょんの残したホワイトチョコの甘い香りが洞窟の中にふっと漂った。 れいむは、会ったばかりのみょんがなんだか気になっていた。 呆けたような顔でみょんの出て行った入口を眺める。 ぼんやりと呟いた。 「みょん……どこにすんでるんだろう? またあえるかな?」 長ぱちゅりーが帰ってくると、れいむはみょんが来たことを報告し、木の実を渡した。 「あのこ はいつも、ご飯をもってきてくれるのよ。 つがいもいないのに、よくやってくれてるわ。すごくゆっくりしたゆっくりよ」 「またくるかな、ぱちゅりー」 「たいようさんが しずんで、またのぼってくればあえるわよ」 「ゆわー……ゆゆ、なんでもないよ!」 れいむは慌ててもみあげで口を塞いだ。 ぱちゅりーにみょんのことが気になっていると知られるとなんだか恥ずかしい気がした。 ぱちゅりーはきょとんとしていた。 その次の日、長ぱちゅりーが出かけ、れいむが巣に残っていると、みょんがやってきた。 「おさはいるかみょん?」 「みょん、ゆっくりしていってね!」 れいむは木の実を受け取ると、みょんに聞いてみた。 「みょんはいつからご飯をとどけにきてるの?」 「みょんは このあいだ、はるさんがきたときに ひとりだちしたみょん。 さいしょは うまくむしさんを とれなかったけど、だんだんご飯がいっぱいとれるように なってきたから、 おさにわけて あげるんだみょん」 「みょんはすごくゆっくりしてるね!」 れいむが思わず叫ぶと、みょんは面映ゆいような表情で、 「おさはみんなのやくに立ってくれてるみょん。みょんたちもおんがえししなきゃいけないみょん」と言った。 れいむは、みょんのその言葉を健気だと思った。 自分のことはさておいて、一人で狩りをして群れの事も考えているみょんを素直に偉いと思った。 「れいむは、かりができないからみょんはすごいとおもうよ!」 「そんなことないみょん……」 みょんの白い皮がさらに白くなり、白いチョコが透けて見えた。照れているようだった。 それを隠すようにやや強い口調で、 「れいむはおさとすんでるみょん?」と訊いた。 れいむは少し顔を背けた。 「うん……おうちにいてもかなしいし、かりもできないから…… おさにはほんとに良くしてもらってるんだよ」 「そうかみょん、おさはやっぱりもりのけんじゃだみょん」 みょんは長のことを尊敬しているようだった。 れいむも頷いた。 長のところで暮らすことも始めは不安だったが、分け隔てなく接してくれる長ぱちゅりーは優しかった。 まりさの辛い思い出も、消えないけれど楽になっていくような気もした。 「じゃあ、もういくみょん」 「あ……」 とれいむが声を上げたが、すぐに「なんでもないよ!」と言ってごまかした。 みょんはにっこり笑って跳ねて行った。 れいむは「また明日も来るの?」と聞きたかったが、何となくうまくいえずに飲み込んでしまった。 れいむは、寂しかったのだった。 ぱちゅりーがでかけてしまってからは話し相手もおらず、日中は洞窟の中でじっとして過ごす。 ゆっくりしてはいるが物足りなかった。 そんな生活に現れたみょんが、まぶしく見えた。 次の日、外は大雨だった。 うっすらと雨に煙る木々が森の奥まで続いている。 その景色を見ていたれいむのあんよに、洞窟の入り口に降りかかった雨粒が入り込んできてぶつかった。 「ほら、そんなところにいるとぬれるわよ」 長ぱちゅりーが洞窟の奥から声をかける。 冷たく湿った空気がれいむの肌を撫でてひやりとした。 れいむは洞窟の奥に戻る。 「ぱちゅりー、きょうはおそとにでれないね」 「しょうがないわ、いちにちくらい何も食べなくてもしにゃしないもの、むきゅ」 長ぱちゅりーは目を閉じてじっとして、空腹を抑えている。 エネルギーをなるべく消費しないようにしていた。 そのすぐ後ろには、木の実や乾いた葉が山と積まれている。 れいむがそれに眼をつけた。 「ぱちゅりー、おなかすいたよ! そこのごはんさんたべようね!」 「だめよ、れいむ」 「どぼじで!?」 「これは、ご飯さんがとれなくてみんな おなかがすいたときのためにあるの。りかいできるかしら?」 「ゆぅ……でも、このままじゃおなかがすきすぎてしんじゃうよ!」 ぱちゅりーはため息をついた。 「そうね。あしたも雨さんがふっていたら、仕方がないからすこしだけ食べましょう。 でも、ほんとにすこしよ」 「ゆっくりわかったよ……」 れいむは空腹で目が回りそうになっていた。 そういう時は、だんだん気分が滅入ってくる。 れいむは物思いに沈んでいった。 まりさの最期の場面が、れいむの餡子脳に蘇ってきた。 人間に連れ去られて、大きなすぃーに乗せられるまりさ。 あの恐ろしい人間にさらわれたら、もう助かることはないだろう。 人間のすみかで苦痛を与えられているまりさを想像して、 れいむはゆっくりできない悲しい気持ちになった。 まりさがいた頃はいつもゆっくりしていた。 家の中で時間を過ごしていても苦にならなかった。 やがて授かるおちびちゃんや、自分の得意な子育てのことなどをあれこれと考えているうちに、時間は過ぎた。 そのうちまりさが帰ってくると、心底幸せな気持ちになった。 ご飯を食べて、すーりすーりで愛情を確かめ合い、眠りに就いた。 ここにまりさがいてくれたらと、真剣に思った。 何でもないゆっくりの普通の暮らしが貴重なものだったということを、れいむは今頃になって理解した。 今は、あの頃一人で待っていたときの何倍も辛い。 れいむは幸せな記憶に浸ったまま目を閉じて、倦怠感に身を委ねた。 それは心地よく感じられ、すぐに意識を失った。 太陽が昇った。 日差しが葉の間を抜けて森に差し込む頃、 まだぬかるむ地面を器用に水たまりをよけながらみょんが跳ねて来た。 疲労と空腹でうとうとしていたれいむは、温かい日差しそのままのみょんの声を聞いて目覚めた。 「おさ、だいじょうぶかみょん? れいむ、ゆっくりおはよう。」 みょんが洞窟の入り口に姿を見せる。 朝日に照らされたみょんの姿が、れいむには救いの神のように見えた。 餡子の中に温かいものが広がっていくのを感じる。 みょんの視線の先を振り返る。 洞窟の奥で漬物石のようにじっとしていたぱちゅりーが目を開けた。 「ゆっくりおはよう。わざわざわるいわね、みょん」 長ぱちゅりーも、何も食べずに過ごしたようだった。 口から出たのはか細い声だった。 背後の木の実は減っていない。 「おさはだいじょうぶかとおもって、雨さんがあがったらすぐにこっちにきたみょん。 とちゅうでご飯をとってきたみょん」 そう言うと、頭の上に載せていたものをどさりと地面に下ろした。 頭のないイモムシだった。 節がいくつもあって、丸々と太っている。 それを見たれいむが少し元気を取り戻して叫ぶ。 「ゆわぁ~、おっきいむしさんだね!」 「あなた、ご飯は?」 「いそいできたから、まだだみょん。これからみょんのぶんをとるみょん」 「むきゅ、ありがとうね」 長ぱちゅりーが申し訳無さそうに言う。 「これくらい、何でもないみょん。それよりおさがお腹をすかせてないかしんぱいだったみょん」 「そうね、ありがとう。いただくわ。れいむも食べましょう」 「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」 れいむはすでにイモムシを顔を上げずに夢中でかじっている。 みょんはれいむのそんな姿を見てくすりと笑った。 「じゃあ、これで」 みょんは帰ろうとした。 振り向いて自分の巣に帰ろうとしたあんよが、一歩目を踏み出す時によろめく。 れいむが顔を上げてみょんに近づいた。 「みょん、だいじょうぶ?」 「へいきだみょん……」 みょんの顔は蒼白になっている。 れいむたちと同じように昨日一日何も食べずに、その上長の洞窟まで急いで来たのだから当然だった。 返事をする口元もおぼつかない。 それを見た長ぱちゅりーは、後ろの山から木の実を少し取った。 みょんに渡す。 「むりしないで。これをたべなさい、むきゅ」 「これは、むれのみんなが こまったときの、ご飯だみょん?」 「そうよ。お腹が空いてうごけないときに たべるの。 今のあなたにぴったりじゃないかしら?」 みょんはうなずいた。 お礼を言って木の実を口に詰め込むと、味わって噛み締める。 口の中が乾いていて食べにくかったが、何とか飲み込んだ。 腹がくちくなると、急激に眠気が襲ってきた。 みょんは半目でうとうとしながらぱちゅりーにもう一度お礼を言った。 「とってもおいしいみょん……。おさ、ありがとうだみょん……」 「みょんははたらきものね。すこしくらい ゆっくりしてもばちはあたらないわよ、むきゅん」 「でも……」 みょんは何となく遠慮してしまった。 すると、今まで黙っていたれいむがいきなり「ゆっくりきいてね!」と叫んだ。 何ごとかと思ったみょんと長ぱちゅりーが振り向く。 れいむの開いた口から、歌声が聞こえてきた。 れいむは歌を唄った。 子守唄のような、ゆっくりしたテンポの歌だった。 ゆっくりたちは、少しの間聞き入った。 それは人間が聞いても平板な一本調子の音に過ぎない。 だが洞窟の中のゆっくりたちは心地よさそうな顔をしていた。 れいむもれいむなりに、みょんを心配していたのだった。 長ぱちゅりーがみょんを見ると、いつの間にか安らかな顔で眠っている。 ぱちゅりーはむきゅとひとつ息をついた。 自分も昨日から何も食べていないことを思い出す。 みょんの持ってきたイモムシを食べようと辺りを見回した。 洞窟の中のどこにも見当たらなかった。 歌い出す前に、れいむが全て食べてしまっていた。 「れいむ……やったわね……」 「ゆゆ? れいむのおうたをきいてゆっくりしてね!」 長ぱちゅりーは絶句した。 れいむのことを褒めればいいのか、呆れればいいのか、怒ればいいのか、わからなかった。 当のれいむは悪びれずに歌い続けている。 「むっきゅぅぅぅぅ!」 やりきれない叫びが歌声を掻き消して、洞窟の入口から森へと響いた。 3 それかられいむとみょんは長の巣で、前にも増して頻繁に話すようになった。 長ぱちゅりーは狩りに出かけることが多くなった。 今まで長ぱちゅりーが狩りに出かけるのは、餌が足りない場合に限られていた。 何らかの事情でご飯を届けに来るゆっくりが来れなかった場合に、普通のゆっくりのように狩りに出かけていた。 しかしれいむが居候するようになってからは、二匹分の口を養うために頻繁に狩りに出ている。 今日も長ぱちゅりーは狩りに出かけている。 長ぱちゅりーがいない間に、二匹は親密の度合いを深めていった。 「すーりすーり、しあわせー!」 二匹は、体を寄せ合ってほおをすりつけあう。 周りが目に入らないほど至福の表情をしている。 「ゆゆ~ん、きょうもきてくれたんだね!」 「れいむのかおがみたかったみょん」 二匹の間には、べたべたの餡子のような時間が流れていた。 体をぴったりくっつけて、どうでもいいようなことを喋っている。 お互いに目があうと、恥ずかしそうに視線をそらした。 みょんが思い出した風にリボンを揺らした。 そこから木の実が転がり出てくる。 「最近、おさへのご飯があとまわしになってるみょん。 おさにわたしておいてほしいみょん」 れいむは少し不機嫌になった。 「みょん、ご飯さんなんてとってるじかんがもったいないよ!ふたりはもっともっとあいしあいたいんだよ! こんどからご飯さん持ってこなくていいから、ちょくせつきてね!」 みょんは困惑した。 「でも……おさには むれのみんなが おせわになってるから、ご飯をとどけるのは あたりまえのことだみょん」 「どぼじでそんなこというの!? れいむはみょんをあいしてるんだよ! ふたりのじかんが かりでなくなっちゃうのが いやなんだよ! みょんはれいむのことあいしてないの!?」 面と向かって愛していると言われて少し照れるみょんだったが、何とかれいむをなだめようとした。 「れいむのことはもちろん だいじだみょん。でも、おさがこまってしまうみょん」 「れいむとおさとどっちがだいじなのぉ!」 れいむは子ゆっくりのように聞きわけがなかった。 ぴょこぴょこと地団駄のようなものを踏んで、もみあげを上下させながらその場で飛び跳ねる。 みょんは、れいむのこんな姿を見たのは初めてだった。 「も、もちろんれいむだみょん。だからなかないでほしいみょん」 顔を歪めてしゃくりあげるれいむに、みょんは優しく話し掛けた。 「みょんもれいむのことが好きだみょん。でも、かりをしなかったら、おさのところにくるこうじつがなくなっちゃうみょん?」 みょんはれいむが納得しそうな理由を言ってみた。 するとれいむは機嫌が良くなったようだった。 いきなり顔を上げて、ぱあと顔を輝かせる。 「そうだよねっ! ひめられた ふたりのかんっけいは いっそうはげしく もえあがるんだよ!」 よくわからなかったが、れいむが元気になったのでみょんはほっとした。 「じゃ、みょんは帰るみょん。そろそろおさも帰ってくるし」 「ぱちゅりーにみつかったらたいへんだよ! ゆっくりしていってほしいけどまたね!」 二匹はどんどん仲が良くなっていった。 結局みょんは狩りをやめる。 れいむがあまりに頼むので、しぶしぶ承知したのだった。 その代わり、みょんはれいむに狩りを教えることにした。 長ぱちゅりーがあさごはんを食べているうちに洞窟に来て、れいむを呼ぶ。 二人きりになれるのが嬉しいのでれいむは張り切って出かけていく。 れいむがこれから一人で生きていくのに困らないように教えるというみょんの発案だった。 (あらあら、すっかりなかよしさんね、あのふたり) 長ぱちゅりーも、今度はみょんが強く言うので、狩りに出かけるのをやめた。 体が弱い長のことを心配しているようだった。 自分が長の分もとってくるからと張り切っていた。 ぱちゅりーもそれを承知した。 れいむが自分のご飯は自分で取れるようになったので問題はなかった。 今までどおり、何とか暮らしていける。 長ぱちゅりーはみょんのことを信頼していたので、口出しはしなかった。 何より、洞窟の中で塞ぎがちだったれいむが、毎朝狩りに出かけて元気そうに帰ってくるのを見て安心していたのだった。 (みょんになら、むれをまかせられるかもしれないわね) そんなことさえ、長ぱちゅりーは思い始めていた。 長ぱちゅりーはここ数日、狩りに出かけているときに、自分の体力の衰えをひしひしと感じていた。 美味しそうな木の実を見つけて持ち帰ろうとしても、その重みがずしりと頭にのしかかった。 かつては飛び回る蝶々くらいはおさげで捕らえられたものだったが、 今では葉の上の幼虫や地面をのろのろ這うイモムシくらいしか捕れなくなっていた。 引退の時期が近づいてきたと長ぱちゅりーは感じていた。 空がにわかに曇り始める。 灰色にぼやけた空から雨が降り出した。 しのつくような雨が、二匹を足止めしていた。 狩りに出かけたれいむとみょんは、長の洞窟には帰らずに、みょんの巣に来ていた。 途中で急に雨に降られて、近い場所にあったみょんの巣に駆け込んだのだった。 二匹は地面から張り出した木の根が作る屋根の下にちょこんと収まっていた。 土に埋まっていた根が雨によって土が削られ、露出している。 れいむは巣に入ったときから異様な雰囲気を漂わせていた。 みょんの方をちらちらと見てそわそわと落ち着きなくあんよを持ち上げては落としている。 「おさ、しんぱいしてるみょん。はやく、雨さん やんでほしいみょん」 「そんなことよりすーりすーりしようね!」 「ゆっ? でも」 「いいんだよ!」 れいむが隣にいるみょんに体を近づける。 「ゆふぅ、みょん、みょん」 「ゆゆゆ、れいむどうしたみょん? やめるみょん!」 れいむは我慢の限界だった。 実ゆが風で落ちてしまって以来ずっとすっきりしていない。 その後人間が来てすっきりをするまりさがいなくなってしまった。 それ以来、どたばたしていて忘れていたすっきりしたい気持ちが、急激に頭をもたげてきたのだった。 今にもれいむはみょんを襲おうとしていた。 れいむの目は血走ってみょんの白い皮を凝視している。 興奮で荒くなった息がみょんの顔にかかった。 「みょんのおはだすべすべだよ……もうがまんできないよ!」 れいむの表面からは、うっすらと甘い分泌物がにじみ始めていた。 みょんの白い肌になすりつけると、よりいっそう滑り始める。 れいむがみょんを一方的にすっきりさせる形になった。 みょんは体をよじって逃れようとするが、大きな動きができない。 半ば上から押さえつけるようにれいむがのしかかっていた。 「ゆっ、ゆっ、すっきりしようね!」 「れいむ、こんなのへんだみょん!」 「なにいってるのぉ! みょんはれいむのことあいしてないのぉぉ!?」 れいむは動きを止めて凄い形相で叫んだ。 一瞬みょんはびくりとして抵抗を止めた。 「そ、そうじゃないみょん、でも、こういうことは、もっとゆっくりしてから……」 「そんなことないよ! おそすぎたくらいだよ! ふたりのあいっじょうをたしかめるのになんにもわるいことなんてないよ!」 「み、みょん……!」 れいむは再び激しく動き始めた。 たぷんたぷんとあんこが打ちつけられて揺れる。 みょんは目を閉じてじっと耐えている。 森には雨音が静かに囁いている。 その中に、れいむのあげた頓狂な声が長く伸びた。 「すっきりー!」 雨は翌日になっても降り続いていた。 長の洞窟ではぱちゅりーが一匹で雨の止むのを待っていた。 二匹は帰ってこない。 みょんもれいむも姿を見せなかった。 長ぱちゅりーは少し心配だった。 みょんはしっかりしているが、れいむはお調子者だ。 ふたりっきりになって、もしかしたらすっきりしてしまったかもしれない。 つがいになるかどうかはわからなかった。 れいむには赤ゆがいない。 れいむがまりさとの間に子供を設ける前にまりさは人間に連れ去られてしまった。 風で実ゆが落ちていなければ、あるいはしんぐるまざーとしてのゆん生を歩んでいたかもしれなかった。 しかしれいむとみょんはすでに出会ってしまっていた。 若い二匹を止められるものは群れにいなかった。 長は再び外を見て、溜息をついた。 みょんの家はあまり上等な巣ではなかった。 柔らかい土は雨を素通りさせ、木の根を潤し、れいむの皮を濡らしていた。 れいむは悪態をついて湿った壁から離れた。 あまり長い間触れているとふやけてしまいそうだった。 隣ではみょんがじっと空を見あげている。 その頭には茎が生え、実ゆが何匹か寒々しい空気にさらされてかすかに揺れていた。 れいむはみょんのほうへ近づいた。 「れいむとみょんのおちびちゃんはとってもゆっくりしてるね!」 みょんの頭上の実ゆはまだ丸いお餅に目鼻がついただけの単純な作りで、 中心部にはうっすらと餡子が透けて見えていた。 その色は黒と白の二種類あり、四匹のうち三匹が黒だった。 「ゆっくりそだてようね!」 「みょん……」 みょんは目を合わさずに頷いた。 れいむに脅えているようにも見える。 先日の、半ば無理やりすっきりさせられた時の恐怖がまだ残っていた。 こうしている時のれいむは優しいのに、昨日のれいむはれいぱーのようにぎらぎらした目ですっきりしようとした。 みょんは何かの間違いだと思おうとした。 急にあんな風に豹変するなんて、れいむの優しい性格からは考えられない。 きっと、初めてのすっきりだったから少し興奮してしまったのだろう。 現にれいむは、何事もなかったかのようにふたりのおちびちゃんを祝福してくれているし、 雨が止んだら、動けないみょんとおちびちゃんのために狩りに行ってくれることになっている。 そうだ、ちょっと興奮してしまっただけなんだ。 みょんが赤ゆのころのかすかな記憶に、両親がささいなことで噛みつきあって大喧嘩したことがあった。 ふたりとも翌日にはけろりとして仲直りしていた。 多分、つがいにはよくあることなんだろう。 みょんは、自分に檄を飛ばした。 これくらいで自分がくよくよしているのを見たら長も呆れてしまう。 もっとしっかりしなくては。 隣では、れいむがまた歌を唄っていた。 雨が上がった。 長ぱちゅりーは張り切っていた。 れいむの暴走など知らずに、みょんの巣へ向かう。 みょんに長の心構えを色々と話して聞かせようとしているのだった。 長ぱちゅりーは、自分の後を継げるのはみょんしかいないと最近強く感じている。 当然みょんも承知してくれるものと思っていた。 長ぱちゅりーは、雨上がりの土の上を歩いている。 遠くからみょんが巣の中に居るのを見つけた。 近づくにつれ、巣の中にいるみょんの様子がおかしいことに気付く。 みょんは長ぱちゅりーに気がつくと、顔をそちらに向けて笑った。 その頭には大きな茎が生えていた。 長ぱちゅりーは仰天して跳びあがった拍子に水たまりにあんよを突っ込んでしまった。 巣の中から出てきたみょんが駆け寄ってきて、長を助け出す。 「しっかり、おさ」 「む、む、むきゅ……」 泥まみれになって水たまりから引っ張り出すと、みょんは長にたずねた。 「わざわざ来てくれてありがとうだみょん、きょうはどんなごようだみょん?」 ぱちゅりーは、泥を吐き出しながらしかめっ面で答える。 「ありがとう、むりしないで。おちびちゃんがおちちゃうわよ。 それより、れいむとすっきりーしたのね」 みょんははっとした顔になって、ゆっくりと恥じらいを含んだ微笑みを浮かべた。 「いいのよ、だれもすっきりするな なんて言うゆっくりはいないわ。 でも、あなたからすっきりしたいと言ったのかしら?」 みょんは首を横に振った。 「そう、やっぱりね。とにかく中に入りましょう」 巣の中は水たまりと大して変わらなかった。 乾いたところを見つけて長を座らせると、みょんも腰を落ち着けた。 「きょう来たのはね、あなたにそうっだんがあってきたのよ」 「そうっだん?」 「ゆゆ、ふたりともなにはなしてるの? ゆっくりきかせてね!」 れいむが口を挟んできた。 にっこり笑ってみょんと長ぱちゅりーの間に割り込んでくる。 基本的に寂しがり屋でのけ者にされるのが我慢ならない性質だったので、みょんたちの話に興味はないが聞いてみたのである。 「あなたにはかんけいのないおはなしよ」と長ぱちゅりーは一蹴した。 「どぼじでぇぇ!」 「ごめんだみょん、れいむ。ちょっとそこらへんでうろうろしてきてほしいみょん」 「ゆゆゆ! もうおうちかえる!」 れいむは出て行く素振りを見せた。 木の根の下から出て少し跳ねたところで振り向く。 そしてまた戻ってきた。 「ゆっ、れいむのおうちはこっちだったよ!」 二匹はぽかんとしていたが、みょんが「おさのじゃましないならいいみょん」と言ったので結局一緒に話をすることになった。 と言ってもれいむはそこに居るだけで、話すのは長ぱちゅりーとみょんだった。 長ぱちゅりーは気を取り直した。 少し間をおいて、 「ぱちぇもそろそろ、としをとってきたわ」と言った。 「まだまだ元気だみょん」 「ありがとう、でもね、かりもできないゆっくりが、みんなのおさになってはいけないわ」 みょんは長が何を言っているのかわからなかった。 「このあいだ、いもむしをとろうとしたら、にげられたわ。 べつのはっぱをたたいてしまたの。もうめがわるくなってきてるのね」 「み、みょん」 長ぱちゅりーはいきなりみょんを見据える。 その勢いにみょんは少したじろいだ。 「いい。おさは、じぶんのことより むれのみんなのことをかんがえられる しっかりしたゆっくりでなくては つとまらないのよ。」 「みょん?」 「ぱちぇは、あなたがそうだとおもってるわ」 みょんは驚いた顔をさらにぽかんとさせた。 「あなたをつぎのおさににんっめいするわ。りっぱにやってちょうだい」 「ちょっとまつみょん!」 ばちゃばちゃと水しぶきを跳ね散らしながら長に近寄るみょん。 頭の茎が危なっかしく揺れる。 「みょんには むりだみょん。もっとおさに ぴったりなゆっくりが いるはずだみょん」 「いいえ、ぱちぇはもうきめたわ。みょんがいやだといっても おさになってもらうわ」 「み、みょん……」 長の命令は絶対だった。 みょんは一瞬言葉に詰まるが、ぐっと唇を引き結んだ。 「むれのみんなにきくみょん。だれがおさにぴったりなのか、 むれのみんなのことをかんがえるなら、そうするべきだみょん」 今度は長が言葉に詰まる番だった。 驚いたような顔でみょんを見る。 みょんも、不遜にならない程度に強い視線で長を見返した。 やがてぱちゅりーがふっと息を吐いて「まけたわ」と言った。 「あなたのいうとおり、むれのみんなをあつめて、おさになるゆっくりをきめましょう。 あなたがえらばれたら、かんねんするのよ?」 「みょん!」 みょんは爽やかに答えた。 れいむは退屈そうに聞いていた。 水たまりを叩いて波紋を眺めたり、蝶々を追ってあちこち動き回るので、 話している長ぱちゅりーにとっては鬱陶しいことこの上なかった。 話が終わったようだと察すると、みょんに話しかけてきた。 「みょんどうしたの? おさになにかいわれたの?」 「ううん。でも、おさになってくれってたのまれたみょん。 みょんはみんなにきいたほうがいいとおもうっていったら、おさがしょうちしてくれたみょん」 「ゆゆゆ? だれでもおさになっていいの?」 「えらばれればのはなしよ。むきゅ」 長ぱちゅりーが注釈を入れるが、れいむは聞いていなかった。 期待を顔に浮かべて叫ぶ。 「れいむもおさになるよ! おさになれば、もっといっぱいごはんがたべられるよ!」 (それに、みょんにもっとすきになってもらえるよ!) 「れいむがおさに?」 長ぱちゅりーは唖然とした。 「みょん、いいとおもうみょん!れいむはむれの英ゆんだみょん! みんなさんせいしてくれるとおもうみょん!」 みょんが賛成する。 つがいのれいむが立派なゆっくりになることが嬉しかった。 「むきゅ、じゃあぱちぇはみんなにしらせてくるわ。おかのうえにあつまってちょうだい」 長ぱちゅりーは釈然としない表情で去って行った。 途中で帽子に傷のあるまりさと会うと、今の話を伝え、傷まりさは群れ中に伝えた。 そうして数時間後には、群れ中のゆっくりが丘の上のイチョウの木の下に集まっていた。 全ゆんがこの広場に集まるのは、人間が来た時以来だった。 三十匹前後のゆっくりが、木の根元にいる長ぱちゅりーたちを取り囲むように半円を作っている。 長ぱちゅりーの右側には、長に名乗りを上げたゆっくりたちが立っている。 みょんとれいむと、ちぇんが一匹だった。 長ぱちゅりーは、大きくはないがよく通る声で話し始めた。 ざわざわとお互いに喋っていたゆっくりたちが静かになる。 「そろそろぱちぇはおさをやめなくてはならないわ」 ざわめきが再び大きくなった。 少し待ってから長ぱちゅりーは続ける。 「あたらしいおさになるゆっくりをみんなにえらんでもらうわ。 ここにいる さんにんのなかから えらんでちょうだい」 そう言って長ぱちゅりーは隣にいるみょんのほうを見た。 「こうほは、このみょんと……」 視線が右に流れて行って、次のゆっくりを捉えた。 「れいむと」 れいむは、相変わらず期待に満ちた顔で待っている。 「ちぇんよ」 ちぇんは、話を聞いて立候補したまだ若いゆっくりだった。 緊張してがちがちになっている。 「むれのみんなは たくさんよりたくさんいるから、かぞえきれないわ。 だから、おさになってほしいゆっくりのなまえをよんだときに、一回だけこえをあげてちょうだい。 その声の大きいゆっくりが おさということにするわ」 今や広場はゆっくりたちの囁きでうるさいほどだった。 どのゆっくりも、小さな頭を必死にめぐらせて、群れの行く末を担う長を思い浮かべている。 長ぱちゅりーがざわめきの中に錨を投じるように言葉を発した。 「決まったかしら?では、ちぇんをえらぶというもの」 広場は少し静まり返った。 ちぇんはあまり人気がなかった。 ちらほらと「ゆっ」「ちぇぇぇぇん」などの声が聞こえてくる。 「では、みょんをえらぶもの」 先ほどより多くの声があがった。 何匹かのゆっくりは、みょんのしっかりした性格を知っていて、声をあげていた。 見た目が美ゆっくりだということも大きかった。 長ぱちゅりーは満足そうにうなずいている。 「では、れいむをえらぶというもの」 わっと広場中から歓声が上がった。 次々とゆっくりたちが飛び跳ね、れいむの名を叫んでいる。 群れの大半が声をあげていた。 今までで一番大きい音だった。 勝敗はあっさりと決した。 当のれいむはぽかんとしている。 苦々しげに長ぱちゅりーが言った。 「おさは、れいむにきまりよ」 ちぇんはがっくりとうなだれて「わからないよー」と呟いた。 自信があったのだろうが、長にはまだ早かったようだった。 ぱちゅりーも期待を裏切られてショックを隠し切れなかった。 落胆した表情だった。 みょんの方を見ると、こうなることが分かっていたように微笑んだ。 「ぜったい、あなたがえらばれるとおもったのに」 ぱちゅりーはあきれたのと悔しいのと半々の顔でみょんを恨めしげに見た。 「れいむはにんげんに たちむかった英ゆんだみょん。とうぜんだみょん」 みょんはあくまでれいむが長になることを疑っていなかったようだった。 もう長ではなくなったぱちゅりーはがっくり老け込んだようだった。 元から小さい体がさらに小さくなって、しぼんでしまいそうに見えた。 もはや結果は出たのに、未練がましく弱々しい声で言う。 「みょんがおさになってくれるとおもったからこそ、ぱちぇはおさをやめたのよ?」 「みょんは おさなんてがらじゃ ないですみょん」 「ぱちぇは、れいむが そうだともおもわないわ」 ぱちゅりーはぴしゃりと言う。 声だけが一瞬かつての張りを取り戻したようだった。 「だいじょうぶだみょん。れいむはやさしいゆっくりだみょん。 きっとむれのためになってくれるはずだみょん。みょんもそばでそれをおてつだいするみょん」 「そうね。そうだといいわね……がんばるのよ、むきゅ」 ぱちゅりーは諦めたのか、みょんの言葉を受け入れた。 みょんは満面の笑顔で頷く。 「みょん!」 歓声は鳴り止まず続いている。 れいむはいつの間にか引きずり下ろされて、胴上げのようにゆっくりたちの間を運ばれていた。 その笑顔は、振って湧いた歓喜と栄光に酔っているように、ぱちゅりーには思えた。 4 数日後。 長の洞窟の前で子ちぇんが遊んでいる。 ちょうちょを追いかけていて、洞窟の入り口に気付いた。 ひらひらと飛ぶちょうちょは、洞窟の中に入って行った。 恐る恐る中に入ろうとすると、後ろから声をかけられた。 「ゆゆ? ちぇんのおちびちゃん、なにやってるの?」 「わ、わきゃらにゃいよぉー!」 子ちぇんは後ろに立っていたれいむを見るなり一目散に逃げ出してしまった。 新しい長のことは、まだよく知られていないようだった。 子ちぇんは臆病なので、長を勝手に怖いゆっくりと思い込んでいた。 代替わりしたれいむはこの洞窟を受け継ぎ、ぱちゅりーは近くのもっと小さい巣に移った。 それからみょんとの新しい生活が始まった。 長の仕事は想像以上に退屈だった。 基本的に、何か事件が起きなければ長がリーダーシップを発揮する機会はない。 群れの全ゆんがめいめい狩りをこなし、その日を無事に暮らしている限り長はそれを見ているだけでよかった。 群れは何の変化もなかった。 日々成長していく、洞窟の周りの草木がわずかずつ背を伸ばしているだけだった。 いや、変化はあった。 みょんの頭に実った実ゆが着実に成長していた。 少し大きくなり、目も口もはっきりわかるようになってきた。 皮も厚くなりうっすらと薄桃色に色づいている。 小さな小さなリボンが三匹の頭についている。 残りの一匹はみょんに似て、黒い新芽のようなリボンが頭からちょこんと生えている。 みょんはその姿を見つめているだけで幸せだった。 無理矢理すっきりしたことによるわだかまりは残っていなかった。 れいむは、今はむしろ以前よりみょんに優しいほどだった。 呼吸に合わせて揺れる茎からすずらんの花のように連なって実ゆがぶら下がっている光景を見ると、溜息が漏れる。 れいむが狩りに出かけている間も寂しくなかった。 「ゆゆ、ごはんとってきたよ」 れいむは洞窟に入った。 疲れた様子でリボンと頭の間に木の実を乗せている。 「おそかったみょん? どうしたみょん」 「ゆっ、ちょっとすばしっこいむしさんがいたんだよ! くろうしてつかまえてきたんだよ!」 みょんに教わったとはいえ、れいむは何しろあまり狩りが得意ではなかった。 普段の倍以上かけて狩りをした割に、頭の上のご飯の量は多くなかった。 むしろやや少なめだった。 しかしみょんが動けないから、自分がとりに行くしかないのである。 長の生活は、思ったよりゆっくりしていない。 れいむはそんなことを思っている。 それは無計画にすっきりしたゆえの苦労だったが、れいむはそんなことをいちいち覚えていなかった。 「みょんがうごければ、いっしょにかりにいけるみょん。れいむ、ごめんだみょん」 「なにいってるのぉぉ! みょんは おちびちゃんをゆっくりそだててね! むりしないでね! おちびちゃんが おちちゃったらたいへんだよ!」 「ゆゆ、わかったみょん」 みょんはれいむの優しさを見たような気がした。 おちびちゃんのこととなると、れいむは途端に大袈裟になる。 それがみょんはおかしくもあり、大切にしてくれていると思うと、嬉しくもあった。 その時、誰かが入口の前に来た。 洞窟の入口から入ってくる光が遮られる。 一匹のまりさが洞窟を訪れた。 「れいむ、いるのかぜ」 そのまりさは帽子に傷があった。 円錐形の帽子の中央あたりに長い穴が空いている。 穴の縁はほつれてぼろぼろになっていて、長い時間が経っていることを思わせた。 「ここのところ、ごはんさんが あんまりとれなかったから、れいむのところに いけなくてごめんだぜ。 ぱちゅりーは いんったいしちゃったけど、れいむにも がんばってほしいのぜ」 「ゆゆ~ん、ごはんさんはとってもゆっくりしてるね!」 れいむはよだれを垂らしながら、傷まりさの持ってきたご飯を眺めた。 みょんが後ろから傷まりさに挨拶する。 「まりさ、ありがとうだみょん。もうすぐおちびちゃんがうまれるから、とてもたすかるみょん」 「いいんだぜ。じゃあこれで」 傷まりさは去っていく。 見送るみょんの後ろで、傷まりさの持ってきたご飯を早速れいむが食べ散らかしている。 半分くらい食べたところで、急にれいむが顔を上げて叫んだ。 「ゆゆっ!」 れいむは何かを思いついたようだった。 ゆっくりの顔をした電球がれいむの頭の上で点灯してすぐに消える。 「これから、ごはんさんをもっといっぱいもってこさせるよ! そうすれば、れいむはかりにいかなくてすむよ!」 れいむは自分の思いつきに酔い知れている。 ご飯さんが手に入り、みょんに喜んでもらえる。 自分は狩りに行かずにすみ、可愛いおちびちゃんの顔をずっと眺めていられる。 どう見ても完璧な作戦だった。 「まって、れいむ」 「どぼじだのぉ!?」 「そんなことはやめるみょん」 みょんがれいむを諌めた。 いくらなんでも無茶な思い付きだった。 れいむは素晴らしいアイディアを邪魔されて不機嫌だった。 「ごはんさんがいっぱいもらえるんだよ! みょんはごはんさんほしくないの!?」 「ちがうみょん、ごはんならみょんがとってくるみょん、 みんながゆっくりできないことはやめるみょん」 「れいむはみょんにゆっくりしてほしいんだよ! それにみょんにはおちびちゃんがいるでしょ! じっとしててね! れいむはみんなにゆっくりしたおふれをはなしてくるよ!」 「ゆっ、まって……」 れいむはヒートアップしたまま巣を飛び出した。 追おうとしたみょんは、入口まで来て断念した。 目の前に、実ゆがぶらさがっていたからだ。 走ったりすれば落ちてしまう。 みょんは言い知れない不安が餡子の奥から湧き上がってくるのを感じた。 既にれいむの後姿は見えない。 群れのみんながれいむのおふれをどう受け取るか、心配だった。 日が沈みかけていた。 地平線の近くは夕陽に照らされて橙色に染まり、上に昇っていくにつれ薄い青に変わる。 そしてその上には、深い夜の色が広がっている。 みょんはうつむいていた顔をはっと上げた。 傾いた陽が差し込む洞窟で、出歩くことも出来ないまま、一日千秋の思いでれいむの帰りを待っていた。 いつの間にか目の前に立っていた影に気付いたのだった。 影はれいむだった。 逆光の中で昼に見たときと変わらない満面の笑顔を浮かべている。 頭の上とリボンの間に山ほど木の実や虫を乗せていた。 「れいむがごはんさんとってきたよ! むれのみんなにいったら、そのばでわけてくれたよ! あしたになったら、ほかのみんなもとどけてくれるよ!」 みょんは目の前が真っ暗になった。 これではみんなに飢え死にしろと言っているようなものだ。 「みょんたちにはおおすぎるみょん」 「そんなことないよ! もうすぐおちびちゃんがうまれるんだから、みょんは いっぱいたべなきゃだめだよ! れいむとはんぶんこしようね!」 れいむはみょんの前にご飯を山盛りに置いた。 みょんがそれをじっと眺めていると、れいむはどんどんもう一つの山を食べ始める。 「ひさしぶりにそとにでたからおなかがすいたよ!」 みょんは確かに空腹だった。 こうしている間にも、実ゆが少しずつみょんの餡子を吸い取って自らのものにしている。 目の前のご飯は、とてつもなく必要だった。 みょんは何度もためらった。 しかし、空腹には勝てなかった。 一度食べ出したら止まらなかった。 ご飯の山に顔を突っ込んで、夢中になって食べる。 気がついたら食べ終わっていた。 あれほどあった山が半分以上なくなっている。 みょんはますます落ち込んだ。 れいむを諌めるつもりがれいむと同じことをしてしまった。 れいむをみると、全て食べ終わってのんきそうに寝ている。 翌日れいむは狩りに行かず洞窟でごろごろしていた。 黙っていても、狩りに行くよりはるかに多くのご飯を群れのゆっくりが持ってくるからだった。 ゆっくりたちは、新しい長の苛烈な命令に戸惑いながらも洞窟に顔を見せた。 洞窟の前は集まったゆっくりたちでいっぱいだった。 「ゆわぁ、ごはんさんがいっぱいだよ!」 れいむは積み上げられた餌の前で能天気に喜んでいる。 それは、群れのみんなの一日分のご飯なのだ。 みょんは、昨夜からずっと悩んでいた。 我慢できずに言った。 「ちょっと待つみょん、れいむ」 れいむはにこにこしたまま振り向いた。 「どうしたの、みょん」 「そのごはんさんをみんなにかえしてほしいみょん」 「どぼじでぞんなこというのぉぉお!?」 「じぶんたちのごはんはじぶんでとるみょん。おちびちゃんがうまれたら、みょんもてつだうみょん。 だから、かえすみょん」 「れいむはみょんのためにやってるんだよぉぉ! かえせなんていわないでねぇぇ!」 「れいむ、おねがいだからちょっとかんがえてほしいみょん……」 れいむはなぜかその言葉にかっと来た。 恐ろしい形相でみょんに詰め寄り、怒鳴り散らす。 大きな体が、みょんにすっきりを強要した時のように、今にも押し潰そうとしていた。 「れいむはちゃんとかんがえてるんだよ! それいじょういうとおこるよ!」 みょんは、れいむの巨体が目前に迫っても一歩も引き下がらずにれいむを見据えて言った。 「おこる? おこればいいみょん! おこって、みょんもおちびちゃんもいっしょにつぶせばいいみょん! どうしたみょん? やらないみょん!?」 みょんは怒っていたのだった。 不甲斐ないれいむと、それを止められない自分に。 単なる挑発ではなく、そのときは本当にれいむを止めるためなら死んでもいいと思っていた。 もうこれ以上、れいむの情けない姿を見たくなかった。 れいむはさすがに勢いを失った。 理解できないものを見るようにみょんを見て呟いた。 「ど……どうしたの、みょん? いつもとちがうよぉ……」 みょんは無言でれいむを睨んでいる。 洞窟の外では群れのゆっくりたちが、固唾を飲んで長とそのつがいのやり取りを眺めていた。 「そ、そんなにおこらないでね! おちびちゃんもつぶれるなんていわないでね! れいむはみょんにゆっくりしてほしいんだよ! ごはんさんはかえすから、きげんなおしてね!」 「ほんとかみょん?」 緊張で張りつめたみょんの顔に、わずかに喜びの色が広がった。 れいむはそれを見逃さなかった。 「ほんとだよ! ごはんさんはかえすよ! れいむがみょんのためにかりにいくよ! そしたらふたりでむーしゃむーしゃしようね!」 れいむは、喋っているうちに自分でもその気になってきたのか、体を揺らして喜んでいる。 みょんも、それを見て安心した。 分かってくれたと思った。やはり、誠心誠意伝えれば通じるんだ。そう思った。 後ろで見ていた群れのゆっくりたちはぽかんとしている。 れいむが彼らに帰っていいというと、訝りながらもめいめいの持ってきた分をまた持って、巣に帰っていった。 そのとき、自分の分の中から少しご飯を置いていくゆっくりもいた。 みょんに同情した何匹かが、れいむ そうして残ったご飯を、二匹は仲良く分けて食べた。 充分な量だった。 「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」 食べているうちに、みょんは涙が出てきた。 ほっとして気が緩んだのと、群れのみんなの優しさに心打たれたのだった。 れいむは相変わらずがっついている。 さっきのことなどなかったように、能天気な顔のままだった。 みょんは、れいむらしいなと思った。 あの雨の日、洞窟で共に一夜を過ごしてから、少しも変わっていなかった。 危なっかしいところもあるが、二人で力を合わせていけば大丈夫。 みょんは、そう信じていた。 二匹はお腹一杯になるまで食べて、そのまま眠りに落ちた。 久しぶりに、安らかな眠りだった。 さらに翌日、れいむは遅くに目を覚ました。 普通のゆっくりはとっくに狩りに行っている時間だった。 昨日みょんに怒られたので、しぶしぶ狩りに出かける。 日差しが木々の間から斜めに差し込んで、鳥がさえずっている。 鳴き声に混じって、うー、うーという声も聞こえた。 うーぱっくが森の上を飛んでいた。 れいむはそれを見上げていた。 狩りを始めたものの、いっこうに見つからない。 みょんに教わった、草の上、木の根元、草むらの中などのポイントを探したが何も見つけられなかった。 れいむは狩りが下手だった。 みょんのように動き回る虫を身軽に跳ねて捕まえることなどできるはずもない。 森は豊かでも、探す者が見つけれなければないのと一緒だった。 「ゆうう……」 れいむは八方ふさがりに陥った。 みょんにああ言った手前、手ぶらで帰ることなどできない。 そもそも、相変わらずみょんは動けないので、自分がとれないからといって誰も助けてくれないのだった。 そのとき、れいむは一匹のぱちゅりーを見つけた。 少し短いリボンのついた帽子をいっぱいに膨らませて、下草の中を歩いている。 すでに狩りを終えて巣に帰るところのようだった。 「ゆゆ、あんなにたくさんとってずるいよ! れいむはぜんぜんとれないのに!」 またしてもれいむは思いついた。 リボンぱちゅりーの帽子はそうとう大きく膨らんでいる。 あれだけあるんだから、少し分けてもらっても構わないはずだ。 最近のれいむはとっても冴えてるね! そう思いながられいむはリボンぱちゅりーに近づいた。 「あら、おさ、むきゅ」 「ぱちゅりー、れいむはごはんさんとれないんだよ」 「むきゅ、たいへんね、すこしでよかったらわけてあげられるけど」 「それじゃだめだよ! みょんとおちびちゃんにいっぱいたべさせなきゃいけないんだよ! いいからぜんぶちょうだいね!」 れいむはじれったくなって、リボンぱちゅりーからご飯を奪った。 帽子をひったくると、中身を地面にぶちまける。 虫や木の実が底のない袋から飛び出して辺りに散らばった。 「むっきょぉぉ! せっかくあつめたのに! やめてぇぇ!」 「おさのめいっれいだよ! これはぜんぶれいむのものだよ! ぱちゅりーはまたあつめてね!」 「そんな……」 れいむはみょんに言われたことを全く理解していなかった。 みんなから集められないなら、ひとりずつ貰えばいいという発想だった。 当然、みょんに言われたことを守っていると思っていた。 なぜならあの場で注意されたことはそれで済んだことであり、 リボンぱちゅりーから奪うのはご飯を確保するために仕方ないと考えているからだった。 全く自らを省みないれいむのゆえの行動だった。 それからのれいむは素早かった。 地面に落ちたご飯をかき集めると、さっさと頭の上に乗せてしまった。 呆然とするリボンぱちゅりーを残して、れいむは意気揚々と去って行った。 洞窟に帰ると、みょんが迎えてくれた。 「むーしゃむーしゃしようね!」 「れいむ、もうすぐおちびちゃんがうまれそうだみょん!」 「ゆゆっ!?」 みょんは興奮している。 さっきから、実ゆがかすかに動いている。 茎の揺れではなく、自力で身じろぎしているのだった。 実ゆは元気に育っていた。 母体の栄養を吸ってピンポン玉くらいの大きさになり、今では赤や黒のリボンがはっきりとわかる。 親たちのミニチュアのように、小さな体にもみあげも、髪も、おかざりも全てが揃っていた。 「ゆふぉおお……れいむたちのおちびちゃん、ゆっくりしてるよぉ……」 れいむはまるで自分の分身を見るかのような熱い視線を実ゆに向けた。 みょんもふたりのかわいいおちびちゃんが生まれてくるのを心待ちにしている。 二匹は寄り添って、しばらく茎にぶら下がった実ゆを眺めていた。 そしてついに生まれる時が来た。 一匹の実れいむがぱちりと目を開ける。 ぶるっと一度身震いをすると、辺りを見回した。 「きゃわいいれいみゅがゆっくちうまれりゅよ!」 その顔は自分がこれからゆっくりしたゆん生を歩むことを欠片も疑っておらず、 生まれたばかりの希望とわけもない自信に溢れている。 大きな目をいっぱいに見開いて、初めて見た外の世界を余すところなく目に焼き付けようとしていた。 「おちびちゃん、ゆっくりうまれてね!」 実れいむは今まさに生まれ落ちようとしていた。 小刻みに体を震わせて、頭につながっている茎から離れるための運動をする。 「おちびちゃん、がんばるみょん」 そうこうしているうちに、他の実ゆたちも目を覚ました。 残りの実れいむが二匹揃って「ゆっくち~!」と叫び、実みょんもそれに続く。 「みんなれいむのかわいいおちびちゃんだよ! れいむににたおちびちゃんはやっぱりかわいいよ!」 「はやくうまれちゃいよ!」 「きゃわいいれいみゅがゆ~らゆ~らしゅるよ!」 「ちーんぴょ!」 実ゆたちは思い思いに体を動かしている。 早く生まれようと体を左右に揺らしたり、茎から見える光景に驚いたり、せわしなかった。 残りの実ゆたちも生まれ始めた。 茎につながった部分がぷつりと切れて、次々に地面に落ちていく実ゆたち。 れいむは一瞬恐ろしいものを見るように体をすくませたが、三匹の赤れいむが無事に降り立ったのを見ると、 この上ない至福の表情になった。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちちていっちぇにぇ!」 一匹だけその大合唱に参加していない赤ゆがいた。 実みょんはまだ茎にぶら下がったままだった。 「みょんににたかわいいおちびちゃんだね! はやくうまれていっしょにゆっくりしようね!」 実みょんはぷるぷる震えて体を揺らしているが、一向に落ちる気配がない。 「ちんぴょ!」 「どぼじだのぉぉぉ! おちびちゃんどぼじちゃったのぉぉ!」 「れいむ、おちつくみょん」 みょんが少し茎を揺らして誕生を促した。 小さく体を横にゆすると、茎の先に大きな動きとなって伝わる。 それでなかなか切れなかったつなぎ目が切れて、実みょんも地面に落ちた。 「ちーんぴょ!」 「ゆっくりしていってねぇぇ!」 同時にみょんの頭から茎がぽろりと外れて赤ゆたちの前に落ちた。 「ゆわーい!」 「きゃわいいれいみゅがむーしゃむーしゃするよ!」 「いっぱいたべてね! おちびちゃん!」 れいむは赤ゆにつきっきりになっている。 茎がなかなか食べられない赤みょんには、噛み砕いて口移しでご飯を与える。 「ぱちゅりーにおしえてくるみょん!」 みょんは巣を飛び出した。 おさとは、れいむが長になって以来会っていなかったから、挨拶がてら報告に行くつもりだった。 きっと、可愛いおちびちゃんの誕生を我が事のように喜んでくれるだろうと思い、みょんは先を急いだ。 その頃前長ぱちゅりーも、巣を出ていた。 リボンぱちゅりーがれいむにご飯を奪われたことを、前長のぱちゅりーに泣きついたのである。 前長ぱちゅりーは憤慨していた。 やはりれいむは、長になってはいけなかった。 最初からわかりきったことだったのだ。 みょんがそばにいても効果がないようだった。 月明かりの下、れいむの洞窟までの道を跳ねながら、前長ぱちゅりーは誰に言うでもなくつぶやいた。 「だから、いったじゃない……」 前長ぱちゅりーは草むらに差し掛かった。 れいむの洞窟はこの草むらを挟んで、前長ぱちゅりーが今住んでいる巣穴の向かいにあった。 草むらは広く、背の高い柔らかい草が地面を覆っている。 急いでいる前長ぱちゅりーは、草むらを突っ切った。 ほとんど同時に、みょんも草むらを突っ切っていた。 嬉しそうに前長の住む巣穴へ向かう。 二匹は、お互いの姿が見えない草むらを通って、ほんの十数メートル離れた場所を行き違いになった。 土から出たミミズがひからびていた。 みょんはそれを飛び越えて、前長の巣へ向かう。 月がそれを見下ろしていた。 れいむは、洞窟の中でぼんやりしていた。 赤ゆはお腹一杯になって、洞窟の奥でそろって小さな寝息を立てている。 暗い洞窟の中の、入口の近くだけがぽっかりと薄青い光で切り取られている。 その中でれいむはみょんの出て行った外を見ていた。 れいむはもう寂しさを感じていないことに気付いた。 今までひとりの時は、ゆっくりしていない寂しい感じに襲われていた。 だが今ではどういうわけかそれほど辛くはなかった。 それはおちびちゃんがそばにいるからなのか、みょんに出会えたからなのかはわからなかった。 人間が来たあの日の記憶は自分の餡子の中から確実に薄らいでいっているのを感じた。 外の風景に一つの点が見えた。 一瞬みょんかと思ったが、近づくにつれそれはぱちゅりーの帽子だということが分かった。 ぱちゅりーが、一体今頃何の用だろう? 前長ぱちゅりーは巣の外から、れいむに外に出るよう促した。 寝ている赤ゆを起こさないようにする配慮だった。 れいむはのそのそと這いだした。 「みょんはどうしたの?」 ぱちゅりーはまずそう言った。 「おさにほうっこくにいったよ」 「おかしいわね。だれにもあわなかったけど……」 いぶかしげな顔になるが、すぐにれいむを強い視線で見る。 「あなたにちゅうこくしにきたのよ」 「ちゅうこく?」 「どうもあなたは、おさを 好きかってにやれるものだと おもっているようね」 「ゆゆ? おさはえらいんだよ? みんなおさのいうことをきかなきゃいけないんだよ?」 「そうよ、でもそれは おさがおさのしごとを しているからよ。あなたはそれをしないで、好きかって ばかりしているでしょう」 「でも……ぱちゅりーだってごはんさんを もってこさせてたでしょぉ! れいむはぱちゅりーのやったとおりにやっただけだよ!」 「あれは、みんながしんせつでもってきてくれていたものよ。あなたがめいれいしてもってこさせるのが、いいわけないわ。 まして、ひとからごはんをうばうなんて!」 前長ぱちゅりーはリボンぱちゅりーの悲しそうな顔を思い出した。 溜息と同時に言う。 「あなたは、おさしっかくのようね」 「どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉ! れいむは いっしょうけんめいやってるんだよぉぉ! みょんにごはんだってたべさせなきゃいけないんだよ!」 「あなたが、自分で かりをすればいいのよ。それとも、そんなことさえ わすれちゃったのかしら?」 「そんなことないよ! むしさんがこっちきてくれないのが わるいんだよ!」 「じゃあ きのみでも何でも さがせばいいでしょう。 こんなこともわからないようじゃ、おさとして、むれのみんなを ゆっくりさせることなんて できないわね」 「れいむはりっぱなおさなんだよ! に、にんげんにたちむかった英ゆんなんだよ! むれのみんなだって、そういってくれてるよ!」 ぱちゅりーはちょっと思い出したような表情になって、慎重に言った。 「そうかしら、それもあやしいものね。 ぱちぇは、みたわ。みんなの輪から、すこしだけちかくにいたから。 あのひ、あなたはにんげんにたちむかったわけじゃないわ。 れいむ、あなたはこわくて、うごけなかったんじゃ――」 「や……」 れいむはかつてないほど激昂した。 自分自身でも、なかったことにしていた、あの日の記憶。 周囲から英ゆんと呼ばれ、いつのまにか自分もそうだと思うようになっていった。 都合の悪いことを記憶の奥底に押し込めて、英ゆんを名乗っていた、 そのメッキが、ぱちゅりーによって乱暴にはがされてしまった。 「やめろぉぉぉ!」 「むぎょ!」 ぱちゅりーは吹っ飛んだ。 我を忘れたれいむの体当たりをまともに食らって地面に叩きつけられる。 れいむがその上に飛び乗った。 「やべろっ! やべろっ! それいじょういうなぁぁぁ!」 れいむは恐怖に突き動かされてぱちゅりーに襲いかかっていた。 その体が飛び跳ねるたびに、ぱちゅりーの口からクリームが飛び出し、体が平たくなっていく。 「むぎょ、れ、れいむ」 「れいむはっ、れいむはおくびょうなんかじゃないよ!英ゆんなんだよ!おさなんだよっ! えらばれたゆっくりなんだよ! わからずやのぱぢゅでぃーはじねぇぇぇっ!」 れいむはひたすらぱちゅりーを踏み続けた。 やがてぱちゅりーの抵抗は弱々しくなり、声も途切れた。 それでもれいむはやめなかった。 どれくらいの時間が経っただろう。 れいむが辺りを見回すと、誰もいない森だった。 洞窟の入り口はすぐそこで、中では赤ゆたちが安らかに眠っている。 頭が冷えると、とたんに後悔が襲ってきた。 「ゆゆゆ、どうしよう、ぱちゅりーころしちゃったぁ」 ゆっくり殺しは大罪だった。 発覚すれば長の座を追われてもおかしくない。 前長の死体は足下に転がっている。 れいむはしばらくぼんやりしていた。 餡子脳の許容量を越えた事態に戸惑っている。 頭の中に、長、ぱちゅりー、英ゆん、ゆっくりごろし、といった単語がぐるぐると浮かんでは消え去り、駆け巡った。 その中にはみょんの顔もあった。 その表情が失望に歪むのがれいむは恐ろしかった。 ふと、口元に浮かんだクリームを舐めた。 その味に、れいむは夢中になった。 死ぬ前に苦しんだぱちゅりーのクリームはとても甘かった。 舌を伸ばして、反対側の頬についたクリームも舐め取る。 気付くとれいむはぱちゅりーの潰れた死体を貪っていた。 それほど嫌悪感はなかった。 おかざりがなければ、ゆっくりの体はあまあまのひとつにすぎない。 おかざりは体当たりした時に草むらの陰に転がっていた。 ゆっくりと、確実に、れいむはぱちゅりーの体を腹の中に収めていった。 柔らかいものは舐め取り、固いものは噛み砕いた。 死体は跡形も残らなかった。 飛び散ったクリームが草に付着している。 れいむはそこまで気にしなかった。 巣穴に帰ろうとしたとき、先ほどのぱちゅりーの言葉が耳の奥に蘇った。 その途端、先ほどの感情の奔流が再び襲ってくる。 れいむは髪を振り乱して暴れた。 (おさしっかくだわ) 「ちがう! ちがうよ!」 「どうかしたみょん?」 いきなり声を掛けられてれいむは10cmほど飛び上がった。 「みっ、みみみみょん、おかえり!」 「ゆん……なにかしてたみょん?」 「なんでもないよ!」 みょんもれいむに続いて巣の中に入る。 訪問は空振りだった。 ぱちゅりーの巣まで行っても誰もいなかったため、 みょんは道々ぱちゅりーを探しながら帰ってきていた。 それでもぱちゅりーは見つからなかった。 みょんはそちらに気を取られて、れいむの様子がおかしいのに気がつかなかった。 すぐそこに、今しがたぱちゅりーが吐き出したばかりのクリームがあった。 それには気付かずに、みょんが言う。 「おかしいみょん、おうちまでいってもおさがいなかったんだみょん」 れいむは餡子が口から飛び出しそうになった。 「……」 「あした、もういちどいってみるみょん」 「そ、そうだね!」 れいむは精一杯平静を装った。 応える声が震える。 「どうかしたかみょん?」 「なんでもないよ! おちびちゃんたちが起きちゃうから、もう ねようね!」 「それもそうだみょん」 疲れていたのか、みょんはすぐ眠りについた。 れいむは眠る態勢になっても、ぱちゅりーの言葉が耳について離れなかった。 うずくまったれいむの周りを、ぱちゅりーがぐるぐる回って繰り返す。 (おさしっかくだわ――しっかくだわ――しっかくだわ) れいむは眠れずに苦しんだ。 顔をしかめて、唸り声を上げる。 だがぱちゅりーの幻影も、やがて頭の中から消える。 しばらくしてれいむは眠りに落ちた。 5 翌朝はうって変わっていい天気だった。 ぱちゅりーがいなくなったことは、まだみょんしか知らなかった。 洞窟では、赤ゆたちがもう起き出してじゃれまわっていた。 「ゆっゆっゆっ、ごはんしゃんはゆっくちちてるにぇ!」 「きゃわいいれいみゅがごはんしゃんたべるよ!」 赤れいむたちは食欲旺盛だった。 ご飯の山にすがりつき、全身で喰らいつくように木の実を口に運んでいく。 「ちーんぴょ! やめてみょん!」 赤みょんはご飯にありつけないでいた。 一匹だけ遅く生まれて体が小さいみょんを、姉れいむたちが邪魔するのだった。 れいむ種同士の連帯感で、赤みょんは仲間外れになっていた。 「ちびのいもうちょはたべにゃいでにぇ!」 「こっちくるにゃ!」 「このごはんしゃんはれーみゅたちのもにょだよ!」 赤れいむたちが小さな体で赤みょんを左右から挟むと、 押し出すようにしてご飯の前から弾き出してしまった。 「おちびちゃん、やめるみょん! ちゃんとなかよくわけるみょん」 赤みょんに寄り添ったみょんが叱責を飛ばす。 「まあまあ、みょん、おちびちゃんたちもわるぎはなかったんだよ! あんまりおこらないであげてね!」 「み、みょん」 れいむがそう言うので、みょんは引き下がった。 赤れいむたちは、れいむの側に固まってプルプル震えている。 「わかったみょん。こんどはなかよくたべられるみょん?」 「ゆっくちわかっちゃよ!」 「おちびみょんのぶんは、みょんがとってくるみょん。けんかしちゃだめだみょん」 みょんは、巣を出て行った。 途端に姉れいむの一匹の表情が変わる。 「ゆぅぅ~おきゃーしゃんにおこられちゃよ!」 「おまえのしぇーだ!」 「ちーんぴょ!」 姉れいむたちが赤みょんへ苛立ちをぶつけた。 取り囲んで小突き回したり、おかざりを噛んだりする。 そんな光景をれいむは見て見ぬふりをしていた。 ときおり「あんまりけんかしちゃだめだよ!」と当り障りのないことを言うだけだった。 みょんが帰ってきたとき、赤みょんがすっかり怯えて洞窟の隅で震えていた。 「どうかしたみょん?」 「おきゃーしゃん、おきゃえり!」 「そのごはんしゃん、たべちぇもいい?」 「これは、ちびみょんのぶんだみょん。ちびれいむちゃんたちはさっきたべたみょん?」 赤みょんにご飯を与えながら、みょんがどこか違和感を感じていたが、その正体はついにわからなかった。 日が高くなるにつれ、群れのゆっくりたちは様子がおかしいことに気がついた。 前長のぱちゅりーの姿が見えないのである。 日中、あまり外に出ない前長ぱちゅりーは巣の中でじっとしていることが多かった。 傷まりさはいち早く、前長がいなくなったのを見つけた。 新しい巣に移り住んでからも、傷まりさだけは前長ぱちゅりーにご飯を届けていた。 傷まりさは長選出の時にれいむに票を入れなかった数少ないゆっくりだった。 案の定、前長ぱちゅりーのことを蔑ろにした上に、慣習を利用してご飯を集めさせたれいむが気にいらなかった。 今でも傷まりさは、長はぱちゅりーひとりだけだと思っている。 それで、狩りが十分に出来なくなった前長ぱちゅりーの代わりに、できるだけ多く狩りをするようにしているのだった。 前長ぱちゅりーの巣はがけの斜面にある大きな窪みだった。 斜面に埋まっていた岩が何かの拍子に崩れ落ちて土がえぐれている。 今にも崩れてきそうな危なっかしい巣だった。 傷まりさがご飯を届けに行った時、巣の中に長の姿はなかった。 辺りを探しても見つからず、焦った傷まりさは自らのつがいのありすに告げ、 そこから群れ全体に前長ぱちゅりーが失踪したと広まった。 傷まりさはれいむの洞窟にも赴いた。 洞窟の前に生えた草は着々と背を伸ばしている。 一本だけ延びた、周りより背の高い草を押しのけて、傷まりさは洞窟の前に立った。 みょんが入口にいた。 れいむは狩りに行っている。 「ゆっくりしていってね!」 傷まりさは前長がいなくなったことを告げた。 「ぱちゅりーが?」 みょんは腑に落ちたという顔をした。 やはりいなくなっていたのか。 みょんは傷まりさに、昨日の夜から前長ぱちゅりーの姿が見えないということを伝えた。 「ゆゆ、それはへんだぜ」 「いったい、どこへいったんだみょん?」 二匹は体を左右に傾けている。 「みんなにきいてみるのぜ!」 まりさは森へ戻ろうとする。 そこへぷんと甘い匂いが漂ってきた。 「こんなところにあまあまさんなのぜ?」 傷まりさは匂いの元を探し始めた。 下草をおさげでざん、ざんと払っていく。 みょんもその匂いに気づいた。 風の具合で、不自然に甘い匂いが漂ってくるのを感じる。 「ほんとだみょん」 洞窟の入口から少し離れたところの岩陰で、傷まりさは打ち捨てられて汚れた前長ぱちゅりーの帽子を見つけた。 「ぱちゅりーのぼうしだぜ……」 その周りにはクリームが飛び散っていた。 虫が黒くたかっている。 後からついてきたみょんはその光景を見て少し怯んだ。 「おさ……のおぼうし……」 ぱちゅりーを探しに行った時、ぱちゅりーは巣穴に居なかった。 そのとき、ぱちゅりーはもうここまで来ていたのだろうか。 なんのために? 今、ぱちゅりーはどこにいるのだろうか? みょんが考えていると、傷まりさは前長ぱちゅりーの帽子を拾い上げた。 「むれのみんなにしらせてくるんだぜ」 傷まりさは消沈した様子で跳ねていく。 周りに飛び散ったクリームの量から考えて、前長ぱちゅりーが無事だと信じるのは難しかった。 一縷の望みをかけて、群れのみんなに知らせることしかできなかった。 みょんはそれを見送った。 みょんは、前長ぱちゅりーが消えたことにれいむが関わっている気がした。 何の根拠もない思い付きだったが、なぜかみょんには奇妙な実感を伴って感じられた。 その直感が当たっていなければいいとみょんは思った。 まりさが帰ってきたのはその翌日のことだった。 群れの外れにある今はもう誰も住んでいない巣穴を、一匹のありすが通りかかったのは本当に偶然だった。 狩場から帰る途中、木の実をかちゅーしゃに乗せて巣に戻るありすは、 かつてれいむとまりさのつがいが住んでいた薄暗い巣穴の中に、ぼうっと佇む影を見かけたのだった。 後ろ姿に、ぼんやりとした面影がある。 「まりさ……まりさなの……?」 ありすが声をかけると、まりさは振り向いた。 きゃっと声をあげる。 満身創痍の格好だった。 まりさの顔は、溶けかけのマシュマロのように溶け崩れ、 片方の目は、垂れ下がってきた皮にふさがれて完全に閉じている。 よく見ると全身がぼろぼろで、おさげも長さが半分になっていた。 「どうしたの、まりさ……! いきてたのね……ああ、でも、なんてひどい」 まりさは無言だった。 「にんげんにやられたのね? どうしよう……ぺーろぺーろしましょうか」 まりさは体を横に振ると、ほとんど聞き取れないようなかすかな声で呟いた。 「……れいむは?」 その目は呆然と誰もいない巣穴の中を見ている。 「ああ、そうね。あのね。れいむはここにはすんでないのよ。おさのいえにうつって……」 「おさ!?」 その声だけが異様に大きかったので、ありすはびっくりした。 「そうよ。れいむはあたらしいおさになって……みょんといっしょになったわ」 しばらく誰も喋らなかった。 やがて、まりさの片方の目からぼろぼろと涙が溢れて、体を伝って地面に落ちた。 「まりさ」 ありすは声をかけることも出来ず、しばらく二匹で立ち尽くしていた。 まりさが帰ってきたという報せは、すぐに知れ渡った。 人間に連れ去られ、死んだと思われていたまりさが ひょっこりとありすに連れられて現れたという報せは、群れを喜びに溢れさせた。 あわて者のちぇんが群れ中を駆け回り、まりさが帰ってきたことを話して回った。 ちぇんはれいむの洞窟に駆け込むと、まくしたてた。 「たたたいっへんだよー! まりさがかえってきたんだよー!」 昼にもかかわらず眠っていたれいむが洞窟の奥からのっそりと起き上がってきて、その言葉を聞いて理解するのにたっぷり十数秒かかった。 「まりさが?」 「そうだよー! なにねぼけてるの! れいむのつがいのまりさだよ!」 ちぇんはじっとしているのがもどかしくてたまらないというようにその場で何度も飛び跳ねている。 れいむの返事も聞かずに再び跳ねだした。 「ほかのみんなにもしらせなきゃなんだよー! わかってねー!」 れいむは頭を巡らせていた。 ちぇんの後ろ姿をぼんやり眺めながら、餡子脳に様々な感情が荒れ狂う。 本当にまりさなのか。 なぜ今頃帰ってきたのか。 人間に殺されたのではなかったか。 何より、れいむはみょんとすでに幸せな暮らしを始めてしまったのである。 まりさのことを、辛い思い出と共にようやく忘れかけていた頃にまりさは帰ってきた。 今れいむはみょんと幸せに暮らしている。少なくともれいむはそう思っている。 れいむはまりさが以前ほど大事に思えなくなっていた。 現れて欲しい時に現れず、みょんとの暮らしを壊そうとするまりさは、 すでにれいむの中で邪魔者に成り下がっていた。 ちぇんが見えなくなると、洞窟からみょんが出てきた。 みょんは複雑な気分だった。 れいむのつがいで、人間に連れ去られて死んだと思われていたまりさが、生きていた。 みょんはまりさと話したことはなかったが、小さい群れだから、見かけたことは何度かある。 今思えばれいむと仲良さそうにしていた。 れいむとつがいになったとき、まりさはもういないのだから、という気持ちがあったことは事実だ。 まりさを失って悲しんでいるれいむの姿はとても寂しそうに見えた。 最初は同情だったかもしれない。 だが何度も逢ってれいむと一緒に過ごすうちに、れいむ自身に惹かれていった。 だが今のれいむはあの頃とは違いすぎた。 みょんは揺れていた。 れいむの優しさは、誰に向けられたものなのだろう? 全てまやかしだったのだろうか。 自己中心的で自らを省みないれいむが、本当の姿なのだろうか。 確かめたいと思った。まりさに会えば、なにかわかるのではないか。 そんな思いでれいむに呼びかけた。 「れいむ、いってみるみょん。おちびちゃんは、しばらくおいていくみょん。 おかーさんたちが いないあいだ、なかよくおるすばんできるみょん?」 みょんはそう言って、洞窟の中へ振り返った。 赤ゆたちは巣の中を転げまわって遊んでいる。 「ゆっ、へーきだよ!」 「いっちぇきてにぇ!」 れいむも、すぐに済むだろうと思って出かけることにした。 「いこたちだね! いってくるよ!」 れいむとみょんは連れ立って、まりさがいる丘の上に向かった。 丘の上には群れのゆっくりたちが集まっていた。 長の選出のときほどではないが、大勢のゆっくりがいる。 前長ぱちゅりーの姿は見えない。 ゆっくりの輪に囲まれた中心にまりさはいた。 れいむが来ると、その輪が割れてまりさの姿が見えた。 ぼろぼろの姿だった。 れいむは、一目見るなりこう言った。 「どうして帰ってきたの!?」 まりさは面食らった。 かつてのつがいへかける言葉とは思えなかった。 信じられないという表情で固まっている。 周りのゆっくりたちも同じ気持ちだった。 「れいむはもうみょんとくらしてるんだよ! まりさはおよびじゃないよ! ふたりのしあわせーなせいかつをじゃましないでね!」 みょんは驚きながらもそれをじっと見ていた。 「れいむ……どうして」 まりさが呆然とつぶやく。 「そうよ!」 周りのゆっくりたちからも声が上がる。 叫んだのはリボンぱちゅりーだった。 「まりさは、にんげんにひどいことをされて、それでもれいむにあいたくて、いっしょうけんめいここまでかえってきたのよ! なのにどうしてそんなこというの!」 「う、うるさいよ!」 「あなたはまりさの かっこうが見えないの? ありすがまりさをみつけたとき、あなたはなにをしていたのよ! おさだというのに、いちばんあとにきて、まりさはずっと あなたにあいたがってたのに!」 「ゆうう! やめてね! ゆっくりできないことをれいむにいわないでね!」 れいむの餡子脳は激しい糾弾に耐えられなかった。 激しくれいむを責め立てるリボンぱちゅりーの姿が、長だったぱちゅりーの姿と重なる。 れいむは思っている。 ぱちゅりーたちは、自分たちの頭のいいのを鼻にかけている。 れいむにはわからないことを延々と喋り続けるいやなやつだ! 実際にはそんなことはないが、れいむの意識はそういう風に凝り固まってしまっていた。 どんな忠告も、れいむには届かなかった。 ゆっくりできない言葉として聞く耳を持たなかった。 強いストレスに晒されたれいむの餡子脳に、昨夜の光景がフラッシュバックした。 ゆっくりできないことをたくさん言う前長ぱちゅりー。 反論できないれいむ。 爆発したれいむはぱちゅりーに襲いかかる。 目の前が真っ白になり、何も考えられない。 気がつくと、ぱちゅりーは自分の下にいた。 体はペチャンコになっている。 もう助からない――。 れいむは前長ぱちゅりーを殺したことを認めたくなかった。 葛藤とプライドの間で、れいむの餡子脳は苦しんだ。 れいむはわずかな間、意識を手放した。 意識の手綱から逃れたれいむの体が、勝手に昨夜の出来事を再現する。 前長ぱちゅりーを潰した時と同じように、大きな体で飛び上がった。 時間が非常にゆっくりと流れていくようだった。 みょんたちの見ている前で、れいむはリボンぱちゅりーの方へ飛びかかった。 リボンぱちゅりーは恐怖に顔を歪めるが、とっさに動けない。 見上げる顔にれいむの影が差した。 誰よりも早く動いたのはまりさだった。 横から飛び出してきたまりさが、リボンぱちゅりーを咄嗟に突き飛ばした。 リボンぱちゅりーは吹っ飛ばされて、地面に転がった。 まりさはリボンぱちゅりーと入れ替わる。 さっきまでリボンぱちゅりーのいた位置に、まりさがいた。 バランスを崩したまりさは、へたりこんだ。 すぐには動けそうにない。 そこへれいむの体が空から降ってくる。 まりさが最後に見たのは、襲いかかるれいむのあんよだった。 時間が動き出した。 「じねぇぇぇ! わからずやのぱちゅりーはゆっくりしんでねぇぇ!」 リボンぱちゅりーはゆっくりと目を開けた。 れいむがまりさの上に乗って飛び跳ねている。 誰かの悲鳴が上がった。 れいむはただ夢中で飛び跳ねている。 もはや目の前のゆっくりが誰だかも、自分が何をしているのかも、 興奮と目の前の幻覚のせいでわからなくなっていた。 血相を変えたありすや傷まりさが、れいむを引き剥がした。 もみあげを後ろから一本ずつ捕まえて引っ張る。 れいむが動こうとすると、もみあげの付け根に激痛が走った。 れいむのあんよの下から出てきたまりさは、すでに息絶えていた。 「れいむ、なんてことを……」 「ゆわああああ!」 錯乱して暴れるれいむの姿を、群れのゆっくりたちは見ていた。 小さなざわめきが広がる。 本当にこれが、人間に立ち向かったあの英ゆんれいむだろうか。 ゆっくりたちが、薄々感じながらも、押し込めていた不安が、段々大きくなり始めていた。 あまつさえ、目の前でまりさを殺したのだ。 れいむが長であることに疑問を抱く者もいた。 れいむは暴れながら叫ぶ。 拘束から逃れようとするが、もみあげを動かせば動かすほど、根元がちぎれそうなくらいに痛んだ。 「ぱちゅりーはれいむをばかにしたよ!」 「なにいってるんだぜ!」 「れいむのことをおさしっかくっていったんだよ! れいむはおさなのに! おさなのに!」 「おちつきなさい!」 れいむはやっと我を取り戻した。 荒い息をついて辺りを見回す。 体中が風邪をひいて高熱を出したときのようにぶるぶる震えていた。 「れいむ!」 みょんが急いで跳ねてくる。 「みょん、みょん! どうしたの! なんでれいむはうごけないのぉぉ!」 「おちついて、れいむ、おちついて……」 みょんが寄り添うと、れいむの震えは止まった。 目が泳ぎ、忙しなく周りを見回す。 自分が何故拘束されているのか分かっていないようだった。 「れいむ、どうして、こんなことを」 「ゆ?」 れいむは改めて、今自分がしたことを見た。 潰れているまりさの死体と、周りのゆっくりたちの表情を見る。 「まりさがつぶれてるよぉぉ!」 「れいむがやったんだみょん」 みょんは静かに言った。 「れ、れいむはわるくないよ! ま、まりさがきゅうにとびだしてきたから!」 「ゆっくりごろし!」 ありすが叫んだ。 「れいむじゃないよ! れいむはわるくないよ! まりさが、れいむとみょんのじゃまをするからだよ! あんなたやつは、しんでとうぜんなんだよ! まえのおさみたいに……」 「れいむ、今なんていったんだぜ!」 すぐに口をつぐんだが、傷まりさがそれを聞いていた。 れいむは、自分が何を口走ったかに気がついて、慄然とした。 「こたえるんだぜ! れいむ!」 傷まりさは噛みつきそうな表情でれいむを真正面から睨みつけた。 れいむは目をそらしたが、目は左右に泳ぎ、体中に甘い汗をかいている。 傷まりさの刺すような視線から逃れられなかった。 そのやり取りを聞いていた群れのゆっくりたちも、れいむの言ったことの意味がわかりかけてきた。 前長ぱちゅりーは、行方不明になっていたはずだった。 なぜれいむは前長ぱちゅりーが死んでいると知っているのだろう? みょんの悪い予感は当たってしまった。 前長ぱちゅりーが死んでいるのを知っているのは、れいむが殺したからに他ならなかった。 れいむはすっかりおとなしくなって、傷まりさたちに囲まれている。 みょんはそこへ近づいた。 震える声で、訊ねる。 「れいむ……ほんとうのことをこたえてほしいみょん」 れいむを強い視線で見つめた。 真剣な視線で訊ねる。 「まえのおさのぱちゅりーを、ころしたみょん?」 「れいむは、わ、わるくないよ! ぱちゅりーが、ゆっくりできないことをたくさんいってきたから……」 それが答えだった。 みょんはかつてない絶望感に襲われた。 頭の奥がすっと冷えて、今まで立っていた足元が急に崩れていくような感覚だった。 吐き気までした。 誰よりも前長ぱちゅりーを慕っていた傷まりさは、激昂した。 感情のままにれいむに飛びかかった。 体当たりがれいむにぶつかる。 「なんで、ころしたんだぜ!」 「なにするの!?」 れいむはややよろめいて、二、三歩飛びすさった。 さきほどまでの勢いはなかった。 完全に気圧されていた。 もはや、誰の目にも明らかだった。 れいむは前長ぱちゅりーを殺し、今も、つがいだったまりさを殺した。 身の毛もよだつ所業だった。 しかもれいむには自覚がなかった。 もはや全て自分以外の責任にすることで、自己を保っている状態だった。 小石が飛んできて、れいむのそばに落ちた。 「ゆっくりごろし!」 誰かが叫ぶと、その声はあっという間に大量の怒号となってれいむを襲った。 「ゆっくりごろし!」 「おまえなんか、おさじゃない!」 「れいむはおさだよ! なにいってるのぉぉぉ!」 れいむは反駁した。 だが、ゆっくりたちの叫びの前に、簡単にかき消されてしまった。 周囲を囲むゆっくりたちは、今にも襲いかかってきそうな雰囲気だった。 れいむはすぐさま逃げ出すことを決心した。 今まで、長として言うことを聞かせてきたゆっくりたちが、自分の前に大勢立ちふさがっている。 圧倒的な数の差に、すぐに心細くなった。 「みょん、にげようね!」 れいむは体を翻して、みょんと跳んだ。 みょんを押すようにして、自らも丘の上から斜面にダイブする。 みょんは咄嗟に反応できなかった。 柔らかい草の地面に転がって、二匹は斜面を転がり落ちていった。 「おうんだぜ!」 「ゆおおー!」 傷まりさが号令をかけた。 ゆっくりたちは、熱気のこもった返事を返す。 れいむを憎むことで生まれた強固な団結だった。 傷まりさを先頭に、ゆっくりたちは丘を降りていった。 二匹は無事に下まで辿り着いた。 丘の上から転がってきた二匹は、地面が水平になるところで止まる。 草にまみれながら、何度かバウンドして勢いを失った。 「ゆぺ!」 れいむが起き上がって、辺りを見回した。 群れのゆっくりたちは、丘の上にいる。 しばらく時間を稼いだようだ。 みょんは魂が抜けたようにぼーっとしていた。 じっとうつむいて何も喋らない。 れいむの呼びかけにも反応しなかった。 「みょん、だいじょうぶ? ここまできたらもうあんしんだよ!」 追っ手の声が聞こえた。 れいむは逃げおおせたと思っていたが、群れのゆっくりたちも当然すぐに後を追ってくる。 傷まりさを先頭に、隊列が丘を降りてくるのが見えた。 「ゆぎゃぁぁ! もうきたよ! いそごうね!」 みょんは様子がおかしかった。 うつむいて、何も言わない。 返事がないので、れいむは肯定と受け取った。 れいむはみょんを引っ張るようにして跳ね出した。 茂みの中へ逃げ込んで姿を隠す。 追手は別の道を跳ねて行った。 6 時間は少し戻って、洞窟の中では赤ゆたちが餌を奪い合っていた。 赤れいむたちが、みょんの残していったご飯をお互いに独り占めしようと、 柔らかい体で体当たりをしたり、小さな歯で引っ張り合いをしている。 「こにょ!」 「れーみゅのだよ!」 「れーみゅにちょうだいにぇ!」 赤みょんは隅のほうで泣いていた。 取り合いとなると、みょんはいつも弾き出されてご飯にありつけないのだった。 興奮した一匹の姉れいむが、もう一匹を強く突き飛ばした。 玉突きのように押された姉れいむが、さらに赤みょんにぶつかって押し飛ばした。 赤みょんは洞窟の隅へ追いやられた。 その拍子に、木の実の山にぶつかる。 積まれた木の実の一つが、衝撃で揺れてみょんの目の前に落ちてきた。 それは、みょんが赤ゆたちに何があっても食べてはいけないと念を押していたものだった。 今では蓄えを継ぎ足す者もなく、ひっそりと乾いていくのを待つだけだった。 赤みょんは喉を鳴らした。 今なら姉れいむたちはこちらを見ていない。 この木の実を自分が独り占めできる。 姉れいむたちに教えたら、自分だけ押しのけられて、食べられなくなってしまう。 それは嫌だった。 今すぐ食べてしまいたかった。 舌を伸ばしかけたその時、赤みょんの餡子脳に母親の顔が浮かんだ。 優しくて、この世の誰よりも自分を守ってくれる母親。 もしこれを食べれば、みょんは悲しむだろう。 正直に話せば、お腹がすいて仕方がなかったと慰めてくれるかもしれない。 だが、心の奥では、約束を破った子供に深く失望するだろう。 実際にはみょんは、むしろ充分に言い聞かせなかった自分を責めるはずだった。 しかし幼い赤みょんにとっては、母親が世界の全てであり、 その言いつけに背くことは考えられなかった。 赤みょんは、舌を引っ込めた。 「ゆっ、ちびみょんがごはんをひとりじめしてるよ!」 姉れいむの一匹が、赤みょんに気づいて大きな声をあげた。 「よこしちぇにぇ!」 姉れいむたちは、みょんの言いつけなど覚えていなかった。 赤みょんを無視して木の実の山に殺到する。 群れのゆっくりたちが長い間かけて集め、前長ぱちゅりーが守ってきた貯蔵庫は 赤れいむたちの限度を知らない食欲の前にあっけなく崩れ去った。 赤れいむたちは一心不乱に食べ散らかしている。 三方から木の実の山に取り付いてトンネルができそうな勢いで食べ続けた。 赤みょんは洞窟の隅でそれをじっと見ていた。 やがて赤れいむたちは満腹になった。 これ以上ないというくらい膨らんだ腹が顔の下にぶらさがっている。 ひょうたん形になった赤れいむたちは、自分の力では動けないくらい太っていた。 「おにゃかいっぱいになったら、うんうんしたくなっちぇきちゃよ!」 「れーみゅたちの、すーぱーうんうんたいみゅはじまるよ!」 三匹は揃ってうんうんをした。 ぷんと甘い匂いが洞窟に充満した。 匂いは洞窟の隅にも漂ってきて、赤みょんは吐きそうになった。 ゆっくりのうんうんは、ただの古い餡子だった。 うんうんを臭く感じるのはゆっくりだけで、それ以外の動物にとってはゆっくり自身と何ら変わりがない。 一匹の蟻が洞窟に入ってくる。 甘い匂いにつられて、迷い込んできたようだった。 赤れいむたちは、動けない間の暇つぶしに揉み上げや下で蟻を追い回して遊んだ。 「ゆっ! にげないでにぇ!」 「ゆっくちれいみゅに ちゅぶされちぇにぇ!」 蟻はあちこち逃げ回りながら、うろうろと歩く。 赤れいむたちのうんうんを見つけると、その周りを何度か回って、洞窟から出た。 「にげちゃったよ! やっぱり ありさんはよわいね!」 「れーみゅたちは かんっだいっだから、かえしてあげりゅよ! かんちゃちてにぇ!」 数分後、獲物のありかを報告した斥候蟻が、巣の中の働きアリたちを引き連れて戻ってきた。 一列に並んだ蟻たちは、甘いにおいを発するれいむのうんうんに目をつける。 赤れいむたちは、食べ過ぎた木の実のせいで身動きが取れなかった。 「ゆ、ゆわぁぁぁ! いっぱいきちゃよぉ!?」 「ありしゃんこないでにぇ!」 蟻たちは、地面に転がっている大きな獲物を嗅ぎつけた。 甘いうんうんと同じ匂いが、その薄い皮の奥にたっぷり詰まっている。 「やめちぇにぇ! れーみゅにのぼってこにゃいでにぇ!」 「ゆわぁぁ! いちゃいよ! おきゃーしゃん!」 赤れいむたちはゆっくりと解体されていった。 巣の外にはすでに長い行列ができている。 Vの字の行列が折り返す場所に、赤れいむたちはいた。 行きには何も持っていなかった蟻たちは、帰りにはあんこのかけらを手に入れていた。 蟻たちは大きなあごで獲物をちぎり取る。 「やめぢぇにぇ! ぢぎらないぢぇにぇ!」 体中を這い上り、口から侵入し、内部を食い破る。 「いぢゃいい! おとーしゃん! おきゃーしゃん!」 一匹の赤れいむの目玉がぽろりと落ちて、空洞の眼窩の中から蟻が這い出てきた。 「れーみゅのふろーれすなおめめがぁぁぁ!」 赤れいむたちは身動きが取れず、仰向けになったまま、 体を這い回る蟻の感触に脅え、力強いあごで皮と餡子をごっそりもっていかれる痛みに泣き叫んだ。 「ゆぴゃぁぁぁ! ゆぢぃぃぃ!」 「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……」 「もっと……ゆっくち」 動かなくなった赤れいむたちに群がる蟻の数が、更に増えた。 全身を黒い蟻が覆い、表面を動き回っている。 リボンが取れて、地面に落ちた。 蟻たちはお飾りには興味を示さなかった。 全ての蟻が去った後、洞窟の中には赤みょんと姉れいむたちのリボンだけが残されていた。 赤みょんは危険を感じて、木の実の山の上に避難していた。 蟻たちは、三匹の丸々太った餡子の塊を手に入れて、赤みょんまでは襲おうとしなかった。 赤みょんは、木の実の山の上でただ泣いていた。 「おちびちゃん、どこにいるの? これからでかけるよ! すぐにおかあさんのおくちのなかにはいってね!」 れいむは丘の上から降りた後、すぐに洞窟へ向かった。 おちびちゃんを連れて群れを出るつもりだった。 洞窟の外から、赤ゆたちに呼び掛ける。 洞窟の中は誰もいなかった。 れいむが洞窟の中を覗き込むと小さなリボンが三つ、餡子のかけらの中に落ちていた。 「ゆゆ? おちびちゃん?」 れいむの呼びかけに答えたのは小さな声だった。 「ち……」 「おちびちゃん? どこにいるの? おおきなこえでへんじをしてね!」 れいむは洞窟へ入った。 そこで赤れいむたちのリボンを見つける。 可愛いおちびちゃんたちの姿は見えなかった。 「ゆ、おちびちゃん?」 れいむはまたしても放心していた。 周りには餡子の欠片が散らばっている。 それが、おちびちゃんたちのなれの果てだと気づいて硬直すること約10秒。 その間に、赤みょんは隠れ場所から降りてきた。 「おとーしゃ……」 「おまえかああああ!!」 「ゆぴぇ!?」 固まっていたれいむが赤みょんを見て鬼の形相に変わる。 すさまじい剣幕で赤みょんに詰め寄った。 「れいむのかわいいおちびちゃんたちをどこへやったの!?」 「ち、ちんぴょ」 「だしてね! だしてね! いますぐかえしてね!」 今にも赤みょんを潰しかねない勢いのれいむを、みょんが止めた。 赤みょんに覆い被さるようにれいむの前に立ちはだかる。 それはまりさが人間かられいむを守ろうとした姿勢と似ていた。 「もうやめるみょん、れいむ。 おちびちゃんは きっとどうぶつさんにやられちゃったみょん。 めをはなしたみょんが わるいんだみょん」 「どおじでぇぇぇ! おちびちゃんいるんでしょおぉぉ! でてきてねぇぇぇ!」 答える声はなかった。 赤みょんの泣き声だけが洞窟に響いている。 「ゆっ……ふぅぅ……おちびちゃぁん……」 れいむはうつむいて、ぼとぼとと涙をこぼした。 やっと出来た、念願のおちびちゃんが、少し目を離した隙に、あっさりといなくなってしまった。 まさしく、まりさとのおちびちゃんの時とそっくりだった。 あの時と同じ悲しみを、再びれいむは味わった。 たとえようのない悲しみだった。 あとからあとから涙が出てくる。 そんなれいむを、みょんは冷静に見つめていた。 「ちびみょんがいきていてくれたみょん」 「でもそのおちびちゃんは、れいむに――」 似てないよ、と言おうとしたとき、外からがさっと音がした。 葉の擦れあうかすかな音だった。 見ると、ちぇんが凄い勢いで洞窟の側の茂みから遠ざかっていく。 「れいむたちがいたよー! こっちだよー! わかってねー!」 れいむは慌てた。 悲しいけれど、自分の命より大切なものはない。 「にげようね! もうすぐあいつらがくるよ!」 「……」 みょんは、少し迷う素振りを見せた。 一瞬その顔がよそよそしく凍りついた。 しかし、すぐに平静な顔に戻る。 れいむたちは急いで出発した。 6 夜は森を執拗に押し包んでいる。 れいむたちは広い草むらに出た。 そこは国道沿いの林のほかは何もなかった。 追手の姿は見えない。 日は完全に沈んで、月が出ている。 夜になって、捜索を諦めてくれればいいとれいむは思った。 三匹は背の高い草むらの中を進んでいる。 追手の目から身を隠すことができるが、お互いの姿も見えにくい。 草をかき分ける音と、跳ねる二匹の息遣いだけが聞こえた。 れいむは少し足を止めた。 国道が見えて安心したわけではないが、何度か休憩をはさんで、夕方から歩きづめだったので疲れていた。 苦しそうに体を上下させている。 「もうやだ……どうしてれいむがこんなめに……」 れいむは弱音を漏らした。 歯をむき出して目いっぱい悔しい表情で叫ぶ。 「どいつもこいつも、わからずやばっかりだよ! あんなむれはこっちから出ていってやったんだよ! わかってるよね、みょん?」 みょんは何も答えない。 うつむいて、じっと地面を見ているだけだった。 れいむはさすがに違和感を感じた。 静かすぎるみょんを振り返って、様子を確かめる。 「みょん? だいじょうぶ?」 その時、れいむたちの周囲を強い光が照らした。 二条の光が、林の間を抜けて三匹のいる草むらに届いている。 れいむは一瞬昼間になったかと思った。 光は自動車のヘッドライトだった。 エンジンのかかったまま国道の片側に寄せられたワゴンから発せられている。 闇を貫いて、れいむたちの周囲を白く切り取っていた。 れいむは車のエンジン音に気がつかなかった。 ここまで来るのに夢中だった。 だから、その車から出てきたのが何かも、初めはわからなかった。 れいむはその姿に見覚えがあった。 ぼんやりとした体。その上に乗った、おかざりのない顔。 ゆっくりから見ればアンバランスなその姿は、まぎれもなく「人間」だった。 その顔は、群れを襲ったあの人間に他ならなかった。 れいむの目に焼きついた、襲撃の光景がよみがえる。 あまあまをくれた人間は、れいむからもっと大きなものを奪っていった。 今ではそれはゴミ同然になってしまっていたが、 あの時れいむの運命を変えたのは間違いなくこの人間だった。 「ゆ……」 自分でも知らないうちに、れいむは小さく声をあげていた。 もみあげを震わせ、唇をかむ。 全ては、この人間の一言から始まった。 人間が戯れに突きつけた選択で、れいむたちの運命は狂ったのだった。 気がつくとれいむは人間に向かって突進していた。 「ゆわぁぁぁぁぁぁ!」 人間は何も言わず、足を少しだけ前に上げた。 れいむはその爪先に吸い込まれるようにぶつかり、次の瞬間には地面に転がっていた。 あまりにスムーズだったので、自分から蹴られに行ったようにも見えた。 「ゆぶ!」 顔の中心をへこませながら、起き上がるれいむ。 そのまま人間を見上げた。 その目は自分を理不尽な目に遭わせた人間への憎しみに染まっていた。 人間もれいむを見下ろした。 れいむは人間に対して命をかけて戦う意思などはじめからなかった。 憎しみや怒りはすぐに消えて、はるかに大きな恐怖が襲ってきた。 すぐに視線をそらした。 そしてれいむは我に返った。 複数のゆっくりの声が遠くに聞こえる。 追っ手はまだ諦めていなかった。 捕まれば、終わりだ。 おさげに持った木の枝で殴られ、突き刺され、ぱちゅりーと同じ死体になるまで踏み潰されることは餡子脳にも容易に想像できた。 前を見る。 ヘッドライトの逆光に照らされた人間のシルエットが立ちふさがっている。 人間は、必要ならいつでもその無慈悲な手を伸ばすだろう。 逃げ場はなかった。 どちらへ行っても、待っているのは死のみだった。 逃げ道をふさがれた恐怖に、れいむの心はゼリーのようにぐらぐらと揺れた。 あの時と同じだった。 れいむは人間と相対し、その周りを群れのゆっくりたちが取り囲んでいる。 違うのは夜だということ、そして隣に居るつがいだった。 れいむの脳裏に、人間の言葉が蘇った。 (群れかつがいか、どちらか選ばせてやろう) いちかばちかだった。 人間は今にも手を伸ばして、れいむを掴もうとしている。 れいむは咄嗟に叫んだ。 「もういちど! にんげんさん!」 人間の手がぴたりと止まった。 れいむの顔を見下ろす。 れいむは、媚びるような態度で必死に喋り始める。 「もういちどだけえらばせてね! むれか、つがいか、赤と青のあめさんをちょうだいね!」 人間はじっとれいむを見ている。 それで、どうすると言いたげだった。 「そしたら、れいむはこんどこそみょんをえらぶよ! あんなむれの やつらは、にんげんさんにつぶされちゃえばいいんだよ!」 周りで聞いていたゆっくりたちはどよめいた。 人間がれいむに味方すれば、ゆっくりたちは到底敵わない。 あの日の再来だった。 「ばーか! いまごろ こうっかいしても おそいんだよ! にんげんさんはつよいんだよ! にげても むだだよ! れいむを おいだしたり するから こうなるんだよ!」 取りつかれたようにれいむは喋り続けた。 目は血走り、口角泡が飛んでいる。 なりふり構っていられない状況だった。 「……」 それをじっと見ていた人間は、少し考えて、ポケットからあるものを取り出した。 赤色と青色の二つの飴玉だった。 こうなることがわかっていたかのように、二つを地面に置いた。 れいむは狂喜した。 人間が、自らの主張を受け入れた。 れいむの言うことを聞いて、再び選択のチャンスをくれた! 「やったぁぁ! みろぉぉ! れいむはただしかったんだよぉぉ! むれのやつらをぶっころしたら、みょんとふたりでくらそうね! ずっといっしょにゆっくりしようねぇぇ!」 人間はやっと口を開く。 「ああ、そうだな。でも、お前にばっかり選ばせるのも不公平だな。お前のつがいにも聞いてみようか」 「ゆっ?」 その場にいる全員の視線がみょんに集中した。 うつむいていたみょんが、ふうっと幽霊のように顔を上げた。 その顔に表情は浮かんでいない。 小さく「みょんが……?」とつぶやく。 れいむはぽかんとした。 「どぼじでぇぇぇ!?」 「みょんが選ぶか、全員潰れるかだ。黙ってろ」 みょんは黙ったまま人間の方を見る。 赤と青。 その足元には、依然として二つの飴玉がある。 みょんの目に、妙に鮮やかな色彩を伴って迫ってきた。 「みょん! ゆっくりしないでえらんでね! まようひつようなんてないよ! あかをえらんでね!」 れいむは絶対の自信を持っていた。 みょんとれいむはべすとかっぷるなんだよ! あんな群れなんか捨てて、れいむと一緒に暮らしてくれるよね! みょんはれいむから目を逸らしていた。 手近の枝を口にくわえる。 ゆっくりと枝が持ち上がっていき、飴玉のほうを向く。 枝は青い飴のほうを向いている。 みょんが選んだのは、群れだった。 「やっ……やべろぉぉぉ!」 れいむは顔を真っ青にして、虚ろな目をしたみょんに飛びかかった。 みょんにぶつかる寸前、その体ががくんと空中で停まった。 人間の大きな手がれいむのリボンをつかんでいた。 「ゆぎぃぃぃ!」 手の中で体をめちゃくちゃに動かして、何とか逃げ出そうと暴れる。 リボンが外れて、れいむの体は地面に落ちた。 「ゆぺ!」 顔面から叩きつけられる。 すぐに起き上がって、みょんに訴えかける。 「どぼじでぇぇぇ! あかをえらんでねっていったでしょぉぉぉ!」 「……」 みょんは黙っている。 人間は揶揄するような口調で言う。 「せっかく、みょんとつがいになって、おさにまでなったのに残念だったな」 「どぼじでしってるのぉぉ!」 人間が現れたのはこれで二度目のはずだった。 群れの事を知っているはずがなかった。 人間は答えない。 代わりに、うーぱっくが男の顔のそばに飛んできた。 「よくやったな」 「うー☆」 男があまあまを投げると、嬉しそうに口でキャッチした。 そのまま森の中へ飛び去っていく。 「こいつに見張らせていたから、何があったかは知ってる。いろいろ好き勝手やってたんだな」 「ゆ……そんな……」 「余計なおせっかいだとは思うが、群れの奴らの代わりに、俺がお前を潰していいか?」 「やめでぇぇ! だれかたすげろぉぉ!」 れいむは人間の手の中で暴れた。 それを、群れのゆっくりたちは冷ややかに見ていた。 「よく見ろ」 人間は無理矢理れいむに前を向かせる。 そこに並んだゆっくりたちの顔、顔、顔。 どれ一つとしてれいむに同情したり、悲しんだりしているものはなかった。 あるのは憎しみだけだった。 「どぼじでそんなかおするのぉぉぉ! れいむはおさだよぉぉ! ちゃんとうやまってねぇぇ!」 「お前、まだ良く分かってないのか」 人間は鉛筆をれいむのあんよに押し当てた。 薄い皮を突き破って、ゆっくりと先端が穴に潜っていく。 「……れいむはわるくないよ!」 人間がぐいっと鉛筆を押し込むと、三分の一以上が中に潜った。 餡を抉られる痛みに、れいむが体をよじる。 「わからないなら、教えてやろうか。まずみょんと無理矢理すっきりしたらしいな」 「ゆがぁぁぁ!」 人間は少し離れたところに次の鉛筆を刺した。 「無能のくせに長に立候補したんだっけな」 「ゆぎょぉぉぉぉ!」 二本の鉛筆からさらに離れた場所にもう一本が刺さった。 「自分で狩りに行かず、群れの奴らに餌を集めさせた」 「ゆぎゃぁぁぁぁ! やめでぇぇぇ!」 鉛筆が、今度はまむまむに突き入れられた。 れいむは全身を痙攣させて、敏感な粘膜餡が傷つく痛みに耐える。 「他のやつの餌を横取りした」 「ゆぎゃあ! いだいいい!」 すでにれいむの体からは、ハリネズミのように何本も鉛筆が突き出ている。 底面に正方形を書いて、その四隅に一本ずつ斜めに鉛筆が刺さっていた。 正面から見ると鉛筆がハの字形に突き出ているように見える。 れいむは半分白目を向き、浅い呼吸をしている。 「……ゆひぃ……ひ……ゆぐぅ」 「挙句の果てに、長のゆっくりを殺した」 人間は最後の一本を頭に刺した。 「ゆっぎゃあああああ! もぉやべでぇぇぇ! れいむがわるがっだでずぅぅぅ!」 「本気で言ってないだろ? 次、せっかく帰してやったまりさを殺した」 目を背けていたみょんがぴくりと眉を動かした。 人間はさらに適当なところに鉛筆を刺していった。 れいむは痛みをこらえながら反論する。 「れいむはっ! れいむはわるくないよっ! まりざなんでっ! まりさなんてじらないっ!」 「つがいだったのにか?」 「あんなやつ、つがいでもなんでもないよっ! かってにどっかいっでっ! れいむのじゃまをしてっ! ころしたほうがよがったんだよ!」 「お前のつがいのみょんも、きっとそう思ってるよ」 「ゆっ?」 れいむは激痛の中で、みょんの姿を見つけた。 すがるような視線で、目を背けたみょんを見る。 一縷の望みをかけて、叫んだ。 「みょん、れいむのことすきだよね!? だからついてきてくれたんだよね!?」 「ちがうみょん。ひとりではおちびちゃんは そだてられないから……。 でも、ちびみょん いがいは、ずっとゆっくりしちゃったから、もういいんだみょん」 みょんは淡々と答える。 れいむは一瞬痛みを忘れて呆けた。 「ゆ……え? ゆ……」 「はっはっは。もうお前はいらないってさ」 「みょんは れいむのこと すきじゃないのぉぉぉ! れいむは、れいむはこんなにみょんのことをあいじでるのにぃぃぃ!」 みょんは冷ややかに言った。 「れいむがあいしてるのは、じぶんだけだみょん」 後はもう、何も言わなかった。 頭の上の赤みょんと一緒に、じっと動かずにいる。 れいむは、みょんがここまでついてきたのだから、当然みょんも自分と同じ考えだと思っていた。 だからみょんにすんなり選択を促した。 みょんはれいむに嫌気がさしていた。 確かにれいむに半ば無理やりついてこさせられた。 だがそれはあの場に残るよりは一緒に逃げたほうがまだ助かる可能性はあるというだけの判断だった。 れいむがまりさを踏み潰した時に、みょんはふと思った。 れいむはみょんを好きだと言う。 でもれいむは、一度も自分の方を向いていなかった。 都合のいいゆっくりとして、そばに置いていただけだ。 れいむのことを信じたかった。 口先だけじゃなくて、何か行動で示してほしかった。 みょんはれいむを支えてきた。 でも、支えあうはずのれいむは、みょんによりかかっているだけだった。 みょんはもう疲れたのだった。 これ以上、れいむについていく気力はなかった。 心の底にはまだれいむを思う気持ちが残っていた。 だがそれは、風前のろうそくのように弱々しく消えかかっていた。 もはや、再びれいむと気持ちを通じ合うことはないと思えた。 れいむの絶叫が響く。 「どぼじでぇぇぇぇ!」 人間はそのままれいむを地面に置いた。 すると、鉛筆が三脚のようにれいむを空中に支えて安定した。 火星探査船やお盆に飾るナスのように、珍妙なバランスの物体が出来上がった。 「おろしてねぇぇぇ! うごけないとゆっくりできないい!」 れいむはもみあげをぴこぴこさせるが、あんよが地面に接していないのでどうやっても動けない。 次に人間は缶に入ったオイルを取り出して、少しれいむの頭に垂らした。 冷たい感触にれいむは声をあげる。ついでにオイルが口に入った。 「ゆひゃぁ! つめたい! にがいいい!」 ライターを取り出して、火をつけた。 火はれいむの肌の上を舐めて、皮と餡を焦がしていく。 「あづぅぅぅぃぃぃ! ゆがああああぁぁ! けじで! とめでぇぇぇ!」 もみあげで頭を叩いて消そうとするが、逆にもみあげに火が燃え移った。 あっという間にれいむの全身は火に包まれて、燃え盛る。 口の中からも炎が上がる。 声にならない悲鳴が炎の中から途切れ途切れに聞こえてきた。 ぱくぱくと酸欠の金魚のように口を開け閉めする姿だけが見える。 みょんは、赤みょんを口の中に入れる。 自身も目を逸らした。 人間からすれば、ただ饅頭が焼けているだけだったが、ゆっくりには凄惨過ぎる光景だった。 鉛筆の一本が焦げて折れ、地面に落ちてもれいむは燃え続けていた。 皮が焦げてめくれていき、中の餡が剥き出しになる。 それすらも強い熱によって水分が飛び、炭化していく。 れいむがいた場所には、何だか黒い塊が転がっていた。 しゅうしゅうと白い煙があがり、ぷんと焼けた餡の匂いが立ち上る。 表面は固く乾いてひび割れ、中から薄く煙が昇っている。 人間は、その塊を爪先で突き崩した。 表面は焦げているものの、内部の餡はまだ残っていた。 中枢餡も無事だ。 その小さな固く締まった餡の塊を慎重に焼け跡から取り出すと、水筒の中にしまう。 中にはオレンジジュースが入っていた。 「お前にもついてきてもらうぞ」 人間が手を伸ばした。 みょんが人間に捕まる。 掴まれた拍子に、口の中から赤みょんが飛び出た。 地面に落ちてぽとりと柔らかくバウンドする。 「ゆぴゃぁぁ!」 「おちびちゃぁぁん!」 人間は赤ゆには興味を示さなかった。 ザックを再び背負うと、来た時と同じように大股でさっさと歩いていく。 赤みょんは必死でに追いかけた。 小さな体で精一杯跳ねて追いすがるが、とても追いつけない。 どんどん引き離されていった。 「おちびちゃぁん!」 「おかーしゃぁぁ! おきゃーしゃ! まっちぇぇ! ゆぺ!」 地面の窪みにはまって、つんのめる赤みょん。 その間に、人間はどんどん草むらを歩いていってしまう。 人間の後ろ姿が、みょんの声と共に小さくなっていった。 途切れ途切れに聞こえる声が、赤みょんが聞いた最後の母親の声だった。 「……おちび……げんき……」 「まっちぇにぇぇぇぇ! おきゃーしゃぁぁぁん!」 人間は車に乗り込んだ。 まりさを連れ去った時と同じように、家で虐待するためのゆっくりを手に入れて家路につく。 つけっぱなしのエンジンが再び唸りを上げて、車は走り出した。 二度と戻ってこなかった。 「おきゃーしゃん」 ぽかりと口をあけて赤みょんは車が走り去った方向を見ていた。 とてつもなく不安だった。孤独と絶望が一気に赤みょんに襲い掛かった。 意地悪な姉れいむたちはありさんに食べられてしまった。 おとーしゃんは、にんげんさんにいっぱい痛いことをされて、おかーしゃんの口の中にまで悲鳴が聞こえてきた。 おきゃーしゃんはにんげんさんに連れて行かれちゃった。 これからどうやって生きていけばいいのだろう。 まだ狩りの仕方も教わっていないのに、赤みょんはひとりぼっちになってしまった。 知らず涙が溢れてくる。 「ゆぇ……」 声をあげた赤みょんに近づくゆっくりがいた。 傷まりさだった。 「れいむのおちびちゃん」 「みょん?」 赤みょんは振り返った。 視界が黒く蔭り、そのまま二度と晴れることはなかった。 傷まりさが、赤みょんに襲い掛かり、上からその小さな体を踏み潰した。 「ゆっくりしね! ぱちゅりーがしんで、なんでお前がいきてるんだぜぇぇ! おまえもしねっ! れいむのおちびちゃんも、れいむとどうっざいだよ!」 怒りの矛先を失った傷まりさは、限度を知らなかった。 息を荒くして、何度も飛び跳ねる。 周りのゆっくりは誰も止めなかった。 ようやく落ち着きを取り戻した傷まりさは、背を向けて群れのほうへ帰っていった。 群れのゆっくりたちも、それで気が済んだのか引き上げていった。 赤みょんは草の上で小さな白いチョコの染みになっていた。 朝露に溶けて流れてしまうほど、小さな染みだった。 うーぱっくのうーという鳴き声が、林に響いた。 それを聞くものはいなかった。 7 れいむは暗闇の中で目を覚ました。 体が熱っぽくて、だるい。 自分の体ではないみたいだ。 目を開けても視界が明るくならないので、夜なのだと思った。 辺りからはがさごそという音や、人間の話し声が聞こえてくる。 それらの音は妙にくぐもっていた。 れいむは記憶を辿った。 逃げている途中に人間が現れて、れいむは選択を要求した。 人間はそれに応えた。だが、選択をしたのは自分ではなかった気がする……。 そこまで考えて、れいむは自分の身に起こったことを全て思い出した。 群れを追い出されたこと。 れいむ似のおちびちゃんがすべて死んでしまったこと。 みょんに信じられないことを言われたこと。 そして、その後の人間に与えられた、苦痛の数々を。 思わず悲鳴を上げようとした。 だが、いくら声をあげようとしても、全く音が出ない。 いや、自分では叫んでいるつもりなのだが、口が開かない。 目も見えているのに暗いわけではなく、最初から開いていなかった。 どういうことだろう。 自分は人間に火をつけられた後、死んでしまったのだろうか。 死んで、ゆっくりが死後に行くというゆん国に召されたのだろうか。 それにしては様子がおかしい。 真っ暗で何にもない。それに、人間の声が聞こえる。 ゆん国はゆっくりだけの至上のゆっくりプレイスだ。 人間がいていいわけはない。 では、ここはどこなんだ? そこまで考えて、れいむは最悪の想像をした。 まさか、火をつけられた自分は、中枢餡以外全て焼けてしまい、 目も口も開けなくなったままずっと放置されているのでは? 中枢餡だけではものの2、3分しか生きられないが、そのときのれいむにはそんな考えはなかった。 ただ周りの様子がわからない恐怖と、ずっと目も見えず口も利けないまま過ごさなくてはならないという不安に押し潰されそうになっていた。 暗闇の中でれいむは、みょんを呼んだ。 まりさがいなくなって寂しい思いをしていた時、現れてくれたのはみょんだった。 単に長のところにご飯を持ってきただけだったが、それだけでれいむは救われた気がした。 だからみょんが好きだった。 誰よりも、まりさよりも、群れ全部と引き換えにできるほど。 でも、もう遅い。 自分はおそらく死んだのだろう。 みょんも人間に殺されたのだろうか。 燃え盛る火炎の中から見たみょんは、自分から目をそらしていた。 もっとみょんの気持ちを考えてあげればよかった。 自分がゆっくりするだけじゃなくて、みょんといっしょにゆっくりすればよかった。 ひとりじゃゆっくりできないよ。 みょんはずっとひとりだったの? れいむがそばにいても、ひとりだったの? ごめんね。 ごめんね。 いくら謝っても、みょんとはもう会えない。 その事実が、重くのしかかってくる。 もう一度みょんに会いたい。 会えなくても、せめてみょんだけは人間の魔の手を逃れて無事でいて欲しい。 れいむは声にならない声で叫んだ。 「みょん!」 それは、誰よりも自分の好きなれいむが、初めて自分以外の誰かのことを想った瞬間だった。 (れいむ) れいむの頭の中に、声が聞こえた。 「だれ!?」 (れいむ、こわくないみょん) 声はみょんのものだった。 慈愛に満ちた声が暗闇に響き渡った。 それだけで、辺りが明るくなった気がした。 「みょん、どこにいるの!? ごめんね!! れいむはいっぱいひどいことしたよ! まりさもころしたよ! ぱちゅりーもころしたよ! むれのみんなに めいわくをかけたよ! でもしんじてほしいよ! れいむはみょんがすきなんだよ! あいしてるんだよ!」 (れいむ、わかってるみょん。れいむのきもち、ぜんぶつたわってくるみょん) みょんの声は、相変わらず優しかった。 全てを受け入れたように、落ち着いた響きだった。 「みょん! こっちきてね! れいむといっしょにすーりすーりしようね!むーしゃむーしゃしようね! こんどはちゃんと、れいむがじぶんでごはんとってくるよ!」 (れいむ、それはできないみょん) みょんの声音が蔭る。 れいむは叫んだ。 「どぼじでそんなこというのぉぉ!? まだおこってるのぉ?」 (そうじゃないみょん。れいむはもうみょんと いっしょにいるみょん) 「だから、どこなのぉぉ! でてきてねぇぇ!!」 (れいむ、れいむはみょんの からだのなかにいるんだみょん) 「ゆっ?」 れいむは辺りを見回した。 相変わらず真っ暗だった。 れいむはあせりと困惑を顔に浮かべて、無理やり笑う。 「へ、へんなこといわないでね、みょん……おこってるの?」 (そうじゃないみょん。にんげんさんは、みょんにえらばせてくれたんだみょん。 "ちゅうすうあん"だけになったれいむと、ずっと一緒にいるか。ふたりでゆんごくにいくか。 みょんはずっと一緒にいるほうをえらんだんだみょん) 「にんげんさん!? にんげんにつかまったの?」 (にんげんさんは、みょんのあたまにれいむの "ちゅうすうあん"をうめこんだんだみょん) 「なにをいってるのぉぉぉ!」 (わからないなら、みせてあげるみょん) みょんがそう言うと、れいむの目が見えるようになった。 視界が一気に明るくなり、外の光景が目に入ってくる。 そこにはオレンジ色の世界が広がっていた。 ゆらゆらと揺れる前髪が目に貼りつく。 (れいむ、れいむもおんなじ けしきをみているみょん?) みょんは目を開いて、辺りを見回した。 人間のおうちの中のようだった。 視界の端で、人間が寝転んでテレビを見ている。 人間の声だと思ったものは、テレビから流れてくる音声だった。 どうやら、大きな水槽の中にみょんはいるようだった。 水槽の中には、オレンジジュースがたっぷり入っている。 その底の方でみょんはじっとしている。 頭の後ろの方が継ぎ足したように少し膨らんでいた。 水槽に沈んでいるのはみょん一匹だけだった。 みょんが目を動かすと、れいむの視界も一緒に動く。 人間がこちらに気付いて、水槽のガラスを指で叩く。 ゆらゆらと歪んだ姿がれいむの視界に大写しになった。 みょんは開けた目をすぐに閉じた。 辺りが再び暗くなる。 れいむはおぼろげに、何が起こったのか理解した。 たった今見た光景は、みょんの見たものだった。 それを、れいむも見た。 「ゆ……え……? ゆ、ゆふ、じょうだんだよね?」 (れいむ、これでずっと一緒だみょん) みょんの口調には一片の冗談も含まれていなかった。 れいむは絶叫した。 「ゆぎぃぃぃぃぃぃぃぃ! やじゃぁぁぁぁぁ!」 (にんげんさんは、ずっとこのままだって いってたみょん) 「やべでぇぇぇぇぇぇぇ! だじでぇぇぇぇぇ!」 (れいむ、みょんは うれしいんだみょん。 さっきのことば、れいむのきもちは、うそじゃないってわかったから。 これなら、れいむの考えてることは ぜんぶみょんにつたわってくるみょん。 もうれいむのことばに なやまされなくていいんだみょん。 たまには、むれのことも おもいだしたりして……) みょんは思い出に浸るように少し体を傾けた。 もうれいむに振り回されることはない。 楽しい記憶ばかりを、ずっと思い出していた。 叫び続けるれいむの意識の中に、みょんの記憶が流れ込んできた。 無理矢理すっきりさせられたときの、痛みと悔しさ。 雨上がりにご飯を運んできた時の、空腹と疲労。 巣の中でひとり、れいむを待っていたときの寂しさと辛さ。 そして、れいむに裏切られた時の絶望と苦しみ。 それらが全て、れいむの頭の中で混ざって弾ける。 みょんが幸せな記憶に浸っている間、れいむはずっと苦しみ続ける。 辛い記憶ばかりが、なぜかれいむに吸い寄せられるようだった。 壊れたシーソーのように、もうれいむが浮かびあがることはない。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! だずげでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 れいむの上げた悲鳴は誰にも届くことなく闇の中へ消えていった。 部屋には、変わった様子はない。 全てはれいむが目を覚ましてから、ほんの数分間のことだった。 水槽の中で目を閉じたみょんの口元が、わずかに微笑んだ。
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ゆっくりと雀蜂 「ゆゆっ! むしさん!ゆっくりたべられてね!」 「むーしゃ♪むーしゃ♪ しあわせー♪」 「おかーしゃんみてみてー! まりさいもむしさんつかまえたよー!」 「みんなとってもゆっくりしてるね! さすがれいむのこどもたちだよ」 ここは人里から離れた森の中。 そこには多くのゆっくりが外敵にも襲われず、平和にゆっくりと暮らしていた。 なぜならこの森にはゆっくりより大きな生物はいない。 強いて外敵を挙げるとすればカマキリや鳥などだが、 たとえ襲われようとも、ゆっくり達が力を合わせれば追い払える程であり、 多くのゆっくりはこの森で、外敵に怯える事無くゆっくりと生活している。 野生のゆっくりは食料として主に虫や花を食す。 特に、栄養溢れる虫はゆっくり達の好物であり、ゆっくり達は狩りと称し虫を捕っては食べている。 この家族も今まさに狩りの真っ最中である。 バスケットボール大の親れいむと親まりさが見守る中、子ゆっくり達が虫を捕っている。 子ゆっくり達はこの後家族でゆっくりと虫を食べるためにも真剣に狩りに勤しみ、 その様子をとても幸せそうに両親が見守っている。 「ゆっくりーのひー♪まったりーのひー♪すっきりーのひー♪」 子ゆっくり中には、狩りよりもお歌のがすきなゆっくりもいる。 みんな、親れいむと親まりさの大切な子供だ。 「ゆー♪ ゆっくりいっぱいむしさんつかまえたよ! きょうはごちそうだね!!」 「そうだね! これだけあればこんやはゆっくりできるね!!」 一匹の子まりさがたっぷりと虫を詰めた帽子を見上げながら幸せそうに親に擦り寄る。 そして親れいむがソフトボール大の子まりさをいとおしく擦り寄り返す。 「ゆ! きょうはこれぐらいにしてみんなゆっくりとおうちにかえるよ!!」 「「「ゆっくりおうちにかえるよ!!!」」」 親まりさが子ゆっくり達に大声で帰宅することを告げ、 子ゆっくりが揃って親まりさに負けないぐらいの大声で返事をする。 この家族はゆっくりの群れで暮らしている。 村長のぱちゅりーはとても賢く、群れのために尽くしている。 ゆっくり達はそんなぱちゅりーの下、みんなでゆっくりとした暮らしを満喫している。 いまこの家族が狩りをしていた狩場から村まではゆっくりの足で10分ほどの所にあり、 そこには50匹ほどのゆっくりが住んでいる。 「わ… わから…」 「ゆゆっ!! ゆっくりだいじょうぶ!?」 ――おうちに帰る道の途中、突然家族の先頭を進んでいた親まりさが驚きの声を上げた。 「ゆ!? このちぇんけがをしてるよ!!」 「ゆっくりどうしたの!?」 親まりさが見つけたのはゆっくりちぇんだった。 そしてまだある程度の距離はあるが、ここからでもわかる程にちぇんは傷つき弱っていた。 見覚えはない、おそらく他の群れのちぇんなのだろう、 いまも傷口から餡子を流しながら、ずりずりと這う様に森を進んでいる。 「ゆ…ゆっー!?」 怪我をしたちぇんが心配になり近づいた途端、家族は凍りついた。 「わ… わがらないよぉ゛…」 もう助からないかも知れない。 片目は潰れ、耳も尻尾も千切れて無くなってしまったちぇんを見て、まりさは悟ってしまった。 「こわいよぉ!! このちぇんゆっくりかわいそうだよぉ!!」 「ゆえーん! ゆえーん!」 「ゆゆっ! みんなだいじょうぶだよ! おかあさんたちがついてるからゆっくりあんしんしてね!!」 子ゆっくり達は今まで見たこともないような大怪我を負ったちぇんを見て怯え、 それを親れいむが必死になだめようとする。 「ゆ?」 その時親まりさは、ちぇんの体中に無数の小さな穴が開いており、その周辺は異常に赤くなっていた事に気が付いた。 しかし、今はそれよりも早くちぇんを助けることが優先だ。 「ちぇん! しゃべっちゃだめだよ! ゆっくりうごかないでまっててね! すぐにそんちょうのぱちゅりーをよんでくるよ!!」 親まりさがちぇんに動かずに安静にするようにちぇんに言い残し、 一人で急いで群れに向かった。 「ゆっくりげんきになってね!! ぺーろぺーろ」 まりさの去った後、れいむと子供達は虫の息のちぇんを懸命に舐めた、 応急処置にでもなれば。 そう思い懸命にちぇんを舐めるれいむ達。 しかし 「わ゛… わ゛がらな゛…」 「ぺーろぺーろ!」 「おかーさん! だめだよちぇんがぜんぜんゆっくりできてないよ!!」 「ゆぅ…」 舐めて治るような傷ではない。 れいむ達はぱちゅりーを呼びに行ったまりさに全てを託し、 自分達には見守るしか術が無いことを悟った。 「ゆっくりだいじょうぶ!?」 「ゆゆっ!こっちだよ! ゆっくりしないではやくきてね! そうしないとちぇんがゆっくりできなくなるよ!!」 涙目になっていたれいむの顔が一瞬で明るくなった。 れいむの視線のその先には、最愛のつれあいと村長のぱちゅりーがいた。 「はあはあ… むきゅ…」 まりさが急かしたのだろう。 体力の少ないぱちゅりーは顔を青ざめぜえぜえと必死で呼吸している。 「ぱちゅりー! ゆっくりしないではやくたすけてあげてね!!」 「むきゅ… わかってるわ!」 ふらふらとしながらもぱちゅりーがちぇんに近づく。 しかし、ぱちゅりーは傷を眺める以外に特に手を打たない。 いや。打てないと言った方が正しいだろう。 「むきゅ…」 「どうしたのぱちゅりー! なんなにもしてくれないの!?」 痺れを切らしたれいむが声を張り上げる。 なぜたすけてくれないのか? れいむは唯一期待していたぱちゅりーがなにも手を打たないことに怒りをあらわにする。 「は…が… にげ…」 「むきゅっ!?」 ――突然。消えてしまいそうなほど弱弱しい声で ちぇんが近くにいるぱちゅりーに何かを伝える。 「むきゅ! なんていったの!? もういっかいいってね!」 聞き取れなかった。 れいむの怒鳴り声に紛れて、ちぇんがなんと言ったのかぱちゅりーには聞き取れなかった。 そして… (らん…しゃま… さむいよ… くるしいよ… たすけて…よ………) 「ちぇん! しっかりしてよ!!」 思わずまりさが声を出す。 今まさに、ちぇんの大切なもの――命が抜け出してしまう。 まりさはそんな気がしたのだ。 そしてそれは正しかった。 「ちぇん…」 ぱちゅりーは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 なぜ、自分はちぇんを助けることはおろか、 ちぇんが最期、自分になんと言ったのか、それすら聞き取れなかったからだ。 そしてぱちゅりーは思案する。 ちぇんはなぜ、他所の群れのちぇんが自分達の群れの近くに来て なぜ、この平和な森の中であのような惨たらしい傷を負い、 そして、最期になんと言ったのか。 しかし、一言だけぱちゅりーには聞き取れた。 それは… 『はち』 ――翌朝 「ゆっくりしていってね!!」 「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」 いつもと変わらない朝。 親まりさは目覚めると同時に声を張り上げる。 その声は洞窟の中で反響し、家族の目を覚ます。 そしてまりさに「ゆっくりしていってね!!」と声を返す親れいむと子供達 いつもと変わらないはずの朝。 しかし、家族はみなどこか暗く元気が無いように見える。 特に一番下の子まりさは明らかに元気が無い。 しかしそれは仕方の無いことだと親まりさは思った。 突然目の前で起きた出来事。 子供達が初めて目にするリアルな死。 例えそれが初対面のゆっくりとは言え、子供達の心に深い衝撃を与えたことには変わりは無い。 昨日、ちぇんが死んだ後、親まりさは涙を潤ませながらちぇんの亡骸を土に埋めた。 そのそばでゆんゆん泣く子供達を親れいむが必死になだている。 ぱちゅりーは涙を浮かばせながら、一匹で先に群れへと向かった。 「…みんな!!」 突然、親まりさが家族に向かって声を張り上げる。 「みんな! …きのうはかなしいことがあったよ」 「ゆう…」 「けど、ずっとかなしんでちゃだめなんだよ!!」 まりさが続ける、その声はかすかに震え、目には涙が浮いている。 そして、家族みなが目に涙を浮かべている。 「どんなにゆっくりできないことがあっても、ずっとかなしんでたままじゃ、なにもいいことはおきないんだよ!! かなしいことはわすれちゃいけないよ、けど、それをずっとひきずってたままじゃだめなんだよ! このさきもつらくてかなしいことがいっぱいあるんだよ! だけど… みんなでちからをあわせて、ゆっくりあかるくげんきにいきていこうよ!!」 「ゆ…」 「そうだよ!」 一番上のれいむが親まりさに同調する。 「ちぇんはかわいそうだけど、いつまでもかなしんでちゃだめなんだよ! そんなこと、きっとちぇんものぞんでいないんだよ!!」 「れいむ…」 親まりさがわが子の言葉に思わず感動した。 いつの間に、れいむの子供はこんなに強くなったのだろう、 親として、あまりのうれしさに涙を流す。 「そうだよ! みんなでゆっくりしようよ!!」 「ゆ! おねーちゃんのいったとおりだよ! かなしいことをずっとひきずってたままじゃだめなんだよ!!」 「ゆ! そうだよ!」 「みんな…」 親まりさは幸せいっぱいの顔で子供達を見つめる。 この子達なら、この先もみんなでゆっくり暮らしていける。 まりさはそう思った。 その時。 ブブブブブ 「ゆ?」 おうちの出入り口の一番近くにいた子まりさが、外からなにか音がしていることに気が付いた。 子まりさ今まで何度も聞いたことのある音だ。 そして、子まりさが大好きな音だ。 「ゆゆ! むしさんがおそとにいるよ!!」 元気を取り戻した子まりさは大好物の虫を食べたい一心で おうちの出入り口にカモフラージュとして敷いている落ち葉を取り払い、ぴょーんと外に飛び出す。 しかし、その時になって子まりさは外の異変に気が付いた。 そして、気づくのがあまりにも遅すぎた。 「ゆ… ゆぎゃあぁあああぁあああああぁあああ!?」 「ゆゆぅ!?」 「ど、どうしたの!?」 外に飛び出した子まりさは突然襲い掛かったあまりの激痛に悶える。 始めは電撃が走ったような衝撃、そしてそれから一拍置き、 右のほっぺたに今まで感じたことのない痛みが走った。 「ゆ゛… ゆ゛…」 呼吸すらままならない。 それはまるで炎の針が直接当てられたような、死んでしまいそうなほどの激痛だ。 「ばりざぁ゛ぁ゛ぁ!! どうじたのぉおお!?」 気が動転した親れいむが、おうちを出た途端凄まじい悲鳴を上げて倒れたわが子を助けようとおうちを飛び出す。 そして子まりさに近づいた時、 れいむは子まりさの右ほっぺたに、見たことのない昆虫が止まっているのに気づいた。 「ひぎぃ! いだいよぉぉおおおおお!!」 子まりさがあまりの激痛に身を悶える、しかしその昆虫は決して子まりさから離れない。 親れいむは気づいた。 このむしさんがまりさを苦しめている。このむしさんはゆっくりできないむしさんだと。 そして 「まりさからはなれろおおお!! ゆっくりできないむしさんはゆっくりしないでしんでね!!」 親れいむの渾身の体当たり。 愛するわが子に当たらないよう、虫のみを正確に狙った一撃だ。 だが 「ゆびぃ!?」 体当たりは空を斬った。 親れいむが当たる直前、ゆっくりには反応できないような速度でその昆虫は子まりさから離れたのだ。 そして親れいむは勢いそのままに、森の中に突っ込み地面に激突してしまった。 「ゆ!」 その時、頭の後ろから聞きなれた高周波の音が親れいむの耳に届いた。 そして親れいむが振り向いたその瞬間… 「ゆぴいぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃぃ゙ぃ゙ぃ!?」 何かが後頭部に止まり、その一瞬後、親れいむのいままでの生涯で感じたことのない、精神を飲み込む激痛が親れいむを襲い掛かった。 「いだいいいいいいいい!! もうやべでえええええええええ!!」 親れいむは後頭部にいる何かに向かって必死に懇願する。しかし、痛みは一切の慈悲も無く親れいむの精神を削る。 「ゆ゙っ…ゆ゙っ…」 後頭部の何かが去った後も痛みは全く引かない、それどころか痛みはさらに全身を駆け巡り、親れいむの意識を刈り取った。 「まりさ! だいじょうぶ!?」 「ゆえーん! おねーちゃんがくるしんでるよぉー!!」 「ゆっくりげんきになってね! ぺーろぺーろ!」 異変に気づいておうちから親まりさと子供達が出てきて苦しんでいる子まりさに声をかける。 しかし子まりさは「ゆ゛っ ゆ゛っ」と呻き苦しむだけで事態は変わらない。 「ゆ!」 親まりさは子まりさの右ほっぺたがおかしい事に気が付いた。 子まりさの右ほっぺたには小さな穴が開いており、その周辺は異常に赤くなっていた。 それはまるで、昨日死んだちぇんと同じ症状だと親まりさは直感した。 「ゆゆ! だれかくるよ!」 「ゆ!?」 突然、親まりさのそばにいた子れいむが遠くを見て叫んだ。 「ゆ… ゆぅ!?」 子れいむの指し示す方向を振り向いた途端親まりさは青くなった。 親まりさの視線の先、 そこには体中の皮膚が破れ、そこから生クリームを流しながらみお必死にこちらに向かって這いずる村長ぱちゅりーがいた。 「ゆっくりだいじょうぶ!? むれのみんなはどうしたの!?」 「む゛… ぎゅう…」 親まりさは傷ついた村長ぱちゅりーを見た瞬間、またしても昨日のデジャブが蘇った。 まるで昨日のちぇんではないか。親まりさは急いでぱちゅりーの元に駆け出した。 「む… ぎゅうぅぅ…」 「…っ!?」 親まりさの目にいやおうなしに飛び込んで来た惨状。 ぱちゅりーは体中に裂かれたような傷と、無残にも突き刺された無数の穴が残されていた。 「どぼぢで… どぼぢでごんなごとに…」 もう嫌だ。今まで起きたことの無い惨劇の連続に思わず逃げ出したくなる。 しかしそれはできない。愛する伴侶と子供達を守ること、それこそが親まりさの使命だと思っているからだ。 「ゆ! そういえば…」 もはや動くことすら出来なくなったぱちゅりーを安全なおうちに匿うために押している時、 親まりさは最愛の伴侶が見当たらないことに気がついた。 「もうやべてええええぇぇぇぇぇえ!!? ゆっぐりできないぃぃぃぃ!!!」 「ゆ!?」 聞き逃すはずもない。今の悲鳴は間違いなく最愛の伴侶のものだ。 親まりさは焦りながらも冷静な対応を取った。 まずぱちゅりーをおうちの中に入れ、次いで子供達を全員おうちの中に入れた。 最初に悲鳴を上げた子まりさは動くことはおろか、いまだに意識すら戻らないため、 親まりさが口を使っておうちまで運んだ。子供達は皆気が動転してるのか、一切声も出さずにおうちの奥で震えている。 そして、子供達に決して外に出ないように忠告し、親まりさは先ほどの悲鳴の聞こえた森の中に駆け出した。 「れいむ! どこにいるの!? ゆっくりへんじしてね!!」 親まりさが必死に親れいむを探しまわる。しかしいくら探しても親れいむは見つからない。 「どぼじでえぇぇ!!? おねがいだがらへんじしてよぉぉおお!!」 どうしても見つからない。おうちに残した子供達が心配になってきた親まりさは、一旦帰ろうと思い始めた。 だが、次の瞬間。ブーンという嫌な羽音が奥の方から聞こえてきた。 「ゆぅ! なんのおと!?」 あまりにも連続して身に降りかかってきた悲劇の連続に、まりさの神経はゆっくりとしては異常なまでに過敏になっていた。 そのため、普段なら聞き逃すような小さな音にまで気が付いたのだ。 「むしさん…? ゆっくりしずかにしてね!! うるさくてれいむがみつからないよ!!」 その羽音は、いまだかつてないほどにまりさの神経を逆撫でた。 そしてまりさは怒りに身を任せ、その音のする方へ怒鳴った。しかし、それでも羽音は収まらない、 それどころか、まるで自分の方へと向かって来ているようである。 「ゆ… やめてね!! こっちにこないでね!! ゆっくりできないむしさんはむこうにいってね!!」 まりさは羽音だけで思わずたじろいてしまった。 まだ姿も見てもいないのに、まりさはまるでれみりゃに襲われているような錯覚すら覚えた。 なんで? いままで食べるために捕っていたむしさんに怖気ているの? 自分よりもはるかに小さくて、自分よりもはるかに弱いはずのむしさんに怯えている。 ――なんで? 自問自答を繰り返す。しかし、結論は出ない。 「ゆっ!!??」 まりさが混乱している間に、『彼ら』はまりさのすぐそばに来ていた。 そして、そのことにまりさが気づくよりも早く、『彼ら』はまりさの体中を食いちぎった。 「ゆぎいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!!??」 全身を走る激痛により、まりさの思考は一瞬で止まってしまった。 まりさが理解できるのは一つだけ。それは、彼らは自分に群がり、自分を食べている事だけだ。 まりさの目を、足を、帽子も、髪の毛も、全てを。そして破けた皮膚から流れ出す餡子さえも。 「やめっ! やめでぇ! いだいぃいい!! やべでぇぇぇえええええ!!!」 ――まりさは目を食いちぎられる瞬間。一瞬だけ、『彼ら』の姿を見た。 それは黄色と黒をした、とてつもなくゆっくりできないむしさんだった。 そしてそのむしさんが何十匹もまりさの体に群がり、まりさを食べ始めてのだ。 『彼ら』が去った後。そこにはかすかに餡子が散らばっていた。 あとがきという名の言い訳 わかっているでしょうが『彼ら』の正体はスズメバチです。 もともとは山にいなかったのですが、ゆっくりを餌として生息範囲を拡大しているという設定です。 ちぇんの群れはぱちゅりーの群れよりも先にスズメバチに襲撃されました。 あのちぇんは傷つきながらもぱちゅりーの群れに危険を知らようとしましたが、群れの一歩手前で力尽きてしまいました。 群れの他のゆっくりは全滅しました。群れから少し離れた所をおうちにしていたあの家族は被害に遭うのが遅かったのです ぱちゅりーと子供達がこの後どうなったか、それはご想像にお任せします Q、スズメバチが餡子を食うの? A,その質問は勘弁して下さい。
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『ゆっくり公民 ~奴隷制~』 32KB いじめ 差別・格差 飾り 同族殺し 共食い 群れ ドスまりさ 自然界 人間なし 2作目 ゆっくり公民 ~奴隷制~ とある森の片隅、数匹のゆっくり達が忙しそうに動き回っている、ゆっくりに詳しくないものでもその様子を見れば彼らが狩り――食料の調達を行って居るのが分かるだろう。 しかしそんな彼らを見回すと一つの違和感を覚える、たとえば今必死に口の中へ茸を入れている金髪のゆっくり、ゆっくりまりさを見ればその正体に気が付く、元々ゆっくりまりさは大きな黒いトンガリ帽子を持ち、その帽子を用いて水の上を渡ったり狩りの成果を運ぶことが得意なゆっくりである、そんなまりさが狩りを行っているのはなんら不思議なことではない、しかし今ここで必死に狩りをするまりさの頭には、その帽子が乗っていなかった。 それだけではない今その一画で狩りを行うゆっくり達、れいむ・まりさ・ちぇん・ありす、彼らはみなその命より大切とされるお飾りを持っていなかったのだ。 「ゆ、ゆ、ゆぐぅ、ゆっぐりむれにもどるよ……」 先ほどのまりさは、口の中にしまった茸がいっぱいになったのか、体を引きずるようにして群れの方角へ戻ろうとしている。 その横では茸の判別が付かないのか、一匹のお飾りの無いれいむが茸の生えた木を前にしてきょろきょろとしている。 「ゆ、ゆぅ~、たしかまりさは、こっちだっていってたきがするよ……」 「こら!なにをちんたらやっているのぜ?さっさときのこさんをはこぶんだぜ!!!」 そんなれいむの背後から一匹のまりさが罵声を浴びせる、と、このまりさは先ほどのまりさやれいむ、その周りにいるちぇんやありすと異なり帽子を被っている、また良く見れば体も他のものより一回り大きく汚れや傷が目立たないことが分かる。 「ゆ!ゆっくりりかいしたよ!」 そのまりさの声ににれいむは一瞬体を強張らせると、目の前の茸を猛然と口に入れだした。 周りの飾りのないゆっくり達も、れいむに習うように茸を採るスピードを上げる。 しかしこの帽子を被ったまりさは自分はそれに加わろうとせず、他のゆっくりを背中を眺めて満足そうな顔をしている。 まりさ種の帽子があればその輸送能力は通常の倍にも届くにも関わらずである、これには理由があった。 その時、慌てたのかれいむが有毒な茸も口にしまってしまった、それを目に留めたまりさが叫ぶ。 「ゆぁ~!!!なにをしているのぜ、そのきいろいきのこさんはダメなのぜ!!!いったいどれいはなんどいったらおぼえるのかぜ!!?」 そう、帽子の無いゆっくり、彼らはこの群れの奴隷ゆっくり達だった。 1.奴隷制 ~Slavery~ 「ゆぅ、がう、うぅぅ……」 森の一角にある斜面では大量のゆっくりが穴を掘っている、みな一様に全身を土で汚れさせ、非力な歯で土を削っては口に含み外に運び出している。 彼らも種は多様だがお飾りがないゆっくり――奴隷ゆっくり達である。 「むきゅ、さいしょはおくにむかってあなをほるのよ」 後ろで指示を出すぱちゅりー、もちろん頭にはナイトキャップが乗っている。 そのときぱちゅりーの体に影が差す、背後に現れた巨大なゆっくり、ドスまりさである。 「ぱちゅりー、ご苦労さま、工事は進んでいる?」 「もちろんよドス、狩用の奴隷の半分をこちらにまわしたから……でもしばらくは狩りの人数が足らないわ」 「そうだね……新しい奴隷用の巣が完成するまでの辛抱だよ、多少は蓄えを使ってもいいよ」 「しばらくは、群れのゆっくりにも、狩りをお願いしましょう……」 そんな二匹を、土を置いて戻ってきた奴隷まりさが恨めしそうな目で見るが、ドスまりさがそちらに視線を向けると目をそらし再び穴の中に入って行った。 茸を採りに行かされたれいむは、アクシデントはあったものの、とりあえず口いっぱいに茸を含むことに成功し、群れへ這うようにして戻ってきた、れいむより前に戻ったゆっくりの後に続き、群れの食料庫の入り口に並ぶ。 食料庫の入り口では木の枝で武装したみょんが見張りを勤めており、中に入る奴隷ゆっくり達に威嚇するかの様な目を向けている。 食料庫の中では数匹のぱちゅリーが動き回っており、食料を持ってきたゆっくり達に指示を出している。 「きのこさんをとってきたゆっくりたちは、ここにだしてね!」 れいむの前の奴隷まりさがぱちゅりーの支持を受け茸を吐き出す、れいむもそれに習い茸を吐き出した。 口が楽になったれいむは、ゆっくりと食料庫の中を見回す。 この群れの食料庫はドスの巣の一部に造られており、ドスまりさも入れる空間には様々な食料が蓄えられていた。 奴隷れいむは口の中によだれを飲み込むのに苦労した、しかしここに集められた食料が奴隷ゆっくりたちの口に入ることは無い。 「ゆぅ、まりさもきのこさん、たべたいよ……」 一緒に居た奴隷まりさが呟いた、奴隷が何か言おうとする前にぱちゅりーが叫んだ。 「なにをいっているの!これは、むれのゆっくりのごはんよ!どれいがむーしゃむしゃできるわけないでしょ!!!」 奴隷ゆっくり達のごはん、それは本来お家の建材などに利用する草であり、けして味の良いものでは無い。 「むきゅ~、なにをしているの、さっさとつぎのきのこさんをもってきなさい!」 ぱちゅりーの声に追われるようにして奴隷れいむと奴隷まりさは再び狩場へ向かった。 夕方、赤い空の下疲れ切ったれいむは体を引きずり巣に戻ってくる、口に含むのは狩りの最後に集めた苦い草、本来は集めて乾かしお布団の材料などとする草だが、この群れの周りではいくらでも手に入るため奴隷ゆっくりのごはんになっている。 おうちの中に入るれいむ、そこには多くのゆっくりが疲れた体を横たわらせていた、れいむは一人暮らしでは無い、しかし番が居るわけでも、家族が居るわけでも、しんぐるまざーでもなかった、一緒に住んでいるゆっくり達はみなれいむと同じ奴隷ゆっくりだった。 「「「「「ゆっきゅり……ただいま……」」」」」 そこに子ゆっくりと赤ゆっくりが帰ってくる、暗い顔をした子達もおうちの中へ戻ると目を輝かせて親も元に戻っていく。 「おちびちゃん……おかえり……すーりすーり」 疲れ切った親ゆっくりも、このときは元気を取り戻してわが子にすーりすーりをしている。 そんな子供達も一様に頭にはお飾りが無い、彼らは奴隷ゆっくりの子供達だった、昼間、親達が働いている間は群れのがっこうに預けられているのである、これは親に対するゆん質の意味もあるが、子ゆっくりうちから奴隷としての立場を教え込む群れの政策である。 れいむも元々、そんな子ゆっくりの一匹だった、両親はれいむがまだ子ゆっくりの大きさ時に仕事を監督するゆっくりに逆らい、永遠にゆっくりさせられていた。 疲れ切ったれいむは巣の端によると目を閉じる、奴隷ゆっくりにとって唯一のゆっくり、すーやすーやをするために。 「むほぅ、すすす、すっきりー!!!」 誰かがすっきりーをしているようだ、のんきなものだと思う。 すっきりー制限を行っているこの群れで唯一の例外として、奴隷ゆっくりのすっきりーは自由である、しかしそうして生まれたおちびちゃんは、生まれると同時にお飾りを奪われ奴隷ゆっくりとなるのだ、普通のゆっくりであれば自分の経験から子供を同じ目には遭わせたくないとすっきりを拒む、しかしゲス傾向があるゆっくりや、労働のストレスに耐えきれずにすっきりしてしまうものは後を絶たない。 しかし、ここですっきりしている者は幸運な方に入るだろう、奴隷ゆっくりの中には群れのゆっくりの下に連れて行かれその性欲の捌け口――性奴ゆとして扱われているものも少なくない、そこからまた奴隷が増えることになるのだ。 れいむは生まれたときから奴隷ゆっくりとして生きていたゆっくりである、長い間まずい草のみで生活してきたれいむは、少なくとも美しいゆっくりとは言えず、それがれいむの身を守ることになっていたのである。 目の前が明るくなってくる……巣の入り口の結界の隙間から朝日が入り込んできたのだ、れいむはゆっくりと目を覚ますとその場で体を軽く左右に振る、周りのゆっくり達はまだ目を覚ましてはいないようだ、外に出ようかと思ったがれいむの位置からでは出口までの間に眠っているゆっくりが数匹居るためその場に留まるしかなかった。 すると、巣の入り口のほうからガンガンという音が聞こえる。 「おきなさい、どれいども!とかいはなあさよ、きょうのしごとにかかるわよ!」 途端に巣の中は喧騒に満ちる、モゾモゾと動き出すゆっくり、寝ぼけているのを隣のゆっくりに小突かれているゆっくり、あくびをするゆっくり、 「はやくしなさい!とかいはなありすをまたせるとこわいわよ!!!」 巣の結界が取り払われる、奴隷ゆっくり達は慌て外に出る、今日の監督ゆっくりはありすのようだ。 頭の上で輝く赤いカチューシャ、奴隷とは比べ物にならない綺麗な肌、しっかりとした栄養に裏打ちされれいむより一回り大きい体、何匹かの奴隷ありすが羨ましそうにそれを見ている。 「きょうはふゆごももりようのおうちのせいびをするわ、ありすについてきなさい!」 「おちびちゃんたちは、ここでまって、このあとくるれいむといっしょにがっこうにいきなさい!」 いつもならこれから朝食である、れいむの隣のちぇんがそれを指摘するが、 「うるさわね、とかいははちょうしょくはぬくものよ!」 ありすは取り合わない、れいむ達はしぶしぶと仕事場へ向かった。 今日のれいむ達の仕事は、ドスのおうちにもなっている大きな洞窟の整備だった。食料庫も併設されているこの洞窟は群れの中でも最大のおうちで、冬には全ての群れのゆっくりがここに集まり冬篭りをする予定になっている。 ゆっくりの中でも最大の大きさを誇るドスでも、二匹は通れるほど大きい洞窟の中はいくつかに分岐が存在し、様々なおへやに分かれている。 れいむ達はその一つ、冬に群れの一般ゆっくりが集まるおへやの掃除を任された、すきっ腹を抱えてお部屋の中から落ちているごみや硬い石などを拾っては口にしまい、洞窟の外に運んでいく。秋の始めのこの時期に普段使わないこの部屋の掃除を行い、枯れ草を大量に集めて敷くことになる。 れいむも去年の巣材の残りと思しき枯れ草を口に入れ洞窟の外へと向かった、途中で食料庫の横を通ると今日の狩りの担当なのか奴隷ちぇん達が口を膨らまして入っていった。 (ゆっくり、おなかがすいたよ……) その様子にれいむのお腹が再びぐずりだす、しかし今口の中にあるのは汚い枯れ草である。 がっくりとしながら洞窟を出て、群れのゆっくりが「ごみすてば」と呼ぶ穴へ向かう。 ドスが造ったこの穴には群れのゆっくり達のうんうんを捨てることになっているが、この場でうんうんやしーしーをするゆっくりも多い。穴の淵に来ると、れいむはやっと口の中の物を吐き出すことが出来た。 「ぺっ、ぺっ、やっとすっきりしたよ」 「ゆ、さっさとどくみょん」 すると後ろから、一匹のみょんがやってきてれいむを押しのけた。 「ゆ!」 れいむは固まってしまう、何故ならそのみょんはうんうんをしに来たわけでもしーしーをしにきたわけでも無かったからだ。みょんは後ろに大きなものを置いていた、ここまで引きずってきたと思われるそれは、どう見ても永遠にゆっくりしてしまったゆっくりだった。 「まったく、はんこうててきなどれいだったみょん!」 そのまりさの体には、各所に穴が開き餡子を垂れ流している。まりさ種の特徴でも有る黒いお帽子は無く、全体的に薄汚れた体と金髪がそのまりさが奴隷ゆっくりだったことを教えていた。 みょんはまりさを穴に放り投げるとれいむに顔を向けた、 「このまりさは、おろかにもどすのむれからにげようとしたみょん、おまえはそんなこと、かんがえてないみょん?」 いや、恐らくれいむだけでなく後ろから来た他の奴隷ゆっくり達にも向けて言ったのだろう。 ばがだな……とれいむは思う、奴隷ゆっくりがこの群れから逃げても行ける所は無い、お飾りの無いゆっくりは他の群れでも迫害されるそうだ、それにこの群れで生まれた奴隷は、外についてほとんど知らない、出て行っても行き倒れるだけだろう。 もしかしたら、先ほどのまりさは外から来たゆっくりだったのかもしれない、たまにこの群れにドスがいるという話を聞いて移住しようとやってくるゆっくりが居るのだ、もちろんこの群れで待っているのはお飾りの没収と奴隷への転落だが、そういうゆっくりには美形が多く、大半は群れのゆっくりの性奴ゆになるという。 「さぁ、さっさとしごとをつづけるみょん!」 固まってしまった奴隷ゆっくり達に痺れを切らしたのかみょんが叫ぶ、れいむ達は慌てて動き出すと洞窟へ戻った。 仕事場に戻ると監督ありすが奴隷ゆっくり達を集めた、その横にはごはんなのか少し茶色がかった草さんが積まれている。 「さぁ、とかいはなぶらんちさんよ、たべなさい!」 奴隷ゆっくり達は我先にとその山に集り苦い草を口に入れる、味のまずさも空腹がカバーしお腹に何かが入る満足感が訪れる。 「「「むーしゃ、むしゃ、しあわせ~」」」 思わず言ってしまったれいむ達を後ろからありすがさげすんだ目で見ていた。 草の山が無くなるとありすは全体を見回して宣言する、 「きょうは、ごごのしごとはなしよ!ぜんいんむれのひろばにあつまりなさい!」 その言葉に一瞬、奴隷ゆっくり達がが固まる、誰もが理解した。 そう今日は「あれ」の日なのだと…… 「さぁ、さわがずにいどうしなさい!」 ありすの言葉に押されるようにして部屋を出る、れいむは思わず洞窟の奥の方を見てしまった。 洞窟の奥、見張りの兵士みょんに守られれいむ達奴隷ゆっくりは入ることが出来ないドスまりさの部屋、その奥の倉庫に奴隷達のお飾りが仕舞われていると言う、忍び込もうとしたゆっくりは全て見張りかドスにせぃっさいされているだが、れいむはその奥にあるという自分のおりぼんに思いをはせた。 群れの中央、森の中の開けた場所に群れの広場がある、普段は群れの集会などで使われるその広場に群れのほとんどのゆっくりが集まっていた。中央を空けて円を書くようにして集まったゆっくり達には不思議な熱気が充満している。 しかしよく見るとその内訳は異なる、列の前のほうにいる群れの一般ゆっくり達の目は輝き、その後ろに並ばされた奴隷ゆっくり達の目には怯えが見て取れる。 ザワ、一瞬のどよめきと共に一方に視線が集中する。ドスまりさがやってきたのだ。 参謀ぱちゅりーを横に従えたドスまりさは、悠然と中央に進み出て宣言する。 「ゆぅ、みんなよく来てくれたね!これからみんなが楽しみにしていた闘ゆをおこなうよ!」 歓声が沸き起こる、ドスまりさはそれを見回すと落ち着いたタイミングを見計らい再び口を開いた。 「だけどその前にやらなくちゃいけない事があるよ!せいっさいだよ!」 「さぁ、つれてきてね!」 ドスの合図で木の棒で武装した兵士ゆっくりが数匹の奴隷ゆっくりを引きずってくる、彼らが広場の中央にたたき出されるとドスの横で黙っていたぱちゅリーが口を開いた。 「むきゅ、この奴隷達はおろかにもドスに対する反乱を企てたわ!その罪によりここで永遠にゆっくりの刑にするわ!」 ぱちゅりーの宣言に、うつむいていた奴隷達が騒ぎ出す。 「ごかいなんだぜぇ、まりさはドスにさからったりしていないんだぜぇ!」 「れいむはかわいいよ、しっかりしごともしてるよ、ゆるしてね!」 「わからないよー、ちぇんがなにをしたっていうんだよー!」 そこに処刑ゆっくりが木の枝を向ける、怯えて外に逃げ出そうとしたまりさも、ゆっくりの円の内側に居た群れのゆっくりに体当たりされ中央に戻されてしまう。 「やめてほしいんだぜぇ、ゆぎ、いちゃい、やめて、ゆびぃ、ゆ、ゆ、ゆ……」 三匹はあっという間に餡子とチョコの塊にされてしまう、お帽子が無いためこうなるともういったい何だったか判別不可能である。 興奮している群れの一般ゆっくりとは対象的に黙ってしまった奴隷ゆっくり、奴隷の子供達はおそろしーしーを漏らして固まっている。 餡子とチョコが兵士ゆっくりによって運び出されるとドスは、 「それでは改めて闘ゆを始めるよ!勝ったゆっくりにはあまあまがあるから頑張ってね!」 ドス言葉の後一匹のまりさが進み出る、その後ろには奴隷ゆっくりのまりさとみょん、彼らが生き残りをかけて争う闘奴ゆ達である。 この群れでは定期的に娯楽として奴隷ゆっくり同士の闘いを「闘ゆ」として催している。 基本的に判定勝ちや降伏などは認められず、どちらかが永遠にゆっくりするまで戦いを続ける闘ゆに参加する奴隷達の生存率はけして高くないが、勝った奴隷は特別にあまあまが配給されるほか、この闘ゆでたくさん(三回)勝利した奴隷ゆっくりは解放奴隷とされ、群れのゆっくりとして迎え入れられる事になっている。 これらのご褒美につられて、これだけ危険な闘ゆであるのに参加ゆが居なくなることは無い。 「ゆぅ、ゆっくりできないよ……」 輪の中心で、餡子を飛び散らせて戦うまりさとみょんを見たれいむは呟いた。 群れのゆっくりにとってはゆっくりできる娯楽だが、れいむにとってはいつか自分もああなるのではないかと感じさせる催しである。 しかしその反面、めったに居ないがこれに勝利して奴隷から解放されたゆっりの様に、自由を手にした自分を夢見てしまう気持ちもあるのだ。 ワァと歓声が上がる、どうやらみょんが勝利したようだ、右の頬の噛み付かれた傷からホワイトチョコを流したみょんは審判まりさから渡されたあまあまを早速口に入れしあわせ~と叫んでいる。 「れいむも……あまあまがほしいよ……」 次の試合が始まるのか、審判まりさは奴隷れいむとちぇんをつれてきた、れいむは思わず下を向いてしまった。 ドスまりさは闘ゆで盛り上がる群れを満足げに見つめていた、奴隷ゆっくり達の働きによって秋の初めから冬に向けて食料の備蓄は行われているし、冬篭りのためのおうちの整備も開始した。 群れのゆっくり達は豊富な食料でゆっくりしているし、性奴ゆが居るために群れのすっきり制限を破るゆっくりも居ない。 定期的に行う制裁と闘ゆの開催で群れの秩序も守られている。 ドスまりさは昔、まだ普通に群れを率いていたころ――まだ周りのゆっくりをゆっくりさせる事しか考えていなかったころの事を思い出しにんまりとする。 「ゆ~♪とってもゆっくりしているね♪」 このドスまりさも昔は、他の多くのドスと同じような群れを率いていた、自分を慕って集まってくるゆっくり達、そんな彼らをゆっくりさせるべく頑張っていた。 他のゆっくり達では届かない場所の果物や木の実を集め、ドススパークを使い大きなおうちを作り、群れの中で喧嘩が起きればゆっくりオーラで仲裁し、捕食種の襲撃があれば群れを守るために闘った。 そんなドスを群れの仲間達は賞賛したものだった。 しかし、群れが大きくなると、だんだんほころびが出てくる。ドスに頼り食料は自分の必要な分しか集めないゆっくり、群れの援助を期待しておちびちゃんを作るゆっくり、ドスの力を自分の力と誤解して行動するゆっくり。 ゆっくり達はドスが彼らに何かを与えれば「ドスはとってもゆっくりしているね!」と賞賛するが、ドスが群れのことを考え掟を作り何かを制限しようとすればそれに反発するのだ。 ゆっくりは、ゆっくりすることに重点を置くため、ゆっくりするためなら禁止された事などすっかりと忘れるか、覚えていても何かと理由を作って自分のやりたいようにやってしまう。 その結果は秋の終わりに現れた、ドスと数匹の優秀なゆっくりしか行わなかった食料の貯蔵、事実上の注意と化していたすっきり制限、排除されること無く増えていったゲスゆっくり。 「ねぇドス、さいきんごはんさんがとれないんだよ、おちびちゃんがおなかすかしているからあまあまちょうだいね!」 「「「「「ちょうらいね」」」」」」 「どすぅ、れいむのおちびちゃんかわいいでしょ、かわいいおちびちゃんをみたらごはんさんくれるよね?」 「「「「「「きゃわいくっちぇぎぇめんにぇ!」」」」」」 「むきゅ、けんじゃのぱちゅによれば、さいきんかりのせいかがへっているのは、ふゆさんがくるからよ!ドスはけんじゃのぱちぇにむれのたくわえをわたしなさい」 「へっへっへ、そのごはんさんは、ゆうっしゅうなまりささまがもらってやるのぜ!さぁはやくわたすのぜ!」 「ドス~!わからないよ~おとなりのまりさにきょうのごはんさんとられちゃったよ~!」 いかにドスといえど、秋の終わりから群れ一つ分の越冬用の食料を集めるなど出来るはずは無い。 元々群れのゆっくりは、それぞれ越冬用に備蓄していると思っていたドスは彼らの訴えを聞きそれぞれの備蓄を見て顔を青ざめさせた。 少しでもと思い、群れの全てのゆっくりを動員して狩を行うことを宣言したドスに対する群れのゆっくりの反応は、 「なにいってるの?ごはんさんならドスがくれればいいんだぜ、ばかなの?しぬの?」 「れいむはおかぁさんなんだよ!?おちびちゃんのいるれいむたちにごはんくれるのはあたりまえでしょ!」 「むれのみんなにごはんさんくれないなんて、どすはゆっくりしていないね!」 「むきゅ、ここはまずぜんぶのごはんさんをけんじゃのぱちぇにあずけなさい!ぱちぇがこうっへいにぶんぱいするわ!」 「ちぇんはさむいのはいやなんだよ!わかれよ~」 とほとんど現実を見ていないものだった。 そればかりではなくドスやちゃんと越冬用の食料を備蓄していたゆっくり達を、ごはんさんを独り占めしているなどと罵倒するゆっくりまで現れ始めた。 そして終わりの始まりは、ある日ドスのおうちに一匹のまりさが駆け込んで来たことから始まった。 その日一日中、必死に食料を集めていたドスはもう夕方には疲れきってしまい、そのひのごはんをかきこむとすぐに眠ろうとしていた。 「ドス!ドス!おきるのぜ!まりさはすごくゆっくりしたプレイスをみつけたのぜ」 寝入りばなを起こされて、不機嫌なドスに対してそのまりさが語ったのは次のような事だった。 このまりさは普段居る群れの辺りに食料が無いため、今日は普段行かないところへ遠出をした――実際は群れの近くでサボっているとドスに起こられるためにそれから逃げただけなのだが。 すると、群れから半日ほど進んだところにとてもゆっくりできる場所が有ったというのだ。 綺麗に並んだご馳走が食べきれないほどあり、奥にはドスでも入れそうな大きくてゆっくりしたお家が並んでいたという、そしてそこで食べたご馳走は、まりさのゆん生のなかで最もしあわせ~なごはんだったと。 「これがそのごちそうなのぜ、これだけしかもってこれなかったけど、とってもおいしいのぜ!」 自分のお帽子の中から白い物を取り出すまりさ、それを見たドスまりさは背中に雪さんを当てられた気分になった。 もはやドスの目は完全に覚めていた、まりさの持ってきたものを凝視する。 まりさは得意げに自分の手柄を語り、群れの全ゆで取りに行けばたくさん持ってこれるのぜ、などと訴えている。 しかし、もはやドスにそれを聞いている余裕は無かった。 (おやさいさんだ……) ドスの中に黒いものが広がる、ドスはまだ自分が普通のまりさだった時、目の前のまりさよりも小さな子ゆっくりだったときの事を思い出していた。 そのころ、子まりさの両親の暮らしている群れにもドスが居た、あれも寒くなってきた時期だったと思う、群れのゆっくがとても美味しい草さんを採ってきたのだ、群れはその話題で持ちきりになり、ドスの父親のまりさもそれを持っておうちに帰って来るようになった。それをしあわせ~して食べると母親のれいむはとても喜び「おやさいさんはゆっくりできるね♪」と言っていた。 そんな幸せは長くは続かなかった、ある日の夜群れにゆっくりの悲鳴が響き渡った、次々と潰され行く群れのゆっくり達、頼みのドスもあっさりとやられてしまった、誰もがおそろしーしーを垂れ流す中群れの中を動き回る大きな生き物、ドスのように大きいその生き物を両親は「にんげんさん」と言っていた。 一匹、また一匹と仲間が潰されて行く中、我に帰った父親に放り投げられ子まりさは危機を脱することになる。 その後他の群れに拾われることになるが、その時の事は大きなトラウマとなった、その後のゆん生でもにんげんさんに手を出したゆっくりがゆっくり出来なくされて行くのを見てしまったのだから。 (あのときと、おんなじだよ……) まだ何か言っているまりさにドスは慌てて言った、 「だめだよ、それはゆっくり出来ないものだよ、まりさもそんな所へは行っちゃだめだよ!」 「ゆ!ドスなにをいっているのぜ?こんなにおいしいのぜ!」 「ちがうよ!それはにんげんさんの物なんだよ、にんげんさんは怖いんだよ、ゆっくり出来なくされるよ!」 「ゆふふふ、ドスはなにをいっているのぜ、まりささまならだいじょうぶなのぜ!それにみんなでいけばいいのぜ、ドスもいけばれみりゃにだってまけないのぜ!」 「それに、あんなゆっくりプレイスをひとりじめなんてゆるせないのぜ!せいぜいせぃっさいしてやるのぜ!」 「だめだよ!そんな事だめだよ!その場所に行くのは禁止するからね!ぜったいだよ!」 まりさは不満げながらその時は「わかったのぜ……」と言って帰って行った。 しかし事件は次の日に起こった、次の日もドスが朝の狩りから戻り群れのゆっくりに一声かけていこうと他のゆっくりのおうちの方へ向かうと、ほとんどの成ゆっくりが居ない。 「ゆぅ、やっとみんな狩りをがんばるようになったんだね、よかったよ」 そこへ、ドスと仲の良いれいむがやってきた。 「ドス、ゆっくりしていってね!たいへんだよ!」 「ゆぅ、れいむ、ゆっくりしていってね!どうしたの?」 「むれのみんなが、おいしいものが、とかいってでていっちゃたんだよ、おちびちゃんたちまでつれていっちゃったよ!」 「ゆ、そ、そんな!」 慌ててドスが群れの中を見回ると、朝早くからしっかりと狩りに行ったゆっくりとその家族を以外がほとんど、本来はおうちに居るはずの番や子供たちまで含めて居なくなっているのだ。 「ゆゆゆ……そうだもしかして!?」 ドスは昨日のまりさから聞いたことを思い出す、もしかして…… 実はドスまりさは知らなかっただが、今日ドスや一部のゆっくりが狩りに出かけた後、昨日のまりさが扇動して群れのゆっくり達を連れて、ごちそうのあるゆっくりプレイスへ向かってしまったのだ。 ドスの大きな体を脂汗が覆う、ドスの中に小さいころの思い出が渦巻く。 「ゆぅ……みんなを集めてね、これから冬篭りをするよ!」 「「「「「「ゆ!?」」」」」」 ドスはすぐに群れに残っているゆっくを集めると、群れのそれぞれの家の備蓄を持ってこさせ、一番大きなドスのおうちで冬篭りに入ることを宣言した。 驚く群れのゆっくり達も、にんげんさんと言うとてもゆっくり出来ないものが来ると説得すると、しぶしぶとドスに従った。 ドスのお家に備蓄を集め、木の枝もかき集めてきてもらう、お布団は群れの近くの枯れ草をドスが口に入れて運んだ、大体が集まると群れのゆっくりを入れ、ドスは洞窟の前の木をドススパークで倒した、そして入り口にしっかりと結界を張る。 こうして冬篭りが始まった、群れのゆん口が大きく減ったためにドスの備蓄を切り崩すことで食料的にはとてもゆっくりとした越冬になった。 しかしドスは少しもゆっくり出来なかった、いつにんげんさんがやってくるのか、おうちの外から大きな音がするたびに、にんげんさんが結界をどかして入ってくるのではないか。 こうして越冬を成功させたドスと群れは次の春、食料集めが終わるとすっきりーもせずに移住を行うことになる。 あの時、ゆっくりプレイスに向かったゆっくり達は帰ってくることは無かった、群れのおうちはあの時、ドス達が冬篭りに入る前と同じ、結界すら施されることなく越冬を終えたゆっくりを迎えた。 ドスの群れは逃げ出した、まりさ達が向かった方向とは反対側へ、少しでもにんげんさんから離れるようにと。 ドスと少なくなった群れのゆっくりは新天地で新しい群れを作ることになる、ドスを慕って再び集まってきたゆっくり達、しかしドスは、同じ間違いをしないために新しい群れではきっちりとした掟を作ることになる。 一部のゆっくりが「ゆっくりできない」とこぼすほど掟を…… ドスの新しい群れには様々な掟があった、食料は子育てなどの例外を除いて、全てのゆっくりで集めてその成果に応じて分配を受け、残りは貯蔵する。すっきりーは春にしか許されずドスの許可も必要、ゆっくりできないゆっくりは群れのみんなの前で裁きせいっさいする。 これらの掟は群れの安定に貢献することになった、しかしその反面ゆっくり達には不満の多いものでもあった。 ゆっくりはゆっくりすることを至上とする生き物である、そこに自分達のゆっくりを阻害する掟がある、その効果については疑わなくても不満を溜め込むことになる。 定期的に不満を持つゆっくりによるはんっらんが起き、鎮圧はされるもののドスは対応を求められた。 大きな変化があったのある掟破りのゆっくりれいむが現れたときである、そのれいむは自分はかわいそうだと主張し、他のゆっくりのおうちのごはんを盗み食いした新入りであった。 群れのさいっばんでも自分は間違っていない、自分をゆっくりさせろと怒鳴り続けた。 ドスは困ってしまった、このころになると掟は多種多様になったが、その罪の重さによって罰が決まるようになっており、掟破りは即制裁と言うことではなくなっていた。 食料泥棒であれば、通常は強制労働――群れのおといれの掃除などが課せられる。 しかし、このれいむはその罰を素直に受けはしないだろう、本来この群れでは食料泥棒は子供がやることが多い犯罪で、多くの食料が欲しい場合、狩りを頑張るほうが効率が良い。 周りのゆっくり達も、反省することの無いれいむに怒りのボルテージを上げていく、ドスも心情としては追放か制裁したいのだが、食料泥棒に厳罰を課す前例は作りたくなかったのである。 その後、ドスの判断によりこのれいむは群れの「どれい」になるという罰を受けることになる、お飾りをドスが没収し群れの仕事を強制する、お飾りを預かっているためサボればお飾りを使って脅し、逃げることも出来ない。 ドスとしてはこの奴隷刑は強制労働の重いものとして考えたつもりだった。 しかし、この罰を受けたれいむは元々性格に問題があり、仕事も不真面目だったのだが何度かの反抗を潰されると従順な働きぶりを示すようになり、群れの備蓄に貢献することになる。 ドスはこの罰の有用性を理解した、追放や制裁では群れの問題を取り除けるが、群れにとってプラスは少ない。ところがこうして奴隷として働かせれば群れに何らかの形でプラスがあるのだ。 それまでは排除するしかなかった問題ゆっくり、それを群れの戦力に出来る、それだけでこの奴隷刑は意味のあるものだった。 以降群れでは、問題を起こしたゆっくりは群れの奴隷として、群れのために働かせるようになる。 しかし問題も起こった、奴隷に転落するのは何か罪を犯したゆっくりであり、そうしたゆっくりは周囲からもあまり好かれていない事が多かったため、奴隷ゆっくりを他のゆっくりが迫害する、そんな事件がちらほらと起こるようになった。 ドスまりさは悩んだ、罰を受けているとはいえ群れのゆっくりだ、同じ群れの仲間に対する暴力などは掟破りである…… しかし、群れにも思わぬ変化が現れた。それまでの群れでは、食料にもやや余裕があり、外敵からも保護されたとてもゆっくりとした群れのはずが、様々な掟があり自由が制限されていたため、全体にピリピリとしたゆっくり出来ない空気が流れていた。 しかし、群れに奴隷ゆっくりが生まれると、群れの一般ゆっくり達は不満を奴隷にぶつけることにより普段のストレスが解消され、とてもゆっくりするようになったのだ。 ドスは決断した、全てのゆっくりをゆっくりさせる、そう考えて必死に行動した最初の群れは結局崩壊してしまった。 ならば、一部を犠牲にしてでも群れをゆっくりさせる、そのためには何でもしようと。 そう、奴隷ゆっくりは群れのゆっくりではない……と。 こうなると群れにとって奴隷は必要不可欠なものとなった、それまでは群れで掟破りをしたゆっくりのみ奴隷となっていたが、こうなるととても足りない。 ドスはまず、奴隷に対するすっきりーを許可した、奴隷から生まれた子供はもちろん奴隷ゆっくりとなる。 これは、群れのゆっくりに達に熱狂を持って歓迎されることになった。それまで群れではすっきりーを制限しており、これに不満を持つ若いゆっくりはとても多かった。 ゆっくりがすっきりーをするのは、おちびちゃんはとてもゆっくり出来るという、子孫を残そうという本能によるものだけではなく、すっきりーによる快感でゆっくりするというのも大きかったのだ。 副次的な効果だが、これにより群れのありすがれいぱー化する事件が、ほぼ無くなると言う効果もあった。 子ゆっくりでは働き手にならないという理由から、この群れではゆ攫いすら始まった。 群れを訪れたゆっくりや、群れの近くを通りかかったゆっくりを捕らえ、お飾りを奪い奴隷化するのだ、こうしたゆっくりは成ゆのため即戦力として利用できた。 周囲の小さな群れを、ドスを含む群れの戦力で襲い、おちびちゃんを奪ってゆん質として奴隷化する。そんな暴挙も近くの小さな群れが無くなるまでは行われた、その後隣接するのがこの群れと同じ程度の規模の群れだけとなり、この方法は行われなくなる。 こうなると、群れは非常にゆっくり出来るようになった。奴隷に食料を集めさせれば狩りの手間は少なくなり。 性奴ゆとのすっきりーをすればおちびちゃんが増えすぎて困ることも無い、穴掘りや水運び木の枝集めなど汚く辛い仕事は奴隷にやらせ、群れのゆっくりはゆっくりしていられる。 もちろん、様々な問題も起こった。奴隷ゆっくりの数が増えると、群れのゆっくりに不満を持ち反乱が起きるようになった。その中でも最大の物では100を超える奴隷が反乱を起こし、最後にドススパークを用いて鎮圧するものの群れのゆっくりの被害も甚大なものとなった。 また、お飾りを見捨てて逃亡する奴隷ゆっくりも現れるようになり――もちろん、お飾りのないゆっくりが、外で生きてゆける訳はないのだが――群れの食料収集に影響が出ることも有った。 これらの問題を解決したのは、一匹のぱちゅリーだった。元々群れの近くにやってきて捕らえられ、奴隷にされるはずのゆっくりだったのだが、ぱちゅりー種のお飾りであるナイトキャップに通常付いている月の形のアクセサリーとは別に、銀色に輝くものが付いていたことと、本ゆんも非常に美形のゆっくりであったことから、ドスの元に連れて行かれることになる。 そして、ゆっくりらしからぬ知識を持ったぱちゅりーは、あっという間にドスの側近としての地位をつかんでしまった。 ぱちゅりーの献策は各所におよんだ。 奴隷ゆっくりはそれぞれにおうちを持たせるのではなく、大きなおうちをつくりまとめて管理する。 奴隷のおちびちゃんは、日中の仕事中は一箇所に集める、この時に奴隷として教育する。 仕事は奴隷のみで行わせるのではなく、群れのゆっくりから監督をつけ仕事振りを見張る。 反乱を企てた奴隷は、他の奴隷に見せるように制裁し、本ゆんだけでなく同じおうちの奴隷にも責任を負わせる。 優秀な奴隷は、群れのゆっくりにし、そのことを他の奴隷ゆっくり達に宣伝する。 そんなぱちゅりーの功績の最大のものが「闘ゆ」であった。 盛り上がりを見せる闘ゆ、現在はみょんと三匹のちぇんが戦っている。1対3の戦いである、不利な状況にも関わらず不適な表情を浮かべるみょんの体には何本もの切り傷が認められる。このみょんは、既に闘ゆに二度の勝利を収めた歴戦のゆっくりである、これに対しては三倍の戦力を持つちぇんも、うかつに飛び込むことが出来ないのか、膠着状態が続いていた。 ドスの元に、この前の試合で破れたれいむの死体を運ぶように、兵士ゆっくりに指示していた参謀ぱちゅりーが戻ってくる。 「ねぇぱちゅりー、あのみょんは勝てると思うかい?」 「むきゅきゅ、ドス、わかっているんでしょ、そうそう、れいむはちゃんとれいの場所に運ばせたわ」 「ありがとう、ぱちゅりー、そうだね今日の夜にでも加工しようか」 ドスまりさは、先ほどの試合で勝利を収め、賞品のあまあまをむさぼり喰らっている奴隷ちぇんを冷ややかな目で見つめると貯蔵庫の中身を思い出す。 「そういえば、商人のまりさが来るのは今日だったよね?あまあまが足りていたかなぁ?」 「大丈夫よドス、ちゃんと確認してあるわ、前回の二倍までなら問題ないわよ!」 商人のまりさとは、スィーを使いいくつかの群れを渡り歩いているまりさで、あまあまと引き換えに様々なものを仕入れてくれる。 この群れでは隣の群れから赤ゆっくりを購入していた、周囲のゆっくりを襲い奴隷にすることが出来なくなり群れの中で奴隷を増やすしか無いと思っていたところに、このまりさがやって来たのだ。 隣の群れでは赤れいむが余っているのかは分からないが、あまあまと引き換えに赤れいむを定期的に連れてきてくれている。 買い取られた赤れいむは、この群れでお飾りを奪われ、教育を受け苦い草を食べさせられても不満を言わず、群れのゆっくりの言葉に従う従順な奴隷ゆっくりにさせられる。 「もう秋さんだからね、冬篭りの準備のために、奴隷はいくらでも必要だよ、まりさに入荷をふやしてもらおうかな?」 歓声があがる、三匹のちぇんが仕掛けたようだ、二匹がみょんの左右に回り込み体当たりをかける。油断無く左右に目をっ配ってたみょんは、後ろに飛んでこれを回避する、二匹のちぇんがお見合いするように止まる、目の前で止まったちぇんに好機を見たのか二匹に向けて飛び掛るみょん。しかし、それが失敗だった、みょんの前に並んだ二匹の影に隠れていたもう一匹のちぇんが前のちぇんを踏み台にして飛んでいたのだ、二匹に体当たりをして止まってしまったみょんの上にちぇんがのしかかる。 「みょ、はなせみょん!」 「はなさないんだねー、わかれよー!」 そこに、みょんの体当たりから復帰した二匹のちぇんが現れ、無防備なみょんの足に噛付く。 「みょ、ゆ、ゆぎゃぁぁぁ!!!」 底部を傷つけられ、痛みに絶叫しながらも諦めないのか、のしかかるちぇんを振りほどこうと頭を振り回すみょんに、 「とどめなんだね~!」 飛び上がったちぇんが、みょんを踏み潰し止めを刺した。 群れのゆっくり達の歓声に、尻尾を振って答えるちぇん達、その背後でぱちゅりーの指示を受けたまりさがみょんの死体を運び出していた。 その様子を見ながら、ドスまりさはこれからの計画を考えていた。この先に待ち受ける冬篭りに向けて奴隷達を動員して食料を集めなければ、冬篭り用のおうちの整備もどんどん行わなければ、この調子なら来年の春には、群れのゆっくりのすっきり制限を緩め、群れのゆん口を増やしても良いかも知れない。奴隷も春になれば増えるし、商人まりさの連れてくる赤ゆも増えるだろう。そうだ、冬篭りの間には群れのゆっくりにあまあまを多めに出してあげよう、いや、奴隷ゆっくりにも少しだけ分けてあげようか、そうすればとてもゆっくりした冬篭りになるはずだ。 この群れの奴隷ゆっくり達は知らない、越冬に耐えることの出来るおうちは、ドスの使っている大きな洞窟だけだと言うことを。闘ゆで敗れたゆっくりがどうなっているのか、何故この群れが奴隷同士のすっきりさえ許して奴隷を増やしているのか、そしてドスのおうちに入れるゆっくりの数は群れのゆっくり以外では奴隷達の2割程度だと言うことを…… あまあまが食べたい、そんな奴隷れいむの願いは、細い糸のような可能性としてこの冬に叶うのかもしれない。 後書き Civilization 4プレイ中に、そういばゆっくりってすぐ奴隷奴隷言うよな~と思い、書き始めてしまったネタ。 奴隷を使うゆっくりは何人かの作者さんが既に書いているけど、自分はこんな感じにしてみました。 勢いで書いたものなので、ところどころおかしな点があるかも知れません、誤字脱字は指摘していただけるとありがたいです。 「ゆん口を消費して、あまあまを緊急生産!」
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『ぱたれいむはゆっくりできるね』 4KB 虐待 ネタかぶりあったらごめんなさい. 「おちびちゃん、ゆっくりぴょんってするんだよ。」 「ゆぅ、れいむきょわいよぉ。」 最近やっとテニスボールほどの大きさになった子れいむがぷるぷるふるえながらためらっている。 「おかあさんがやってみせるからね。えいゆっ!」 親れいむは滑り台の上から飛び降りた。 通常のれいむ種よりおおきめのりぼんがぱたぱたと動いてゆっくり落ちていった。 「れいむおそらをとんでるみたい!おそらをとぶていどののうっりょくっ!だよ!!」 実際に空を飛んでいるわけではない。りぼんをぱたぱたさせても落下する速度が遅くなるだけである。 せいぜい滑空といったところか。 決して上昇することはできないのだ。 「おきゃーしゃんとってもゆっくちしてるにぇ!れいみゅも!れいみゅも!ぴょんってするよ!」 そういうと子れいむも飛び降りた。 子れいむが飛び降りるとれいむのりぼんもぱたぱたと羽ばたき、ゆっくりと落下していった。 ぱた種のれいむは『あんよ』が地面に接触していないと本ゆんの意思とはあまり関係なく勝手にぱたぱたと動くのだ。 奇形だったり足りなかったりしない限りはりぼんが動かないで死んでしまうということはない。 「れいみゅおちょらをとんでりゅよ!れいみゅはとりしゃん!」 あくまで滑空できるだけである。上昇できるわけではない。まったくもって鳥に失礼である。 「おちびちゃんとってもゆっくりしているよぉ~!これでおちびちゃんもりっぱならくっえんっ!のみこだね!」 子れいむは「ゆんっちょ」っと地面に着いた。 ドヤ顔で「らっくしょうっ!だったにぇ!これでおちょらもれいみゅのものだよ!」とか言っている。 ぱたれいむ親子はとってもゆっくりしていたのだった。 『ぱたれいむはゆっくりできるね』 「おっ!ぱたれいむみーっけ!」 鬼威惨はれいみゅをつまみあげた。 「おちょらをとんでるみちゃい!」 れいみゅのリボンがぱたぱた動く。 あんよが接触していないと勝手に動くのだ。 「ゆ!?にんげんさん?はなしてね!ゆっくりおちびちゃんをはなしてあげてね!」 「ゆゆ?にんげんしゃんゆっくちしていってにぇ!」 れいみゅはもみあげをぴこぴこ動かしながら鬼威惨に挨拶した。 「もみあげぴこぴこだけでもうざいのにりぼんがぱたぱたとかなんかもうね・・・。」 「ゆゆ!?おちびちゃんのぴこぴこさんもおかざりさんもとってもゆっくりしているでしょ?へんなこといわないでね!」 「ゆゆ~ん!れいみゅとっちぇもゆっくちしているよ?きゃわいくってごめんにぇ!!」 ぴこぴこぴこぴこ・・・。。 ぱたぱたぱたぱたぱたぱた・・・・。 「ビキィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」 鬼威惨はれいみゅを池に向かって投げた。 「れいみゅおちょらをとんでるよぉぉ~~~!」 れいみゅのおかざりがぱたぱたと動いて池の上を滑空している。 でも決して上昇はしない。 子れいむにだんだん水面が近づいてゆく。 「ゆゆ?おみずさんはゆっくちできにゃいよ?はなれちぇね?れいみゅからはなれちぇね!」 「ゆあ~っ!おちびちゃんがぁぁ~~~~~!おちびちゃん!ゆっくりだよぉ!ゆっくりぱたぱたしてね!」 れいみゅのあんよが水面に接触する。 「ゆんやぁ~!あっちいってにぇ!おみずさんはゆっくちしないでれいみゅからはなれちぇにぇ~~~! ゆ?ゆゆぅ!?ゆびゃぁ!おぼれりゅぅ!れいみゅおぼれりゅよぉ~!ごひゅっ!おきゃーしゃんたちゅけちぇ! かわいいれいみゅがおぼれてりゅよぉぉ~!ゆごっふ!ゆっくちしにゃいでたちゅけてぇ!」 「おちびちゃ~ん!いまたすけるからね!」 そうはいっても母れいむには助ける方法もない。池の周りをぴょんぴょんはねながら「ゆっくり」とか言っているだけである。 「おまえも行け!」 そういうと鬼威惨はれいむを池に向かって蹴飛ばした。 「ゆびゃぁ!!!れいむそそらをとんでるみたい~~~!」 れいむは池の上でりぼんをぱたぱたさせている。 「おちびちゃ~んいまいくよぉぉ!」 「れい・・・みゅ・・・とけ・・・ちゃ・・・。もっちょ・・・ゆっくち・・・・・・。」 「ゆんや~~!おみずさんがこっちにくるぅぅ!おみずさんはこっちにこないでね!ゆっくりしないであっちにいってねぇぇぇ!」 結局れいむも水の中に落ちた。 「ゆんやぁぁぁぁ!!!!!!!!!!おみずさんはゆっくちできないぃぃ!!おぼれるぅぅれいむおぼれりゅよぉぉぉ!!」 もみあげをぴこぴこ動かし水面をを叩く。 りぼん相変わらずぱたぱたと動いている。 あとは池の魚が掃除してくれるだろう。 「すっきり~!」 鬼威惨は満足そうな笑顔で帰っていった。 おしまい。 過去作 anko3694『野良れいみゅは飼いゆっくちになりちゃい』 anko3697 れいみゅがおそうじするよっ! anko3704 おねえさんのゆうかにゃんに対する教育のようなもの
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※独自解釈全開です。 ※ぺにまむ表現があります。 ※虐待成分かなり薄目。 ※初ゆ虐です。お目汚し失礼。 おいおい、もう終わりか? あんよも焼いていないし、餡子だって漏れていないじゃないか。 むしろ、これからが本番だぞ? 人が丹精込めて育てた野菜を食い散らかして、この程度で済む訳無いだろうに。 ……なに? 『お野菜は勝手に生えてくるでしょう』? 馬鹿かお前? だったらどうして山や野原に生えないと思ってるんだ。 ……『人間さんがお野菜が勝手に生えるゆっくりプレイスを独り占めしてるから』? ……なあ、れいむ。 その大嘘、誰から聞いたんだ? ……『嘘じゃない、お母さんがそう言っていた』? ああ、解った。 お前のお母さんも騙されていたんだよ。 ……そうだな、ちょっとだけ教えてやろう。 『嘘つきゆっくり』 昔々、お前のお母さんのお母さんの、そのまたお母さんが生まれるよりもずっと前の事だ。 その頃はまだ人間とゆっくりは仲が良かったんだ。 ゆっくりは人間をゆっくりさせてあげる事でお野菜やあまあまを貰い、 人間はゆっくりに食べ物をあげる代わりにゆっくりさせて貰う。 そうやってお互い仲良くやっていたんだ。 だけどある時、一匹のゆっくりがこんなことを言い始めた。 『人間はお野菜やあまあまが勝手に生えるゆっくりプレイスを独り占めしている』 最初の内は誰も相手にしなかったよ。 みんな知っていたんだろうな。 お野菜は人間が育てている物で、人間がそれを材料にして作ったのがあまあまだって事をさ。 そしてそれが人間がゆっくりするために必要な物だって事もな。 ところがそのゆっくりは同じ事を毎日繰り返し主張した。 やがてそのゆっくりの言う事を信じるゆっくりも現れた。 そうしてゆっくり達は人間の畑を襲い出したんだ。 びっくりしたのは人間の方だ。 今まで友達だと思ってたゆっくりが、いきなり訳の解らない事言いながら畑に押し寄せてくるんだからな。 でもその時はまだ人間も許してくれたのさ。 軽いお仕置きが精々で、大体は叱って終わり。 それが悪かったんだろうな。 そこで潰しておけばその後の悲劇も防げただろうに。 お仕置きされたゆっくり達は群れに逃げ込むなりこう言い出したんだ。 『自分達が見つけたゆっくりプレイスを、人間に横取りされた』、 『自分たちは何もしていなかったのに、いきなり人間に虐められた』ってな。 何匹か死んでいたのも話に真実味を付けてしまったから、その話を信じたゆっくりは多かったらしい。 実際は叱られて悪事を自覚したゆっくりが謝ろうとした際に、『裏切り者は死ね!』って自分達で殺したようだがな。 その話を信じた群れのゆっくり達は激怒したのさ。 『ゆっくりできない人間を懲らしめる!』って周囲の群れを全部集めて、人間に復讐しようとしたんだ。 もちろんそんな大嘘に騙されなかった賢いゆっくりも居たよ。 でも、復讐に燃える群れを止められる程居た訳じゃ無かったし、 何より止めようとしたゆっくりは、軒並み人間のスパイだと断じられて処刑された。 結局賢いゆっくり達は群れを離れ、人間も立ち入らない山奥へ逃げていったそうだ。 そして残ったゆっくり達は一斉に人間を襲い始めたんだ。 今度は人間も黙ってられなかった。 畑荒らしどころか、人間も無差別に襲って来たんだからな。 ゆっくりの攻撃なんて人間にとって大した事じゃないが、行く先々で襲われたんじゃ仕事になりゃしない。 仕事ができなければ人間はお金が貰えない。 お金が無ければ人間はゆっくりできない。 仕方なく人間は襲ってくるゆっくり達を捕まえて事情を聞く事にした。 まだ仲直りできると思ってたんだろうな。 結論から言えば仲直りはできなかった。 むしろ悪化しちまった。 捕まえたゆっくりは同じ事を言い続けた。 「ゆっくりプレイスを独り占めする悪い人間さんは死ね!」ってな。 そりゃそうだ。 ゆっくりは人間がゆっくりプレイスを独り占めするためにゆっくりを殺した、と思い込んでいたんだから。 だが、それを聞いた人間は激怒した。 人間はゆっくりが畑荒らしを自己正当化するために嘘をついている、と思ってしまったんだ。 そうして人間は、自分勝手なゆっくりが大嫌いになって。 ゆっくりは人間をゆっくりさせなくなった。 もうお前にも解っただろう? 人間はゆっくりよりも強い。 だから人間に歯向かったゆっくりは大概死ぬ。 最初の内こそ「歯向かって来たゆっくりだけを殺す」って思っていた人間も、 余りにもゆっくりが悪さを繰り返すもんだから、片っ端から潰すようになった。 やがて人間の中からゆっくりを虐める事を楽しむ奴が現れた。 いわゆる虐待鬼意山、という奴だな。 ……俺は違うぞ? 俺はただ、悪いゆっくりが大嫌いなだけだ。 仲違いしてからもう何千、何万のゆっくりが死んだか知らないが、 たった一匹のゆっくりが吐いた大嘘が、今でも沢山のゆっくりを騙して、そして死なせている。 お前も、お前のお母さんも、そのゆっくりの被害者なんだよ。 そして多分、人間も、な。 ……どうした?なんで泣いている? ……『嘘つきゆっくりはゆっくり死ね』? まあそう言うな。 そのゆっくりはとっくに死んでるよ。 ……『どんなゆっくりだったの?』って言われてもな…… 解らないんだ。 れいむだったかも知れないし、まりさかも知れない。 もしかしたらありすかも知れないな。 人間を襲ったゆっくりの中に居る事は確かなんだが、どのゆっくりだったかは伝わっていない。 おそらく山に逃げた賢いゆっくり達は知ってるかもしれないが、 奴らは人間はおろかゆっくりの前にも姿を見せないからな。 おまけにこの事を覚えてる人間もいなくなってきたから、余計に解らなくなっちまった。 ……『どうして人間さんは覚えていないの?』だって? さっきも言ったが人間がゆっくりを大嫌いになったからさ。 嫌いな奴の事なんて覚えていたくないだろう?そう言う事だ。 オレンジジュースが効いて来たみたいだな、もう大丈夫だ。 ……ああ、ちょっとまて。 これ、お前が駄目にした野菜だ。 こうなったら人間にとって価値はないから、お前にやる。 ……大丈夫じゃねえよ。お陰で俺がゆっくりできなくなっちまった。また一から作り直しだ。 ……謝るなよ。 それよりさっきの話、ちゃんと群れのゆっくり達に教えてやれよ? 人間にもまだゆっくりと仲良くしたい奴が居るからな。 ひょっとしたら仲直りできるかもしれないぞ。 そのためにはさっきの大嘘に騙されたゆっくり達の目を覚ましてやらないと駄目だ。 ……ああ、頼むぞ。お兄さんとの約束だ。 だからその土下座を止めろ。っていうか頭だけでよくそんな器用な真似できるな…… ほら、もう行け。暗くなるとれみりゃが出るからな。 ……おう、『ゆっくりしていってね!』もう来るなよ! ……ふう。 口から出任せとはいえ、よくもあんな法螺話がスラスラ出て来たもんだ。 まあこれで奴らが畑に来なくなれば良し。 来るようならまた同じ話をしてやりゃ、いつかは来なくなるかもな。 畑の被害も胡瓜数本で済んだから殺す程じゃなかったし、 あいつ物わかり良さそうだったから、案外うまく行くかも知れん。 ……さて、まずは畑の周りにゆっくり避けの罠を置くか。 三軒隣の御仁井さんに頼むとして、予算は…… ゆっくりれいむは必死に森の中を跳ねていた。 口に銜えた胡瓜の束を落とさないように注意しながら、今の彼女が出せる最大限の速さで群れに急ぐ。 それ程に先刻の話は衝撃的過ぎた。 人間さんがゆっくりを虐める理由が、まさか昔のゆっくり一人の大嘘のせいだったとは! (はやくみんなにおしえてあげないと!みんなでゆっくりできるかもしれないよ!) あの人間さんは『人間にもゆっくりと仲良くしたい人がいる』と言っていた。 それに悪いゆっくりが大嫌い、と言っていたにも拘らず、畑を荒らしてゆっくりさせなかったれいむを許してくれた。 それもこんなお土産付きで! ならば、あのお話のように人間さんをゆっくりさせてあげれば、またお野菜が貰えるようになるだろう。 その為にも、一刻も早くこのお話を群れの皆に伝えねば! (まっててねみんな!ゆっくりしないですぐかえるよ!) 使命感に燃え、れいむは森を走破していった。 「むきゅ!れいむはそのにんげんさんにだまされたのよ!」 「どぼじでぞんなごどいうのおおおおおお!!!!!」 山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘。 れいむが属する群れが注目する中、長であるぱちゅりーはれいむの話を聞くなり嘘と断定した。 「おにーさんがおしえてくれたんだよ!おやさいはかってにはえないんだよ! にんげんさんがゆっくりするためにおさやいがひつようなんだよ! にんげんさんがれいむたちをゆっくりさせてくれないのは、おおむかしのうそつきゆっくりのせいなんだよ! だからゆっくりはんせいしてもういちどにんげんさんをゆっくりさせてあげれば、おやさいもわけてもらえるんだよ!」 必死に訴えるれいむに冷ややかな一瞥をくれ、ぱちゅりーは言い聞かせるように語り始めた。 「むきゅ!そんなおはなし、ぱちぇはいちどもきいたことないわ。 ぱちぇはぱちぇのおかあさんのおかあさんのころからのことなら、なんでもしってるわ。 そのぱちぇがしらないのよ。 だからそのおはなしはまっかなうそなのよ!」 実際に嘘なのだが、その判断基準が自分の知識に無いから、という時点でこのぱちゅりーの程度が知れる。 元々ぱちゅりーの祖母がここに群れを構えた理由は、食料が豊富な場所だった為である。 だから今まで餌が尽きる事は無かった。ぱちゅりーの代になるまで、群れは平穏無事に過ごせていた。 それはぱちゅりーの祖母、先々代の長の非凡な才能の証だったのだが、それが災いした。 今代の長であるこのぱちゅりーは、ぱちゅりー種としては驚くほど無能だった。 先代の長の一粒種だった為、母と群れの皆からかなり甘やかして育てられた結果である。 思慮に欠け、肝心な知識も穴だらけで、唯一保身の為の悪知恵だけはよく回る。 正直長としては全く役立たずなのだが、偉大な先々代の直系という七光りが分不相応な地位を授けてしまった。 この群れは以前ほどのモラルを持たない。 先代まで守られていたすっきりー制限も忘れ去られ、群れのゆっくり口は増える一方。 れいむが人里で畑荒らしをするはめになったのも、群れが付近の草や虫を捕り尽くしたからだ。 本来捕り尽くす前に止めるべき所を放置した結果である。 「それはおさのおかあさんのおかあさんのおかあさんがうまれるより、もっとまえのことだからだよ! それにおにーさんはおやさいくれたよ!にんげんさんもれいむたちとなかよくしたいっていってたよ!」 「そんなむかしのおはなしをにんげんさんがしってるはずないわ。 だいたいどんなゆっくりがうそをついたかすらわからないようじゃ、しょうめいできないじゃない」 まさに暖簾に腕押し、糠に釘。 甘やかされて育ったぱちゅりーは、呆れるほどにプライドが高い。 自分が知らない事は無い、と全然根拠の無い自信に溢れるぱちゅりーにとって、 己の知識に存在しない話なぞ決して受け入れる筈がない。 自分の非を認めないれいむに、ぱちゅりーは次第に苛つきを募らせていった。 れいむにとって、自分をゆっくりできなくさせた悪いれいむを許してくれた人間さんが絶対である。 最初こそ酷く痛めつけられたものの、あのお話を聞いていかに自分がゆっくりできなかったかを知り、納得している と、言うよりあの程度で許してくれた時点で『とっても優しい人間さん』であると思っている。 なにより『悪いゆっくり』だったれいむに、自分のゆっくりを犠牲にしてまでお野菜を分けてくれた事が決定的だった。 そんな『おにーさん』を侮辱されて黙っていられる程、れいむは薄情ではない。 自分の話を聞き入れもせず否定するぱちゅりーの態度に、れいむの忍耐は徐々にすり切れていく。 そして、れいむは遂にその言葉を言ってしまった。 「どうしておにーさんのいうことしんじてくれないの!?」 「ほんとはものしりだなんて、うそなんでしょ!?」 「この、うそつき!」 「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!い゛だい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!」 『おにーさん』の制裁はとても痛かった。 でも、今の痛みに比べればどれ程優しかったのか。 動けないようにあんよを食いちぎられ、自慢の素敵なおりぼんをビリビリに破かれ、群れの皆にボコボコにされ、お目目を片方潰されて。 全身を鋭い枝で切り裂かれ、にんっしんっ出来ないよう抉られたまむまむで群れの皆に代わる代わるすっきりー!させられる。 じくじく痛む体にのしかかり、盛んにすーり!すーり!してくるまりさと、 激痛しか伝えてこないまむまむにぺにぺにを突き立ててくるありす。 ふぁーすとちゅっちゅっすら未経験のれいむにとって、それは何よりもおぞましい行為だった。 だが幾ら泣き叫んでも、誰も止めようとはしない。 むしろ「んほおおおおおおお!つんでれなのねええええ!かわいいわあああああ!」だの 「ゆっへっへ!いやがっててもまりさのてくにめろめろなんだぜ!わかるんだぜ!」などと盛り上がる始末。 そして身動きの取れないれいむの目の前で、『おにーさん』から貰った胡瓜が全て食い散らかされていた。 「うそつきのれいむにはもったいないからたべてあげるね!」 「うめ!めっちゃうめこれ!」 「や゛べて゛え゛え゛え゛え゛え゛!ぞれ゛ばお゛に゛い゛ざ゛ん゛がでい゛ぶに゛ぐれ゛だの゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!」 痛みからなのか、それとも『おにーさん』の信頼を裏切ってしまった事が悔しいのか。 潰された左目から餡子の涙を、霞む右目から滝のような涙を流すれいむを、尊大にふんぞり返ったぱちゅりーが睨みつける。 「むきゅ!ぱちぇにうそをついたげすはゆっくりしね!」 その台詞に周囲のゆっくり達が次々と追従する。 「げすのくせにおさをだまそうとするからこうなるんだぜ!」 「おやさいがにんげんさんのものだなんて、とんだうそつきのいなかものだわ!」 「ゆっくりできないれいむはくるしんでしぬといいんだねー!わかるよー!」 「ちーんぽ!」 「おきゃーしゃん、りぇいみゅおにぇーちゃんはどうしちぇいじみぇらりぇてりゅの?」 「あのれいむはうそつきだからだよ!おちびちゃんはあんなげすになっちゃだめだよ!」 「「「「「「ゆっきゅりわきゃったよ!!!」」」」」」 そんな群れの様子ををぼやけた視界で捉えながら、れいむは思う。 れいむを取り囲む群れの皆が、全然ゆっくりしていない。 人里へ向かうれいむを心配そうに見送ってくれた幼馴染みのまりさが、 色鮮やかなれいむのおりぼんを「とってもとかいはね!」と褒めてくれたありすが、 れいむに上手な狩りの方法を教えてくれた心優しいちぇんが、 かつて凶暴な蛇かられいむを助けてくれた勇敢なみょんが、 いつもれいむのお歌でゆっくりしてくれた赤ちゃん達とその親達が、 全てのゆっくりが醜く歪んだ表情を浮かべ、れいむが苦痛にのたうち回る様を嘲笑う。 その口から出てくるのは聞くに堪えない罵詈雑言。 群れの幸せを願ったれいむを完全否定する、ゆっくりできない仲間達。 もしかしたら、あのお話に出て来たゆっくり達もこんな感じだったのではないか? (おにーさんのいったとおりだったよ。あのうそにだまされたゆっくりはゆっくりできないんだね。 ……ごめんね、おにーさん。れいむ、やくそく、やぶっちゃったよ。) 間断なく責め立てているはずの痛みさえ、今やれいむには知覚出来ない。 薄れ行く脳裏に浮かぶのは、悲しそうにれいむを見つめる『おにーさん』の姿。 その涙はれいむの現状を哀れんだものか、それとも約束を守れなかったれいむを恨んでのものだろうか。 (………………ご……めん……………な……………さ………い………………………おに………………さ……………………ん……………) 押し寄せる絶望と無念の中で、れいむの短いゆん生は幕を閉じた。
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『だいりしゅっさん 中編』 75KB 制裁 不運 妊娠 同族殺し 群れ ゲス 希少種 自然界 人間なし ナナシ作 前回のあらすじ 長候補であり狩りの名人でもある優秀なゆっくりであるまりさ。 しかしそのまりさの番であるありすは、子供の生むことのできない不能ゆっくりであった。 おちびちゃんができずに悩む日々。 そこでまりさは、れいむに代わりに子供を産んでもらうという代理出産という方法を思いつく。 この提案をもちかけたれいむは、報酬の食料につられ、これをよろこんで承諾。 あとはおちびちゃんがうまれるのを待つのみとなった。 そして出産当日。 生まれてきたたおちびちゃんに心を奪われたれいむは、まりさとの約束を反故。 群れの広場にて、まりさにレイプされ、おちびちゃんを売と迫られたと嘘の主張をする。 タイミングの悪さから、その話を信じた群れのゆっくりによって捕まってしまうまりさ。 さてこの先まりさの運命は? そしてこの事件を機に暗躍する群れのゆっくりたちの運命はいかに。 ここはとあるゆっくりの群れ。 今、この群れのゆっくりたちの間では、ある事件の話題で持ちきりだった。 「ゆゆ!あのはなしきいた?」 「まりさとありすのつがいのことでしょ!きいたきいた!」 「ゆー!あのまりさたちがあんなことするなんて、ちょっとしんじられないよ!」 「そうかしら?ありすは、いつかなにかしでかすんじゃないかとおもってたわ! だいたい、あのありすはむかつくのよ!むれいちばんのびゆっくりとかいって、おたかくとまっちゃってさ!」 「そうなのぜ!まりさにしたって、ちょっとかりがうまいからって、りーだーかぜふかしすぎだったのぜ! あのていどのこと、このまりささまがほんきになれば、かんたんにできることなのぜ! まあ、しょせんは、げすのばけのかわがはがれったってことなのぜ!ゆっへっへっへっへ!」 わいわいと賑わうゆっくりたち。 ゆっくりたちが話題にしている事件とは、もちろんまりさとれいむのおちびちゃん買収問題のことである。 昨日の広場での騒動から一夜明けて今日。 群れ内では、まりさとありすの番がおちびちゃんを奴隷売買しようとしていた! という衝撃的ニュースは、またたくまに群れ中に広まっていたのだ。 そして、その詳しい内容とは以下のようなものである。 昨日の夕方ごろ、群れの広場にて、乱闘騒ぎがあった。 一匹のゲスまりさがれいむに襲い掛かったのである。 幸いそのゲスまりさはその場にて取り押さえられ、被害者のれいむにはけがはなかった。 さて、これだけ聞けばただの暴行事件であるが、実はこの事件の裏には衝撃の事実が隠されていたのだというから驚きだ。 まず犯人であるが、これがなんと群れ一番の狩りの名人として知られ、次期長候補としても有力だったあのまりさなのである。 これだけでも十分驚きに値する内容であるが、まだまだこんなものは序の口にすぎない。 実はこのまりさ容疑者は、ここ最近より不審な行動をが目立ち、群れのみんなを怯えさせていた。 ある日突然まったく狩りをしなくなったと思ったら、これまたある日突然すさまじい勢いで狩りを再開しだすという、まったくゆっくりできない奇行を繰り返していた。 理由を尋ねても、答えは意味不明なものばかり。 異常行動ここに極まりである。 そして、まりさの異常行動はエスカレートしていき、ついには一線を越えてしまうときがきた。 一体何をトチ狂ったのか、この群れに住んでいる何の罪もないれいむ無理やりレイプし、にんっしんさせたのだ。 これだけでも許しがたい行為だというのに、まりさ容疑者のゲス行為はこの程度では終わらない。 まりさ容疑者はなんと、そのにんっしんさせたおちびちゃんを食料により買収し、奴隷にしようと画策していたのだ。 これはこの群れ始まって以来未曾有の大犯罪である。 しかしこの世に悪は栄えないもの、ましてやこの群れは善良なゆっくりたちが住む正義の群れ。 この悪意に満ちたまりさ容疑者の企みは、被害者であるれいむの勇気ある告白により、白日の下にさらされることになる。 れいむはなんと、広場のゆっくりたちの前で今までのまりさの悪行を盛大に暴露したのだ。 これにはまりさ容疑者もまいったのか、実力行使でれいむを止めようと襲い掛かった。 だがここで颯爽と登場したのが群れ一番の勇者幹部みょんだ。 幹部みょんの活躍により、まりさ容疑者はあっさりと撃退される。 しかし往生際が悪いまりさ容疑者は、ここで被害者のれいむが嘘をついている、などとふざけたことを言い出した。 本来ならば被害者であるれいむを加害者に仕立て上げようとするという、とんでもないゲスな行為に出たのだ。 だがこのゲス特有の悪あがきも、群れ一番の知恵者である幹部ちぇんによってあっさりと封じられることとなる。 幹部ちぇんの鋭い指摘により進退窮まった容疑者まりさは、みじめにも逃亡をはかろうとしたが、幹部みょんのダメ押しの体当たりによりあっさり御用となった。 なお、この騒動の後に、二匹の幹部主体によって、容疑者まりさのおうちの家宅捜索が行われた。 それによって、おうちに潜伏していた容疑者まりさの番である容疑者ありすを拘束。 さらに徹底的な捜査により、おうち内に隠された大量の食料を発見、押収した。 越冬次期でもない今現在で、これだけの量が貯蓄されているのは明らかに異常であり、これはおちびちゃんの奴隷売買のための食料であることはほぼ間違いないと思われる。 この動かぬ証拠によりまりさ容疑者の容疑はほぼ確定し、貯蓄されていた食料の量から、今回の件が明らかにならなければ第二第三の犠牲者が出ていたのは間違いないと推測される。 さらに、今までのまりさ容疑者の様子についても、むれの一部のゆっくりたちは、 実は以前自分もレイプされそうになった、自分のおちびちゃんが誘拐されそうになった、野獣の目線で見られていた。 などなど、その犯行を裏付ける有力な証言が続々と上がっており、 こんな危険なゆっくりを今まで放置していたのは、長ぱちゅりーの怠慢ではないか?という意見もあり、早期退陣を求める声も上がっている。 また、この事件を告発した勇気ある被害者のれいむを群れの幹部に、さらには解決へと導いた幹部みょん、幹部ちぇんのどちらかを次期長にという声が群れ内で強まっているようだ。 以上、群れの噂より抜粋。 所変わってここは長ぱちゅりーのおうち。 「……むっきゅー!まいったわねー!」 長ぱちゅりーは、おうちで疲れようなたため息をついていた。 まったくめんどうなことになった、とでも言いたげな様子である。 「だいりしゅっさんだなんて、まさかこんなことになるとは……。 まったくどうしたものかしらねぇ……」 唸る長ぱちゅりー。 長ぱちゅりーが頭を悩ませている原因。 それはもちろん、昨日の事件のことである。 長ぱちゅりーがこの事件のことを初めて知ったのは昨日の夜のことである。 その夜、長ぱちゅりーのところに、例の容疑者まりさが、幹部みょん幹部ちぇんによって連行されてきたのだ。 ただならぬ様子で突然やってきたこの三匹に、長ぱちゅりーは驚きを隠せなかった。 「むっ、むきゅ!いったいどうしたの!これはなんのさわぎなの!」 「おさあああああああああああああああ!ちがうんだよおおおおおおおおおおおおおおお! まりさは!まりさはああああああああああああああああ!ただおちびちゃんがほしくてえええええええええええ!」 「うるさい!だまってるみょん!」 ドン! 「ゆびぃ!」 長ぱちゅりーに向かって、必死に何かを訴えようとするまりさを小突き、幹部みょんは黙らせる。 「なっ、ちょっとやめなさい!いったいこれはどういうことなの!せつめいなさい!」 幹部みょんの有無を言わせぬ暴力行為に、強い口調で言う長ぱちゅりー。 いったいこれはどうしたというのだ。 「わかるよー!こいつらはげすゆっくりで、ざいにんなんだよー!このぐらいとうぜんなんだよー!」 隣にいる幹部ちぇんが面倒くさそうに答えた。 「ざいにん?まりさたちがなにかしたというの!」 「みょん!あきれたもんだみょん! おさのくせに、そんなこともしらないのかみょん! こいつらは、おちびちゃんをどれいにしようとした、ごくあくゆっくりだみょん!」 「わかるよー!でもこのじけんは、おさがのんきに、ゆっくりしているあいだに、ちぇんがかいけつしちゃったんだねー!」 「みょん!なにいってるみょん!このじけんをかいけつしたのは、みょんだみょん!かんちがいしないでほしいみょん!」 「「ゆぐぐぐぐぐぐ!」」 いがみ合う幹部みょんと幹部ちぇん。 まーた始まったな、と長ぱちゅりーは思った。 この二匹はいつもこうなのだ、ことあるごとに争って、どちらが次の長にふさわしいかの口論を始める。 しかし、今はそんなことはどうでもいいのだ。 大事なのは、まりさの件だ。 おちびちゃんを奴隷にしたとかなんとか、一体どういうことだ? 「まりさ、ほんとうなの? おちびちゃんをどれいにしようとしたなんて……」 「ちっ、ちがうんだよおおおおおおおおおおおおおおおお! まりさ、おちびちゃんがほしかっただけだよおおおおおおおおお! それでれいむにおねがいしたんだよおおおおおおおおお! それなのに、れいむが!れいむがあああああああああああああああああああ!」 「???」 まりさの発言はいまいち要領を得なかった。 よって、あたりまえだが広場での事情をしらない長ぱちゅりーには何のことかさっぱりである。 「みょん!まだいうかみょん!」 「わかるよー!いいかげんあきらめるんだねー!」 ビタン! 「ゆべし!」 さっきまでいがみ合っていたはずの幹部みょんと幹部ちぇんが、挟み込むようにしてまりさをおし潰し、黙らさせる。 普段は仲が悪いのに、こういう時だけは妙に息があっている。多分それは彼らの底に潜む本質が同じものだからだろう。 本人たちは決して認めないだろうが。 「ちょっと!だからぼうりょくはやめなさいっていってるでしょ! まだぱちぇがはなしているとちゅうなのよ!」 先ほどからの幹部みょんたちの度重なる横やりに、やや不機嫌な声を上げる長ぱちゅりー。 「みょん!おさにはなすひつようなんてないみょん! このじけんは、みょんがとりしきるみょん!」 「なんですって!」 「わかるよー!おさは、ちぇんのてがらをよこどりしようったってそうはいかないよー! いちおうおさだから、ほうこくはするけど、くちだしはさせないよー! これから、まりさのおうちに、しょうこあつめにいくんだから、じゃましないでねー!」 「ちょっと、あなたたち!まちなさい!」 言いたいことだけ言うと、まりさをつれてさっさとおうちを出ていく幹部みょんと幹部ちぇん。 どうやら、まりさのおうちへと向かうようである。 慌ててその後を追う長ぱちゅりー。 しかしこの群れでは事件がおきればその判断は基本的に長にゆだねられるというのに、この幹部ちぇんと幹部みょんの態度はどうだ。 まるで長などいらない、自分たちがそのかわりであるといわんばかりである。 いや、実際そうなのかもしれない。 今までもこの幹部二匹は、ことあるごとに長の地位を狙って行動を起こしてきた。 今回のこの事件でも、自ら主体になって事件を解決することにより、次期長としての地位を確立させようとしているのかもしれない。 そのためにあえて長ぱちゅりーを積極的に事件に介入させまいとしているのではないか? 移動中長ぱちゅりーはそう邪推せずにはいられないかった。 長ぱちゅりーたちがまりさのおうちへついてからは、事件は予定調和のようにトントン拍子で話が進んだ。 まりさのおうちの周りは、すでに幹部みょんと幹部ちぇんの子飼の部下たちによって包囲されている状態であり、長ぱちゅりーたちの到着と同時に捜査が開始された。 まず、おうち内で一体これは何事かと怯えていたありすが引っ張り出されてきた。 そして次に、おうちの倉庫に入れてあったすべての食料が運び出された。 「わっかるよー!げんじゅうにかくしてあったしょくりょうをみつけたよー! これはうごかぬしょうこなんだねー!」 「みょん!はんにんのいちいんで、おうちにせんぷくしていたありすを、とうとうつかまえたみょん! これでじけんはかいけつだみょん!」 これらを前にして、幹部二匹は鬼の首でもとったように勝ち誇った声を上げていた。 別に食料は隠されておらず、ただ単におうちの奥の食料庫に入っていただけだし、ありすにしても、ただ単におうち内にいたというだけの話なのだが、 幹部二匹にしてみれば、食料は厳重に隠されていたし、ありすは捜査の目を逃れるためにおうち内にひそかに潜伏していたということらしい。 「なっ、なに?これはいったいどういうことなの!おさ!いったいこれはどうなってるの!」 わけがわからないのはありすだ。 いつものように狩りを終え、おうちに帰ってしばらくすると、おうちの周りを数匹のゆっくりたちによって完全に包囲されてしまったのだ。 いつになってもまりさは帰ってこないし、周りを囲んでいるゆっくりのせいで、出るに出られぬ状況の中、 ついには突然やってきた幹部たちにより外に連れ出され、さらにおうちの食料まで持ち出されてしまったのだ。 外に出たら出たで、番のまりさは捕まってるし、なぜか自分は犯罪者扱いだ。 まったく何がなんだかわからない。 まりさのそばにいた長に必死になって説明を求めるありす。 「しらじらしいえんぎはやめるみょん!このげすが!」 「わかるよー!このちぇんのめはごまかせないんだねー!」 「はぁ?いったいあんたたちなにいってるの!わけがわからないわ!」 突然ゲス呼ばわりされて激昂するありす。 彼女ににしてみれば、この事態はまるで身に覚えのないものだからそれも当然だろう。 だがこのありすの態度は、幹部みょんの癇に障ったようだ。 「みょん!したてにでてれば、いいきになって! げすはせいっさいだみょん!」 「やめなさい!みょん!」 幹部みょんがありすにも暴力を振るおうとしたが、それはさすがに長ぱちゅりーがキツく制止させた。 群れの長としても、これ以上のやりたい放題を許すわけにはいかなかった。 「みょんもちぇんもいいかげんにしなさい!さっきからなんなの、このごういんなそうさは!まりさたちのはなしもろくにきかないで! これよりさき、このじけんは、むれのおさのなにおいて、このぱちぇがあずかるわ!いいわね!」 「ちっ、わかったみょん!」 「ふん、しょうちしたよーっだ!」 幹部たちは不満そうだったが、一応長ぱちゅりーの指示にしたがった。 流石に今の段階で、おおっぴらに長に逆らうのはまずいと判断したのかもしれない。 とにかくこれで事件の指揮権は、幹部たちから長ぱちゅりーへと移ったわけである。 長ぱちゅりーはまず、まりさとありすの二匹に、とりあえず今日のところはおとなしく群れの独房へと移動してくれないかと提案した。 なにしろ突然のことで、自分もまだ事件の全容を完全に理解してはいないのだが、どうやらまりさが広場でれいむに襲い掛かったということが事実な以上、 このまま放免というわけにはいかない。 よって暫定的な処置として、一時的な拘束はやむを得ないというわけだ。 この提案には仕方なしということで、まりさとありすの二匹とも頷き、了承した。 また押収した大量の食料についても、このまま主のいないおうちに残しておくのも危険というこてで、一時的に群れの共有倉庫へと移されることになった。 こうして事件はひと段落し、その日は解散ということになったのであった。 ……というのが昨日の夜の出来事。 そして一夜明けて今日。 「……むっきゅー!まいったわねー!」 長ぱちゅりーは事件のことについて、すっかり頭を悩ましていたのだった。 正直これはかなりやっかいかつデリケートな問題であり、複雑な要素が絡み合っているのだ。 とにもかくにも、まずやらなければならないことは、事件の全貌を正確に把握することである。 長ぱちゅりーは昨日あれからまりさとありすから詳しい話を聞いていたので、おおよその事件のあらましは理解できていた。 それと幹部みょんたちの報告や、れいむの主張などを合わせて考えると大体こんな感じになるのではないだろうか。 まず、れいむとありすは、おちびちゃんができない苦しみから代理出産という方法を思いつき、その母体にれいむを選んだ。 そしてまりさはれいむと交渉へと望む。 ここまではいいだろう。だが、ここからは先はまりさとれいむの双方の主張が大きく食い違うことになる。 まりさの主張では、双方の合意があり、食料はれいむに対する報酬であったとしているのに対して、れいむの主張ではれいむは無理やりレイプされ、 さらに食料はおちびちゃんを奴隷として買い取るものであると言っているのだ。 いまのところ群れの動向としては、れいむの主張を真実だという説が有力でり、まりさを犯罪者扱する傾向にあるようだ。 やはり昨日の広場での騒ぎの要因が大きいのだろう。 とくに、幹部みょんと幹部ちぇんは、それが真実であることを前提として行動しており、強引におうちを捜査するなどかなりの無茶をしている。 だが長ぱちゅりーは、恐らくれいむの主張であるレイプされたことや、おちびちゃんを奴隷にするという話はでっち上げではないかと予想している。 というのもいくつか理屈に合わない点があるからだ。 今ここで仮にまりさがれいむをレイプしたと仮定しよう。 と、するとその目的はなんだろうか? れいむに欲情して?いいや違う、れいむは別段美ゆっくりでもなんでもない。 その理由は考えるまでもなく、おちびちゃん欲しさのためだ。 つまりレイプという行為が目的ではなく、その先にあるおちびちゃんが目的だったと推察されるわけだ。 そしてその後、生まれたおちびちゃんを食料で買い取って奴隷に……というのがれいむの主張なのだが、おかしいと思わないだろうか。 ゆっくりを無理やりレイプし、おちびちゃんを奴隷にするようなゲスゆっくりが、わざわざ食料の報酬を支払うだろうか? そんな外道なゆっくりなら、おちびちゃんは無理やり奪っていくのではないだろか? 最悪母体であるれいむは用済みにあったら殺してしまってもいい。 いやむしろ、殺した方が後々騒がれなくて断然楽なはずなのである。 理由はもう一つある。 それは生まれてきたおちびちゃんの大きさだ。 長ぱちゅりーは直接目にしてないが、れいむが広場に連れてきというおちびちゃんは赤ゆっくりサイズではなく子ゆっくりサイズだったという。 さらにはその場にいたのは一匹だけだったそうだ。 生まれた直後で既に子ゆっくりサイズかつ、数も少ないということは、れいむのにんっしん方法は間違いなく胎生にんっしんだったはずだ。 とするとこれもおかしい。 おちびちゃん目当てでレイプしたならば、なぜわざわざ植物にんっしんでなく、胎生にんっしんにしたのか? よく考えるまでもなく、おちびちゃん目当てなら植物にんっしんのほうが効率がいい。 たくさん、しかもすぐに生まれるからだ。 よってまりさがゲスならば、れいむをレイプしたとき間違いなく植物にんっしんさせたはずなのだ。 だが実際にはれいむは胎生にんっしんだった。これは数少ない確定している事実だ。 胎生にんっしんの場合は、生まれるまで時間がかかるし、なによりにんっしん中は母体が全く動くことができない。 つまりレイプされてから出産するまでの間、れいむは一切狩りには出かけられなかったはずなのだ。 その間、れいむの世話はいったい誰がしていたのか? もちろんそれはまりさであろう。 つまりまりさは、ゆっくりを無理やりレイプし、おちびちゃんを奴隷にするようなゲスゆっくりでありながら、胎生にんっしんしたれいむの世話をきっちりし、 さらには大量の食料という報酬もきちんと支払うようなゆっくりだったということになる。 これは一般的なゲスの思考からは、ずいぶんとかけ離れたところにあると言えるだろう。 どうにも行動がちぐはぐなのだ。 一方ではれいむを脅し、しかしもう一方では甲斐甲斐しく世話を焼く姿を想像すると、滑稽ですらある。 以上のことより、長ぱちゅりーはレイプ行為や奴隷の話は実際にはなかったのではないかと予想していた。 つまりこの話はまりさが強引に押し通したのではなく、かなり高い確率でまりさとれいむの間には一定の合意があったはずなのだ。 まりさは、れいむにおちびちゃんを生んでもらうように頼み、そしてその頼みをれいむは承諾した。 そういう話なら報酬の食料も、胎生にんっしん中の世話についても、不思議でもなんでもない。 初めからそういう約束だったのだから、辻褄が合うというものだ。 だが恐らくおちびちゃんが生まれた直後、れいむはまりさを裏切った。 何か心変わりがあったのか、それとも初めからまりさをはめる腹積もりだったのかはわからないが、とにかくれいむは最高のタイミングでの裏切りを決行した、 というのが昨日の事件の真相というわけだ。 無論今までの話はすべて長ぱちゅりーの推察に過ぎず、具体的な証拠はなにもない。 れいむの話の方が真実であり、まりさは通常ではあり得ないタイプのゲスだったという可能性ももちろんある。 が、長ぱちゅりーは九割方これが真実ではないかと睨んでいた。 「むきゅ!とはいったものの……。 こまったわねぇ……」 こうして真相はある程度推測することができたのだが、事態はまるで解決していない。 いやむしろ複雑化してしまったとすら言える。 問題なのはむしろこれからなのだ。 とりあえずの大問題としてまりさたちの処遇をどうするかという問題があるが、これが容易くはない。 そもそも群れの掟ではまりさたちがとった方法、つまり代理出産を禁止する法は存在しないのだ。 というか代理出産という概念が既にゆっくりには存在しない、つまり完全に想定外の事態というわけだ。 基本的に群れのゆっくりは、掟で禁止されていること以外ならば何をしても罪に問われることはない。 無論今回の代理出産もその例にもれることはない(だからこそまりさたちはこの方法を実行したのであろうが)。 つまり代理出産ということに関してなら、まりさたちは無罪放免ということになるのだ。 だが一方で、奴隷の所持、およびその取引を固く禁じるという掟は存在しており、これを破ったゆっくりはせいっさいの対象となる。 つまりれいむが主張しているように、奴隷売買の容疑としてならまりさたちを裁くことが可能なのである。 よってこの問題の最大の争点は、まりさの行為は代理出産なのか奴隷売買なのか、 もっと言うと、まりさの主張が正しいのかれいむの主張が正しいのかという争いになるわけだ。 一見するとこれはそれほど悩むような大した問題ではないように思える。 というのは、長ぱちゅりーはこの事件はれいむが虚偽の主張をしているということをほぼ見抜いており、 まりさたちに奴隷売買の意思がなかったであろうことは、ある程度の推測がついているからだ。 それらの説明を順を追って群れの皆にしたうえで、矛盾点についてれいむに直接問いただせば、れいむがボロを出す可能性は高い。 そしてれいむが嘘をついていることを群れの皆が知れば、状況は一転するだろう。 れいむの評価は事件を告発した勇気あるゆっくりではなく、約束を破りさらには嘘をついて、まりさをハメようとしたゲスゆっくりへと転落する。 まりさたちへの誤解は解け無罪放免、おちびちゃんも戻りめでたしめでたし……。 と、いうふうにはならないのがこの問題の難しいところなのである。 何度も言うが、事はそう単純ではないのだ。 まずまりさの罪についてだが、これは代理出産で無罪か奴隷売買で有罪かの二択ではない。 第三の選択肢である代理出産でも有罪というパターンが存在する。 これはどういうことかというと、代理出産という行為=奴隷売買ではないかという考え方だ。 まりさたちの真意がどであろうと、また事前にれいむとの合意があろうがなかろうが、 まりさたちの行った、れいむに食料を渡し、そのかわりおちびちゃんを得るというのは奴隷売買に他ならないという理屈である。 もしこの解釈が適応されれば、まりさの言い分が正しいか、れいむの言い分が正しいかということはどうでもよくなる。 まりさの行った奴隷売買という大罪に比べれば、れいむがついた嘘などは、ちっぽけなものとして無視されることだろう。 これは多くのことを頭で同時に処理できないという、ゆっくり特有の理屈だ。 もはや真実はどうでもよいものとなってしまうのである。 結果として一応は何も罪を犯していないはずのまりさたちが制裁され、まりさを裏切り、また群れのみんなに嘘をついたれいむがお咎めなしという、 ゲス大勝利展開という悲劇が起こり得るのである。 さらに立ちはだかる障害がもう一つある。 それは、まりさたちが、代理出産を行うにいたった経緯の問題だ。 真相を究明しようとして、長ぱちゅりーが群れの皆に自分の考えを聞かせる場合、 前提として、ありすが不能ゆっくりであり、それゆえおちびちゃんがどうしても欲しかったという背景を説明しなければならない。 それを説明しないことには、まりさの不審な行動を皆に合理的に説明することは不可能だからだ。 しかしそれを説明するということは、当然不能ゆっくりの原因が、人間によって引き起こされたということまで話が及ぶわけである。 これは長ぱちゅりーが最も恐れていた事態に相当する展開であることは言うまでもない。 いやむしろ、初期よりもずっと事態は悪化している。 なぜなら、この事件は今では群れのすべてのゆっくりたちにとっての一大関心ごとに発展しているからだ。 群れの誰もがこの事件の一挙一動に注目している。 そんな今の状況にあって『群れ始まって以来の一大事件、だがその裏には人間の影があった』なんてことになれば、反人間思想はあっという間に群れを覆うだろう。 最悪に程があるというものだ。 おまけに頭が痛い問題として幹部みょん幹部ちぇんの存在もある。 事件が起こってから一日しか経っていないのにもかかわらず、群れのすべてのゆっくりが当然のように事件のことを知っているのはいくらなんでも異常だと思っていたら、 どうやら昨日の夜から今日にかけて、幹部みょんと、幹部ちぇんが、子飼のゆっくりたちを動員し、この事件を自分たちの手柄として宣伝しまくっているらしいのだ。 どうりで、群れを伝わってる噂がやたら幹部みょんや幹部ちぇんを称える内容のはずである。 しかもどさくさに紛れて、さりげなく自分の長退陣の煽りまで入っている。 まったくいちいちやることがせこいというものだ。 だが、これで合点がいったこともある。 いちいち言うまでもなく幹部みょんと幹部ちぇんの目的は長になることであろう。 事件に対する過剰なまでの自己アピール、長である自分をないがしろにするかのうような捜査の数々、 さらには一時期は群れの長候補として名が上がっていたまりさを、証言もろくに聞かず徹底的に犯人扱い。 これらすべての行動が、それを裏付けている。 おそらく昨日の事件の際、偶然その場に居合わせた幹部みょん幹部ちぇんは、これ幸いとこの事件を最大限に利用することにしたのだろう。 まったくよけいなことをしてくれる。 おかげでさらに事件がややこしくなったじゃないか。 長ぱちゅりーとしては、はっきり言って長の地位などにはまったく執着がない。 いやむしろ、誰かほかに適任がいるのなら、さっさと代わって欲しいくらいだ。 だが、あの幹部ちぇんと幹部みょんのどちらかという選択肢は、はっきりいってあり得ない。 二匹ともバカではないが賢くもない(ゆっくりの基準なので人間からみればバカ)ゆっくりであり、とても長の器ではないのだ。 そもそもあの二匹は幹部としての資質ですら問題が多いのだ、幹部みょんはやたら乱暴者だし、幹部ちぇんはズルくてせこいことばかりする。 ではなぜそんなゆっくりが幹部をしているかというと、群れの有力者の子供(ただ古くからいるってだけで偉いって風習はどうにかならんかねこれ。名門とか死ねよ)だからだ。 あぁ、アホらしい。 まあ、長うんぬんの問題はこの際いい、重要なのはこれが事件に与える影響の方だ。 幹部二匹がこの事件の真相に気付いているかはわからない。 だがその目的ははっきりしている。 幹部みょんと幹部ちぇんの目的は、この事件を利用して自身の知名度、影響力を高めつつ、ライバル候補だったまりさを社会的に抹殺することだ。 つまり必然的にれいむ贔屓の立場にあるわけだ。 そしてもしこの状況において、実はれいむは嘘ついてました、なんてことが明らかになったらどうなるか? そんなことになれば、幹部二匹はいい恥さらしである。これはもうイメージダウンどころの話ではない。 最悪ゲスを擁護したといことで、せいっさいはないにしろ幹部の地位を追われるかもしれない。 これはプライドの高い二匹にとっては、絶対に避けたい事態である。 そうはならないためにも、幹部二匹は全力でれいむを援護することだろうことは想像に難くない。 それこそ、真相をねじ曲げるぐらいは簡単にやってのけるだろう。 現に今、まりさが犯罪者であるという雰囲気が群れ内を覆っているのは、幹部二匹が意図的に流した噂の影響も大きいのだ。 「むきゅう!これは……まりさつんでるわね……」 一通りの分析を終え、事態の深刻さに改めて長ぱちゅりーはため息をついた。 長ぱちゅりーとしては、なんとかまりさたちを助けてやりたい気持ちがあった。 それは、群れのためとはいえ、まりさたちに嘘をついたという負い目が多少なりともあるからだ。 しかしまりさを助けるための障害があまりにも多すぎるのである。 自分はおろか、れいむやまりさですら直接与り知らぬところで、さまざまな状況がれいむを有利にし、まりさを不利にしている。 あきらかに天がれいむに味方してるとしか思えない。 まるで三流以下の作家にありがちな、ゲス特有の無双状態のようだと長ぱちゅりーは思った。 「むきゅ!これはもう、まりさとありすのにひきを、このむれからついっほう、ということにするしかないかしら。 せいっさいをのぞむゆっくりもでるだろうけど、それは、だいりしゅっさんはつみではない、ということでなんとかごまかして、 ひがいをさいしょうげんにとどめるしかほうほうはなさそうね……」 この状態からのまりさたちの逆転劇は不可能、と判断した長ぱちゅりーがしばらく考えた末に出した答えは、まりさとありすの番の群れ外追放処分であった。 幹部みょん幹部ちぇんがれいむ味方に付き、自分もうかつに真実を話せない状況の今、このままいけばまりさたちを制裁しろ、という声が群れ内で膨れ上がるのは必至。 となれば、そうなる前にまりさとありすを群れから出してしまうのだ。 こうすることで、一応の体裁は保たれ、かつ、人間がありすを去勢したという件もばれることがない。 実質的に何も罪を犯していないまりさちと追放するのは心が痛むが、制裁されるよりははるかにましだろう。 れいむに対しては、嘘を見抜いていることを伝えた上で、おちびちゃんの親権を正式に与えることで黙らせることにし、 また幹部二匹についても同様に、れいむが嘘をついていたことをほのめかし、ばらされてイメージダウンされたくなかったら、あまり増長しないようにしろと釘をさすことにする。 おそらくこれが一番波風立たないベストな選択のはずだ。 「むきゅ、まるでこれじゃぱちぇがげすみたいね……」 自嘲気味につぶやく長ぱちゅりー。 仕方がないとはいえ、あまり後味がよいとは言えない結論を出さざるを得ないこの状況で、気分がよいはずもない。 何より結果敵にあのれいむの味方をしなければならないというのが気に食わない。 こんなんでいいのか?と思わなくもないが、それしか手がない以上、自分は長としてその責任を全うするまでだ。 「ふぅ、まったくこれだからおさはいやなのよ……。 さて、それじゃこのことをみんなにつたえにいかないと!」 善は急げとばかりに、長ぱちゅりーがおうちから出ようとしたその時、 「おさー!おさはいるのおおおおおおお!」 外からけたたましい声が聞こえてきた。 長ぱちゅりーはなにがとかと眉をひそめながら、おうちから顔を出す。 そこにいた声の主は、誰であろうか、あの問題のれいむだった。 「ゆゆ!おじゃまするよおさ!」 まだ入っていいとも、わるいともいってないのにお構いなしにずんずんとおうちへと入ってくるれいむ。 そんなれいむに顔をしかめる、長ぱちゅりー。 「いったいなんのようなのかしられいむ! というかあなたおちびちゃんは? いっしょじゃないの?」 怪訝に思い、訊ねる。 れいむは一匹であり、そばにはおちびちゃんの姿はなかった。 シングルマザーであるはずのれいむが、おちびちゃんを放って一匹で行動できるはずがないのだが。 「ゆふふふふ!おちびちゃんのしんぱいならむようだよ! むれのみんながひろばで、めんどうをみててくれるからね! れいむはおさと、にひきだけで、じゅうようなはなしがあるっていったら、みんなよろこんでひきうけてくれたよ! おちびちゃんはい、まむれいちばんのだいっにんきだからね! まっ、れいむのおちびちゃんなんだからそれもとうぜんだけど!」 誇らしげな表情で言うれいむ。 なるほどそういくことか、と納得した。 事件の渦中のゆっくりであるおちびちゃんが人気でないはずがない。 いまごろ、さぞ群れのみなからちやほやされていることであろう。 「ふーん!それはわかったわ! で、いったいなんのようなわけれいむ? ぱちぇはいま、とってもいそがしいのだけど!」 トゲトゲしい口調を隠そうともせず言う長ぱちゅりー。 当然だが、長ぱちゅりーはこのれいむに大していい印象を抱いているはずもない。 自然と接する態度も辛辣なものとなる。 「ゆふふふ!はなしというのは、ほかでもないあのげすまりさのことだよ! そのしょぐうについて、ていあんにきたんだよ!」 「はぁ?ていあん?なにいってるの?」 いきなりわけのわからないことを言われて呆れる長ぱちゅりー。 まりさの処遇については長であるぱちゅりーが全権を持っているのだ、 そのことに関しては群れの一ゆっくりにすぎないれいむが口をはさむようなことではない。 「ゆふふふふ!あのげすまりさはこのままだとまちがいなくせいっさいだよね! それだけのことをしたんだから、とうぜんだよね! でもね、れいむはとってもじひぶいかいゆっくりだよ! だからね、あのげすまりさにも、ちゃんすをあげようとおもうんだ! なにより、あんなげすでも、おちびちゃんのかたおやであることはまちがいないからね!」 「ちょっと!ちょっとまちなさい! いったいなんのはなしをしているのれいむ!」 れいむとまったく話がかみ合わず、口調が強くなる。 だがれいむはお構いなしに話を続ける。 「そこでかんがえたんだけど、あのげすまりさには、このれいむとおちびちゃんのしょくりょうを、いっしょうめんどうみさせてあげるぎむをかすことにしようとおもうんだ! こうすれば、つみをつぐないながらも、おちびちゃんとれいむのために、せいっさいされずにいきのこることができるんだよ! ゆふふふふ!いいあんでしょ! さぁ、わかったら、はやくこのけいをむれのみんなにはっぴょうしてね! れいむも、おちびちゃんも、とってもおなかをすかせてるんだよ!まりさには、きょうからでもはたらいてもらわないとね! ああ、それとありすのことな……」 「いいかげんにしなさい!」 れいむの言葉を遮るように、長ぱちゅりーの声が響く。 「ゆっ、ゆゆゆゆ?」 「ふん、いったいなにをいいだすかとおもえば、あきれたげすゆっくりね、れいむは!」 「ゆなっ、なんてこというのおおおおおおおおおおおお! いくらおさでもいっていいことと、わるいことがあるよ!あやまってね!れいむにあやまれええええ!」 「はっ!」 突然ゲス呼ばわりされ、顔を真っ赤にするれいむを見下した目で見る長ぱちゅりー。 「げすにたいして、げすといってなにがわるいのかしら! それと、おあいにくさま!まりさたちのしょぶんついては、もうきめてあるわ!せいっさいはなしよ!あのにひきにはむれをでていってもらうわ! そもそも、これはあなたがくちだしするようなもんだじゃないのよ!ひっこんでなさい! だいたい、なに?『れいむとおちびちゃんのしょくりょうを、いっしょうめんどうみさせてあげるぎむをかすことにした』って! それって、つまりまりさをどれいか、するってことじゃない! あれだけ、おちびちゃんをどれいにされそうになった、ってさわいでたちょうほんにんが、ほかのゆっくりをどれいにしたいなんて、おわらいね! しってのとおり、むれでのゆっくりのどれいかは、じゅうざいよ! あなた、そんなにせいっさいされたいのかしら?」 「ちっ、ちがうよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!これは、れいっがいだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! これはせいっとうなけんりだよ!とうっぜんのことなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおお! まりさは、げすゆっくりなんだよおおおおおおお!これくらいのつみは、あたりまえのことでしょうがあああああああ!」 「なにが、せいっとうなけんりよ、あんたみたいなげすのかんがえは、おみとおしよ! いま、かんぜんにりかいしたわ!あんたがまりさをうらぎったしんのもくてきは、これだったわけね!」 長ぱちゅりーは確信した。 さっきまでは九割方の推測だったのが、このれいむを見て十割の事実に確定した。 このれいむは間違いなくゲスだ。 それもかなり悪質なでいぶタイプのゲスに違いない。 長ぱちゅりーの推測では恐らく、このゲスれいむの真の目的は事件の後、まりさを奴隷化し、自分とおちびちゃんに対する安定した食料の供給源とすることにあったのだ。 事件の罪とおちびちゃんを盾に取り、延々とまりさに食料を貢がせ続けるのが本当の狙いだったのである。 そのためにまりさを裏切り、さらには虚偽の罪まで押しつけて、ゲスゆっくりに仕立て上げた。 まったく吐き気がする悪党ぶりだ。 「ゆぐうっ!ゆっ、ゆへへへへへへ! うらぎったとか、なっ、なんのことかなー! れ、れいむはひがいしゃなんだよ!かわいそうなんだよ!あんまりふざけたこといってるとおこるよー!」 長ぱちゅりーの言葉に明らかに動揺しているものの、なんとか平然と振る舞おうとするれいむ。 しかしその目は不自然に宙を泳ぎ、また体中から脂汗が噴き出している。 誰がどう見ても不審な態度だった。 そんなれいむに長ぱちゅりーはとどめをの言葉を突き刺す。 「どうやらりかいできていないようね! あんたがむれのみんなにはなした、れいぷだの、おちびちゃんをうれとかのはなしは、ぜんぶうそっぱちよ! そうやって、まりさをはめて、あまいしるをすおうとしてることはおみとおしだって、いってんのよ!」 「ゆぐっ!」 長ぱちゅりーの言葉に、ビクッと身を震わせるれいむ。 そして次の瞬間、 「ゆぐあああああああああああああああああああ!ふざけるなあああああああああああああああああああああああ! したてにでてれば、ちょうしにのってえええええええええええ!なんなんだよおおおおおおおおおおおおおお! だいたい、しょうこはあるの!しょうこはあああああああああああああああああああああ! れいむがまりさをだましたってしょうこはさああああああああああああああああああ! おら、だせよおおおおおおお!だしてみろよおおおおおおおおおおお! ないでしょうがああああああああああ!へんないいがかりはよしてねええええええええええええええ! れいむはひがいしゃなんだよおおおおおおおおおおおおお!やさしくしなくちゃいけないんだよおおおおおおおおおお! さっさと、れいむのいうことをきけばいいんだよおおおおおおおおおおお! このくそげろぱちゅりーがあああああああああああああああああああ!」 れいむは爆発した。 ついにそのゲスな本性をさらけだしたのだ。 その突然の豹変に、一瞬たじろぐ長ぱちゅりー。 「くっ、たしかにしょうこはないわ、でも……」 「でもってなんだ!でもってえええええええええええええ! しょうこもないのに、でいぶをはんにんあつかいかああああああああああああ! げすはどっちだあああああああああああああああ! そっちがそのきなら、こっちにもかんがえがあるぞおおおおおおおおおおおお! おぼえてろおおおおおおおおおおお!」 それだけ言い終えると、バッとれいむは身をひるがえし、長ぱちゅりーのおうちを凄い勢いで出て行った。 後にはあっけに取られた長ぱちゅりーがポカンとした表情で残されるのみである。 「にっ、にげたの?なっ、なんのかしらあれは!いったいどうするつもり?」 突然やってきて、そして突然帰って行ったれいむに戸惑いを隠せない長ぱちゅりー。 一体れいむは何をする気なのか? 単純に考えれば、自分のたくらみが暴かれ、逆上したものの、打つ手がないために捨て台詞をはいて逃げたようにも見えるが、 しかしれいむの「こっちにも考えがある」という捨て台詞には、単なる負け惜しみとは思えないなにか不気味なものを長ぱちゅりーは感じた。 いや、しかし慌てることはないはずだ。 ただの群れの一ゆっくりにすぎないれいむに、何かができるというのだ。 自分はさっき決めたまりさたちの刑を、ただ群れの皆に伝えればいいだけのことだ。 それで今回の件は決着がつくはずなのだ。 そうだ、それですべてが終わるはずなのだ。 そう思いなおすと、長ぱちゅりーは、群れの皆に自身の判断を発表しに行ったのであった。 、 そして次の日。 「ゆゆ!きいたきいた?あのじけんのこと!」 「ゆー!きいたよ!なんだかへんなことになってきたね!」 「おさのはんだんはおかしいよね!まりさたちをかばってるとしかおもえないよ!」 「まったくそのとおりね!れいむがかわいそうだわ!」 「そのてん、かんぶみょん、かんぶちぇんのはんだんはしっかりしてるわよね!」 「ゆふふふ!これはがぜんおもしろくなってきたのぜ!」 今日も今日とて、群れ内は例の事件の話題でもちきりだった。 事件について、様々な憶測や噂を口にするゆっくりたち。 その内容は以下のようなものであった。 事件の続報である。 かねてから話題になっているまりさ容疑者による奴隷売買事件にその後大きな進展があったようだ。 さて、この事件はすでに幹部みょん、幹部ちぇん、被害者れいむらの活躍によって一応の解決を見せており、 容疑者まりさの有罪についてはもはや議論の余地はないのだが、肝心の刑罰の行方について、物議を醸しだしている。 昨日の夕方ごろ、長ぱちゅりーにより正式にまりさ容疑者およびありす容疑者の刑についての発表がなされた。 群れのゆっくりたちの間では、まりさ容疑者たちの刑はその罪の重さから考えて、当然極刑であるせいっさいが予想されており、 なかでも群れの皆の前でじわじわなぶり殺しにされる、公開せいっさいを求める声が多かった。 しかしである。 長ぱちゅりーによる刑の発表はなんと、まりさ容疑者たちの群れ追放のみという意味不明のものであった。 この発表の直後、広場は大いにどよめいたという。 中には、こんな刑では軽すぎる!せいっさいしろ!とか、いったいどういうわけでこんな結論になったのか説明しろ!などの声も上がったが、 長ぱちゅりーはそれらの声を完全に無視。 とにかく刑は決まった、これ以上事件について蒸し返すような話はするなの一点張りである。 これには群れの善良なゆっくりたちといえど納得がいくはずもなく、不満の声が出るのも無理はない。 しかし、長ぱちゅりーは発表を終えると、もう話すことは何もないといった様子で、逃げるようにそそくさと広場を後にしてしまったのだ。 困惑の形で広場に取り残される群れのゆっくりたち。 いったいなぜ、善良な群れのゆっくりたちが、こんなにもゆっくりできない思いをしなければならないのか。 そんな状況の中、長ぱちゅりーと入れ違える形で颯爽と現れたのが、我らがヒーロー幹部みょん幹部ちぇん、そして被害者れいむだった。 被害者れいむはまず群れの皆にこう言った。 自分は長ぱちゅいーの判決に納得していないと。 その言葉にうなずく群れの面々。 部外者である自分たちですら、あの判決には不信をつのらせているのだ。 当事者であるれいむが納得するはずもあるまい、というわけである。 その上で、被害者れいむは自身が望むまりさ容疑者たちの刑について語ったのだ。 当然、観衆のゆっくりたちは、被害者れいむはまりさたちのせいっさいを望むだろう期待していた。 だが、意外や意外。 れいむが口にしたのは、まりさ容疑者たちのせいっさいではなかった。 れいむが語った内容は、まりさを生かし、おちびちゃんのために働かせるというものだったのである。 これには群れのゆっくりたちは仰天し、長ぱちゅりーの発表の時と同じように広場はざわめいた。 なんでせいっさいじゃないんだ!あれだけのことをまりさにされて、くやしくないのか! 被害者れいむに向かって納得できない、といった言葉が飛ぶ。 だが被害者れいむは、刑の理由についてこう語った。 あんなゲスゆっくりであっても、おちびちゃんの親であることは変わりない。 それを殺してしまうのは、いかがなものか?ということである。 大切なのは、自身の恨みを晴らすことではない。 生まれてきたおちびちゃんのことを第一に考えるべきなのだ、と。 この被害者れいむの言葉によって、広場は感動の渦に包まれた。 れいむの慈悲深さに、憎しみにとらわれない崇高な精神に、そしてそのあふれ出る母性に。 さらにたたみかけるように幹部みょん幹部ちぇんの二匹は、全面的にこのれいむの主張を支持することをその場で発表し、長ぱちゅりーとの対決姿勢を明らかにしたのである。 この発表に広場のゆっくりたちは大いに沸いた。 なぜなら今発表された被害者れいむの刑が、現実のものとなる可能性が出てきたからだ。 通常、一ゆっくりに過ぎない被害者れいむが、どれだけ叫んだところで、長の決定は覆らない。 だが、被害者れいむの意見に、幹部が二匹も賛同しているとなれば話は別である。 いかに長といえど、これは無視できない。 ましてや、その意見が、群れの皆の支持を得ている正論となればなおさらなのである。 また、れいむの意見が通るということは、長の判断が間違っていたということを意味する。 これは必然的に長ぱちゅりーの退陣が求められ、被害者れいむを支持した幹部みょん幹部ちぇんのどちらかが長になるということを意味しているのである。 こうして、まりさ容疑者のゲス行為から始まった一連の事件は、群れの長の座をかけた権力闘争へと発展の様相を見せており、 ますます目が離せない状況となっている。 以上、群れの噂から抜粋。 所変わって長ぱちゅりーのおうち。 「むっきゅー!あのくそげすれいむ!なんてことを!」 群れのゆっくりたちが、昨日の出来事の噂で盛り上がっている頃、長ぱちゅりーおうちで頭を悩ませていた。 もちろん、その原因はあのゲスれいむのことである。 正直あのゲスれいむにしてやられた感は否めなかった。 まりさの刑さえ、正式に決定してしまえばこれ以上荒れたり、ややこしいことにはならないと思っていたが、 まさかこんなことになってしまうとは。 読み誤っていた。 あのれいむのゲスさ加減を。 あいつは、ことゲス行為にかけては自分以上にキレるかもしれない。 単なる怠け者と、甘くみていた結果がこれだ。 そして、幹部みょん、幹部ちぇんのことにしてもそうだ。 まさかここまであからさまに自分に対して全面戦争を仕掛けてくるとは完全に予想外だ。 もはや、幹部ちぇん、幹部みょん、そしてゲスれいむの三匹は、完全に共闘状態にあると見ていいだろう。 長の地位欲しさに、ゲスに手を貸すとは、あの二匹がここまで愚かだったとは。 それにしても、いったいいつの間に手を組んだのか? 普段の仕事はさぼってばかりでまったくやらないくせに、こういうことのかけては異様に行動が素早い。 まったく救いがたいったらありゃしない。 自分たちがやっている行動がどういう結果をもたらすのか全くわかっていないのだ。 とはいえ、あの三匹が行っている戦法は、癪だが実にいい案だ。 まず意図的な噂の流布。 どうやら相変わらず子飼いのゆっくりを動員し、偏った内容の噂を群れ中にまき散らしているようである。 この噂によれば、もはやまりさが有罪かどうかは確定したものとして隅におかれ、刑の行方についてのみ重点的に語られている。 つまり事件の論点を刑の行方のみに絞っているのだ。 これは上手い手だった。 このことによってゲスれいむ最大の弱みである、嘘をついたという事実を完全に過去の物にしてしまっているのだ。 とりあえずまりさが有罪ということを確定させておけば、自身の弱みに対して突っ込まれることはなく、 安全な立場から、好き放題事件に大して言及できるというわけだ。 そして、自分の主張を群れのゆっくりたちに演説するタイミングも絶妙。 ちょうど自分が群れのみんなにまりさたちの刑を発表後、皆の不満が高まっているところを見計らっての登場。 悲劇の被害者という自らの立場を最大限に利用した演説内容。 さらには、幹部の賛同という権力の後押し。 全てが完璧であった。 おかげで今や群れは完全にれいむムードだ。 このままでは、自分が下したまりさたちの追放刑を撤回し、れいむの主張しているまりさをおちびちゃんのために働かせるという刑(その本質は奴隷刑だがそのことに気付いているゆっくりはいない) を執行しろという気運が群れの内で高まるのは目に見えている。 最悪、現長であるぱちゅりーを無理やり退陣させて……という展開すらあり得る状況だ。 前にも考えたことだが、長ぱちゅりーとしては、長の地位などちっとも惜しくはない。 だがこの状況はだめだ。 今自分が、れいむたちの思惑通りに退陣するわけにはいかない。 それはすなわち、群れの崩壊に繋がりかねないのだ。 となれば、やることは決まっている。 「むきゅ!あのばかなみょんと、ちぇんにきっちりとはなしをつけにいかないとね!」 今長ぱちゅりーができる最善手は、れいむと幹部二匹の繋がりを断つことだった。 こうすれば、れいむは後ろ盾を失いれいむが主要している馬鹿げた提案は絵空事ととなる。 「むきゅ!そうときまればこうしちゃいられないわ!さっさとあのにひきにあわないと!」 今度ばかりは後手に回るわけにはいかないと、長ぱちゅりーは急いで二匹の幹部を探しにおうちを飛び出したのであった。 その頃、群れ内の某所。 「わかるよー!むれのれんちゅうのはんのうはじょうじょうなんだねー!」 「みょん!けいかくどうりだみょん!」 群れのはずれにある小さな洞窟で、二匹のゆっくりがコソコソと何事かを話し合っている。 幹部みょんと幹部ちぇんであった。 二匹は今、とある計画についての最終確認を行っていた。 その計画とは、もちろん例のまりさの事件のことである。 「わかるよー!このままいけば、むれのれんちゅうが、ぱちゅりーにおさをやめろといいだすのは、じかんのもんだいなんだねー!」 「みょん!」 幹部ちぇんが上機嫌に言い放つ。 たしかにその言葉の通り、計画は怖いくらいに順調だった。 このままいけば、遠からずその目的は達成されるであろうことは間違いない。 だが……。 「みょん、これでほんとうによかったのかみょん……」 ぼそりと幹部みょんは呟いた。 「ゆゆ!わっからないよー!いまさらびびってるのー!」 弱気なセリフを吐いた幹部みょんをバカにするように幹部ちぇんが言う。 「ゆがぁ!ふざけるんじゃないみょん!べつにびびってるわけじゃないみょん!」 揶揄するちぇんに、ぶっきらぼうに応える幹部みょん! だが言葉とは裏腹に、その態度にはどうにも落ち着きがない。 あるいはわざと大声を出して、虚勢をはっているようにも見えた。 そう、実は幹部みょんの内心では、不安な気持ちがヘドロのように堆積していた。 なんというか、どうにも事件が大きくなりすぎている気がするのだ。 そもそも自分はここまで大事は望んでいなかった。 あの時はこんなことになるとは思ってなかったのだ。 そう、あの時は。 それは数日前の話である。 幹部みょんは、いつものように狩りを終えると、群れの広場でだらだらとゆっくりしていた。 だが正直言ってその日の気分はあまりいいものではなかった。 幹部みょんには悩みがあったのだ。それは言うまでもなく次期長のことだ。 一体いつになったら、自分は長になれるのか?何度長ぱちゅりーにそのことを進言しても、まだ早いといった返事ばかり。 しかもそれだけならまだしも、一時期は幹部でもなんでもないただのまりさが、その候補にあげられるといった始末。 親族の連中もさっさと長になれと皮肉を言ってくるし、ここのところゆっくりできないことばかりだ。 その上もしライバルの幹部ちぇんに出し抜かれ、自分を差し置いて長になんかなられた日には……。 考えただけでもゆっくりできない。憂鬱な気分にもなろうというものだ。 「まったくいいかげんにしてほしいみょん!」 誰にともなく愚痴をいう幹部みょん。 その時である。 なにやら広場の中央から、やかましい声が聞こえてきた。 「ん?」 目線を向けると、どうやら一匹のれいむが群れのゆっくりたちに何やら訴えているらしい。 助けてだの、レイプだのといった声が聞こえてくる。 しかしそれらの言葉が特段幹部みょんの関心を引くことはなかった。 勝手にやってくれ、そのうち誰かが何とかするだろう。 面倒はごめんだ、こういうことは適当に見て見ぬふりをするにかぎる。 そう思っていた。 ところがである。 思いもよらないことが起こり、状況が一変した。 そこに一匹のまりさが現れたからだ。 なんとその場に現れて、れいむに犯人扱いされているのは、あの長候補でもあったまりさだったのだ。 その現場を見た瞬間、幹部みょんはひらめいた。 ひょっとしてこれはチャンスなのではないか? 今の時点では、れいむとまりさのどちらかが悪者かは定かではない。 だが両者の間に不穏な空気が漂っているのは事実だ。 ここで颯爽と自分が登場し、この喧嘩を仲裁すれば群れからの評価が上がり、さらにどんな事情であれもめ事を起こしたまりさは失点となる。 これで長の座に一歩近づけるかもしれない。 そう思ったみょんは、既に行動を開始していた。 「ちょっとまったみょん!」 間一髪のところで、まりさとれいむの間に割り込むことに成功した幹部みょん。 決まった!完璧だ!やったぁ!かっこいい! これで、群れのゆっくりたちの評価はうなぎのぼりに違いない。 だが、そう思っていると予想外の事が起こった。 ある意味ではこの場で一番聞きたくない声が聞こえてきたのだ。 「わかるよー! じゃあこのたいりょうのしょくりょうはどうせつめいするのー!」 幹部ちぇんだった。 なんとライバルである幹部ちぇんが、この場に割り込んできたのだ。 しかも自分が仲裁したこの争いに、追い打ちをかける方向で。 瞬間、カッと頭に血が上った。 ふざけやがって!これは自分の手柄だぞ!それなのに後からのこのこやってきて、なにドヤ顔してやがんだ! 「ほら!こっちへくるみょん!」 「ゆぎぃ!」 これ以上幹部ちぇんを目立たせるわけにはいかない。 そう思った幹部みょんは、強引にまりさの髪をつかみ引っ張っていく。 容疑者を連行するという目立つ役目は絶対に自分がしなければならない。 今の時点では100%まりさが犯人と決まったわけではないが、なに構うものか。 周囲の様子は完全にまりさが犯人の扱いなのだ、そんな中弱気な態度を見せるわけにはいかない。 これは自分の手柄なのだから。 「わかるよー!このしょくりょうは、ぼっしゅうだよー!」 しかしその矢先、今度は幹部ちぇんがまりさの持っていた食料を証拠だといって没収する。 またも自分の存在をアピールする売名行為に、幹部みょんの怒りのゲーシはどんどん溜まっていく。 それならば自分は……。 こうして幹部みょんと幹部ちぇんによる、まりさの粗捜しが始まった。 幹部みょんとしては、始めはここまで徹底的にやるつもりはなく、ちょっとしたポイント稼ぎのつもりだったのだが、 幹部ちぇんがやってきた以上後には絶対に引けなくなってしまったのだ。 そして多分幹部ちぇんも同じように考えていたのだろう。 二匹は競うように、まりさが犯人である証拠(そのほとんどは言いがかりだったり、捏造だったりしたものだった)を提示し合あった。 そしてその過程で、初めは半信半疑であったまりさの犯人説をいつのまにか盲目的に自分でも信じるようになっていた。 幹部みょんにとっては、もはやまりさが犯人だということは疑う余地のない決定事項だったのだ。 しかしそんな状況が一変する出来事が起こった。 あれは昨日の夕方頃のことである。 事件も一段落し、いつものように、幹部ちぇんと口喧嘩(そのときの内容は、どちらがこの事件でより多くの手柄を立てたかというものだった)で争っているところに、あの被害者れいむがやってきたのだ。 「ゆがあああああああああ!にひきとも、なにくだらないことやってるのおおおおおおお! たいへんなんだよおおおおおお!いちだいじなんだよおおおおおお!」 「は?」 「みょん?」 突然やってきたと思ったら、いきなり大声でわけのわからないことをのたまうれいむに、 さっきまでケンカしてたことも忘れ、思わず顔を見合わせる幹部みょんと幹部ちぇん。 「あのげろぱちゅりーは、まりさたちを、むれからついほうしようとしてるんだよおおおおおおお! そんなことゆるされないよおおおおおお!あのまりさは、れい……じゃなくて、おちびちゃんのためにはたらかせるんだああああああ! さぁにひきとも!れいむについてくるんだよ!そしてむれのみんなのまえで、このことをうったえるんだあああああ! そしてあのげろぱちゅりーに、おもいしらせてやるんだよおおおおおおおお!」 「「…………」」 やたら興奮しまくっている(なんか嫌なことでもあったのか?)れいむを尻目に、何ともいえない表情で黙りこむ幹部みょんと幹部ちぇん。 なんというか、どうコメントしていいか、悩む内容だった。 どうやら長ぱちゅりーはまりさたちの刑を、群れからの追放としたらしく(せいっさいじゃないのは意外だった)それを不満に思ったれいむが自分たちに、 力をかせと訴えているらしいが、それはお門違いだと幹部みょんは思った。 確かに自分らは、事件中一貫してれいむを擁護する立場をとっていた。 だがそれは決してれいむのためでなく、自分自身の利益のためなのだ。 決してれいむの味方というわけではない。 「わっからないよー!どうしてちぇんたちが、れいむのいうこときかなきゃいけないわけー! かんちがいしちゃこまるよー! ちぇんとれいむは、なんのかんけいもないんだよー! なにかやりたいことがあるんあら、ひとりでかってにやってねー!ちぇんはかんけいないよー!」 幹部ちぇんも同じ考えだったようで、きっぱりとれいむに協力できないと言い放つ。 そりゃそうだ、もはや事件は一応の落ち着きを見せいている。 これ以上引っ掻き回すのは得策とは言えない。 そもそも自分は、長候補でもあったまりさの社会的抹殺という目的は十分に果たしている。 それなのに、れいむの味方をして長ぱちゅりーと対立するなど、リスク以外なにものでもないし、そんな義理もない。 「みょん!どうやられいむは、みょんたちがれいむのみかただとおもっているようだけど、それはちがうみょん! ただ、むれのかんぶとして、じけんのはんにんをつかまえた!それだけのことだみょん! さあ、わかったらさっさとかえるみょん!みょんたちはいそがしいみょん!」 幹部みょんは、これいじょうここでれいむに騒がれても面倒なので、さっさと帰るように促した。 「そうだよー!」 これに便乗するちぇん。 忌々しいが、珍しく意見が一致したようである。 だがれいむはプルプルと小刻みに体を震わせると、突然クワッと目を見開き、すさまじい大声で叫びだした 「ゆがああああああああああああああああああ!どいつもこいつもおおおおおおおおおおおおおおお!」 「みょ、みょん!」 「なんなんだみょん!」 あまりのことに驚く二匹。 このれいむ、事件の時からあんまり上等なゆっくりじゃないと薄々思っていたが、やっぱりちょっとおかしいんじゃないか? そんなことを幹部みょんが考えていると、れいむは何を思ったが今度は一転してニヤニヤと不気味に笑い出す。 「はぁはぁ!ゆふふふふ!いいのかなー!いいのかなー!このれいむに、かえれなんていっちゃっていいのかなー! そーんなことして、こまるのは、おまえらのほうなんじゃないかなー!ゆふふふ!」 突然叫びだしたと思ったら今度は笑い出す。 いくらなんでも情緒不安定すぎである。 「わっ、わからないよー!くだらないことごちゃごちゃいってないで、さっさとかえってねー! べつにちぇんは、れいむがいなくなったところでぜんぜんこまらないんだよー!」 「そうだみょん!そうだみょん!さっさときえるみょん!」 あまりの不気味さに帰れ帰れと促す二匹だが、れいむは余裕顔である。 そしてれいむは、二匹にとって、あまりに不都合な真実を語りだしたのだ。 「じつはさぁ!ここだけのはなしぃ!れいむがれいぷされたりぃ!まりさにおちびちゃんをうれっていわれたのはぁ!ぜんぶうそなんだよおおおおお! ゆっふっふっふっふっ!ごべんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!」 「「…………は?」」 突然のカミングアウトに目が点になる幹部みょんと幹部ちぇん。 何だ!なんだって!うそ?じゃあまりさは?いままでのことは?というかなんなんだこれは! うそって、意味が分からないぞ! れいむの言ったことを即座に理解できず、混乱状態に陥る。 だがそんな幹部みょんを尻目に、なおもれいむの話は続く。 「ゆふふふふ!そうなんだよー!ぜぇーんぶれいむのうそでしたぁぁぁぁぁぁ!ざぁんねぇええええええん! ゆっふー!びっくりしたぁー! それでねぇー!もしー!こーんなことが、むれのみんなにばれちゃったらどーなるかなー! むれのかんぶともあろうものが、うそつきのみかたをして、まりさをおとしめたということがばれたらどうなるかなー! みんなおこるんじゃないかなー! これは、せいっさいもありえるかもねええええええええええ!」 「みょ、みょん!」 思わずビクリと体を震わせてしまう。 なんて、なんてことだ! もし今れいむがいったことが本当で、それが群れのみんなに知られることになんてなったら、一大事だ。 事件を解決したヒーローが、一転して冤罪を生み出した無能幹部ということになってしまう。 そうなれば一気に針のむしろだ!やばい! 「わっ、わがらないよおおおおおおおおおおおおおおお! うそだ!そんなはなしうそにきまってるんだよおおおおおおおおおお! いや、かりに、ほんとだったとしても、いまさらそんなはなしだれもしんじないんだよおおおおおお! はんにんは、あのまりさなんだよー!これはもうけっていじこうなんだよおおおおおおおお!」 れいむの言葉を受けて、吐き出すように幹部ちぇんが言い、そこでふと気づく。 そうだ!その通りじゃないか! 仮に今れいむが言ったように、れいむの主張が嘘まみれだったとしても、もはや事件の大勢はまりさが犯人ということで確定している。 いまさらどんなことがあったとしても、この状況は覆らない。 大丈夫だ!大丈夫なはずだ! 「そのとおりだみょん!いまさらおまえがなにをいってもむだだみょん!」 そうであると確信しているというよりは、そうであって欲しいと願うように様に言う。 だがそんな淡い希望はれいむの次の言葉であっさりと打ち砕かれる。 「だっから!そうもいかないからこまってるんだろうがああああああああ! あのくそげろぱちゅりーは!なぜか、れいむがうそをついてることを、みぬいてるんよおおおおおおおお! れいむがやったことが、ぜんぶばれてるんだよおおおおおおおおおおおおお!」 「「…………」」 沈黙。 何も言えなかった。 言えるはずもない。 終わった。 すべてが終わった。 長への夢も。 いや、それどころか、自分のゆん生も。 あの賢い長ぱちゅりーが、すべての真実を知っているというのなら、このままで済むはずもない。 「ゆっふっふー!ようやくじぶんのおかれてるたちばが分かったようだね!」 落ち込む幹部二匹を見て、してやったりという表情のれいむ。 だがそんなれいむに幹部ちぇんがかみつく。 「なによゆうぶってるんだよー! おまえだって、うそがみんなにばれたらただじゃすまないんだよー! そもそもおまえが、こんなうそつかなきゃこんなことにはならなかったんだよー! どうしてくれるんだ!せきにんとってよー!」 「ゆっふっふー!もちろんだよぉ! だからいったでしょ! れいむにきょうりょくしろってさぁ!」 「わっ、わからないよー!」 困惑する幹部ちぇん。 そしてそれは幹部みょんにしても同じだった。 一体この絶望的な状況からどうするというのだ。 「ゆふん!それじゃあはなすよ!このれいむの、かんっぺきなけいかくをさぁぁぁぁ!」 ………………。 …………。 ……。 こうして三匹は運命共同体となった。 その目的は、長ぱちゅりーの長の地位失墜にある。 三匹が連携して立ち回ることにより、この問題をまりさの件から、長の権力争いへとすり替えるのだ。 議論がまりさ事件のみの場合、長ぱちゅりーが真実を知っているというのは、致命的なアキレス腱となるが、 事が、群れの長の問題となれば、長ぱちゅりーは中立な判断を下す立場から、事件の当事者と立ち位置が変わってくる。 その状況では、仮に長ぱちゅりーがれいむたちに対して嘘だと言い放ったところで、 それは自分が長の地位を脅かされているから、嘘を言っているのだと言うことで、苦しいが言い逃れることが一応可能なのだ。 そして目論見通り、長ぱちゅりーが引退に追い込まれ、幹部ちぇんか幹部みょんが長の地位に納まれば、 後のことはどうとでもなるというわけだ。 そして今現在、作戦は極めて順調だった。 れいむの演説は、大成功に終わり、群れのゆっくりたちの反応は上々。 意図的に流した噂の効果も相まって、群れではすっかりれいむムード一色である。 もし仮に今の状況で長ぱちゅりーが、れいむことを嘘つき呼ばわり(実際に嘘つきなのだが)したとしても、 証拠がない以上、それは、長の地位を追い詰められた長ぱちゅりーが、苦し紛れにれいむ陣営をネガキャンしているようにしか映らないだろう。 群れのゆっくりたちからは、冷ややかな目線で見られるのがおちだ。 真実は真実としての力を発揮できないのだ。 つまり長ぱちゅりーに打つ手はない。 全てこちらの思惑通り。 なのになぜだろう。 幹部みょんは漠然とした不安を感じずにはいられなかった。 このままでは取り返しのつかないような……。 いや、今の時点でもう十分取り返しのつかない事態になっているのだ。 これ以上最悪なんてことはもうあるまい。 だとすれば突き進むしかない。 自分の道はもはやこれしかないのだから。 そう、幹部みょんが決意を新たにしていた時、 「むきゅ!みつけたわよ!にひきとも!」 長ぱちゅりーがやってきたのであった。 「みょん!?」 「ゆっ、ゆわわわ!」 驚愕の声を上げる二匹。 それも当然だ。 二匹でコソコソと秘密の洞窟でこれからのことを相談してたら、その相談内容の張本人である 長ぱちゅりーが洞窟の入り口に現れたのだ。 幹部みょんは、一瞬これは何の冗談だと思った。 「わからないよー!なんでおさがここに!」 驚きがそのまま口に出る幹部ちぇん。 それに対してバカにしたように長ぱちゅりーは言う。 「ふん!あんたらにひきは、こゆっくりのときから、なにかわるだくみをするときは、いつもこのばしょでこそこそとそうだんしてたでしょ! だからもしやとおもってきてみれば、あんのじょうというわけ! まったくこゆっくりのときから、まるでせいちょうしてないわね!」 「ぐぬぬぬぬ!」 「わっ、わからないよー!」 思わずうめいてしまう。 言われてみればそうだった、自分たちは何か困ったことがあると大抵この洞窟でひそかに相談をする。 子ゆっくりのときからの習慣みたいなものだった。 長ぱちゅりーからしてみれば、そんなことはお見通しだったというわけだ。 「れいむは……いないようね! こうつごうだわ!」 きょろきょろと周りを確認しながら、長ぱちゅりーが言う。 「じゃあ、さっそくようけんにはいるけど、 あなたち、れいむのいけんをしじするなんて、ばかなまねはやめなさい いまならまだ、ぎりぎりとりかえしがつくわよ! むれのみんなのまえで、れいむへのさんどうを、てっかいするのよ!わかったわね!」 強い口調で命令するように長ぱちゅりーは言う。 いや、実際にこれは命令のようなものなのだろう。 幹部に対しての長の命令。 本来の立場なら、逆らうことなどあり得ない。 だが、今は平時ではない。 「わっ、わからないよー!そんなことできるわけないよー! おさは、じぶんのちいがあぶなくなったからって、そんなめちゃくちゃいうなんて、ずるいよー!」 幹部ちぇんが、ややたじろぎながらも言い返す。 あくまで、自分らは正当な理由に則っての行為だという立場を崩さない。 だがそんな幹部ちぇんを、長ぱちゅりーはジロリと睨みつける。 「ひっ!」 「あんたねぇ!ぱちぇがきづいてないとでもおもってるの? れいむとくんでるんでしょ! おさのちいほしさに、げすとくむなんて!このはじしらずが!」 完全に軽蔑しきった態度で長ぱちゅりーが言う。 「それは……その……」 「もっというとねぇ!このままいくとむしろやばいのは、あんたらのほうなのよ? それがりかいできてるの?」 「ど、どういことだみょん!」 思わず訊ねてしまう。 「わっ、わかるよー!はったりだよー! じぶんがまけそうだからって、つよがりいってるんだよー! みみをかすんじゃないよー!」 慌てて幹部ちぇんが会話に割り込む。 何も聞きたくないといった風にぶんぶんと首を振っている。 やはり、幹部ちぇんも自分と同じように、何か漠然とした不安を感じているのだろう。 だから、それを増長させるような、長ぱちゅりーの話は聞きたくないのだ。 それに対して長ぱちゅりーは、はぁと呆れたよういに息を吐き、 「あんたたち、ほんとなんにもわかってないのねぇ!」 と言った。 「いいわ!おしえてあげる!このじょうたいのままですすんだばあいの、あんたらのみじめなみらいをね!」 「なっ、なんだっていいうんだよー!」 長ぱちゅりーの断言口調に、もはや幹部ちぇんは半泣き状態だった。 「まずあんたらのたくらみどおり、むれないで、れいむをしじし、ぱちぇのいんたいをのぞむこえがつよくなったとしましょうか。 そうなると、とうぜんぱちぇはおさをやめざるをえないわね。 いくらおさとはいえ、むれぜんたいのいこうにはさからえないわ!」 「そのとおりだみょん!」 幹部みょんは肯定の相槌を打った。 「するとどうなるかしら? あなたたちのどちらかが、おさに、ということになるのかしらね。 まあ、こんかいは、かりに、みょんがおさになったとしましょうか!」 「わがらないよー!なんでちぇんじゃなくて、みょんなんか……」 「だまってききなさい!かりにって、いったでしょう! じゃあ、いいわ! ちぇんがおさになったとするわ!そうするとどうなる?」 「みょ、みょん!どうなるって……」 言われてみて、幹部みょんは、幹部ちぇんが長になった未来を想像してみた。 幼馴染でもあり、同時に長候補でもあり、今ともに死線を潜っている幹部ちぇん。 その幹部ちぇんが自分を差し置いて、長になる。 そんなことは……。 「みょん!ゆるせないみょん!せったいにごめんだみょん!」 幹部みょんは素直な気持ちを口にした。 そう、絶対に認められない。同じように危ない橋を渡ったというのに、何で幹部みょんだけが長で、 自分は幹部のままなのか! こんな不公平認められるはずもない。 「そうね!そうなるでしょうね! これは、みょんがおさになったばあいもいっしょ! あなたたちは、どちかかいっぽうのみがおさとなることを、けっしてみとめられない! さあ、そうなるとどうでしょうね! みょん、あなたは、なんとかしてちぇんをおさのざからひきずりおろそうとするんじゃないのかしら?」 「みょ、みょん!」 そう言われて幹部みょんは、ふと気付く。 その通りだ。 もし幹部ちぇんが長になんかなれば、自分はなんとしてでもそれを妨害する行為に出るはず。 そして、自分にはそのための手段がある。 だがその手段は……。 「どうやらきづいたようね! あなたは、ちぇんのすきゃんだるをにぎっている! でもどうじにそれはじぶんのすきゃんだるでもある! しかし、あなたはそれをつかうことを、おそらくためらわない! なぜなら、ちぇんだけが、ひのめをみるのは、ひどくふこうへいだとかんじるから! そんなことになるぐらいなら、ともだおれをのぞむはず!」 「くっ!」 長ぱちゅりーに指摘され、まったくその通りだと痛感する幹部みょん。 もしいま長ぱちゅりーの言ったような状況になれば、自分は自滅覚悟で今までのことを群れのゆっくりたちに暴露するだろう。 それもきちんとした証拠と共にだ。 たとえそれが最悪の結果を招くとしてもである。 「つまりね!あんたたちどちらかのうちいっぴきがせいこうし、りえきをどくせんするためには、 おたがいによわみをしりすぎているのよ! じゃあどうするか? おたがいにころしあう? でもそれはあんまりかしこいほうほうじゃないわね! つねにいのちをねらわれるのは、あまりにもゆっくりできないし、 だいいち、さつがいにせいこうしたとしても、おさこうほのうちいっぴきがあんさつされたとなれば、 とうぜんうたがいのめは、もういっぽうのこうほにむくことになるからね! はんにんは、じぶんだといっているようなものだわ!」 ここまで言うと、長ぱちゅりーは一息入れる。 「まっ、おそらくは、にひきでおさをやる、きょうどうとうちというかたちでおちつくでしょうね! それがおもてむき、いちばんかどがたたない。 でもそれでめでたしめでたしというわけにはいかない。 むしろ、このむれにとっても、あなたたちにとっても、これがもっともさいあくのてんかい! なぜだかわかる?」 「なっ、だんでだみょん?」 「わからないよー!」 どいういうことだ? 幹部ちぇんと一緒に長をやるのは、こういう状況では最善かつ最も問題のない方法に思える。 「それはね! れいむよ!れいむのそんざいよ!」 あっ、と幹部二匹は同時に声を上げた。 「あなたたちについては、にひきでおさをやりましょう!ってかたちでけりがつくかもしれない。 でもれいむは?おさのすきゃんだるをにぎっているれいむが、このままおとなしくしているかしら? だんげんするわ! こたえはのーよ! あのれいむは、あなたたちにひきのよわみをにぎっているのをりようして、 さまざまな、むちゃをようきゅうしてくるはずよ!」 「そっ、そんなことないみょん!れいむのもくてきは、あのまりさをどれいにすることだみょん! もくてきがはたされたいじょう、そんなことするはずが……」 「あまい!」 「ゆぐぅ!」 「それはあますぎるかんがえよみょん! じっさいにあって、はなしてみて、きずかなかったの? あのれいむは、むれをおさめるうえで、もっともきをつけなかればならない、でいぶたいぷのげすよ! いっぴきのげすが、けっかとして、むれをほろぼすことになるというはなしを、むかしなんどもおしえたでしょう! でいぶたいぷのげすには、よくぼうのさいげんがないわ! そもそも、あのれいむは、はじめはまりさとのとりひきにまんぞくしていたはずなのよ! でも、それよりも、うまいはなしがあることにきづいて、あっさりまりさをうらぎった! あなたたちにしてもおなじことよ! むれをおさめているおさにたいして、きょうはくできるざいりょうがある! こんなおいしいたちばを、あのれいむがみのがすはずがないわ! いまや、れいむのもくてきは、このむれを、かげからぎゅうじることにかわっているのよ!」 「なっ、そんなことが……」 口からうめき声がにじみ出る。 そんなバカな!いくらなんでもそんなこと……。 「まったくたいしたやつよ!あのれいむは! まりさのけいを、そうきゅうにかくていさせて、ぱちぇがしんじつをみぬいていることをほのめかせば、 おとなしくなるとおもっていたら、あんたたち、ばかにひきをまきこんで、こんなさくせんにでてくるとはね! ころんでも、ただじゃおきない!まんまとぴんちをちゃんすにかえてきたわ! そしていまごろは、ぱちぇをいんたいにおいこんだあとのこともかんがえているのかもしれない! ひょっとしたら、もうすでに、じぶんをかんぶにしろ!なんてはなしも、もうでてるんじゃないの?」 「ゆぐ!」 「それは!」 思わず体がビクリと反応してしまう。 確かにその通りだった。 あのれいむとは、この作戦がうまくいった暁には、自分を幹部として取り立てるようにという約束を交わしている。 その話が出た時には、将来自分が長になるのだから、幹部の地位くらいくれてやると軽く考えていたが、 しかしそれは、れいむが群れを牛耳るという野望のための第一歩なのかもしれない。 群れの幹部となれば、専属の部下が持てる。 それを使ってガードをか固められてしまえば、れいむを暗殺するのも難しくなるだろう。 幹部みょんの体中を冷たい汗が流れる。 そうか、そういうことだったのか。 自分が感じていた不安の正体はこれだったのだ。 自分はあのれいむからドス黒い何かを無意識のうちに感じ、それに恐怖していたのだ。 「ふん!どうやら、ようやくじぶんたちのおかれたじょうきょうがりかいできたようね! あなたたち、このままいけば、いっしょう、あのれいむにこきつかわれる、ゆっくりできないまいにちよ! それでいいのかしら!」 「ち、ちぇんたちはいったいどうすればいいのー!」 弱々しい声で幹部ちぇんが長ぱちゅりーに訊ねる。 もはや幹部ちぇんには反抗する気力はない様だった。 「そうね!まずやることは、はじめにいったとおり、あのれいむへのしじひょうめいをてっかいしないさい! そうすれば、あのれいむはうしろだてをなくすことになるわ!」 「わからないよー!でもそんなことしたら、ひみつがばれて……。 それに、いったんれいむをしじすると、むれのみんなにだいだいてきにひょうめいしたいじょう、 すぐにそれをてっかいしたら、みんなからのしじが……」 幹部ちぇんがおどおどしながら、長ぱちゅりーに意見する。 「ひみつのことなら、しんぱいするひつようはないわ! れいむにしたって、ばれたらやばいのはおなじなんだから!じぶんからばらしはしないわよ! ぱちぇにしても、こんかいのけんについては、あまりおおきなさわぎにするつもりはないの! だからこそ、まりさたちは、ついほうというかたちにして、おんびんにかたづけようとしたわけ! まあ、どこかのだれかさんたちが、はでにうわさをばらまいてくれたおかげで、そうもいかなくなっちゃたけどね! それと、むれのみんなからの、しじりつていかは、もうあきらめなさい! これからあなたたちは、かんたんにいけんをひるがえす、せっそうのないゆっくりとして、みんなからけいべつされることになるとおもうけど、 それはじごうじとくというものよ!れいむにいいようにつかわえるよりは、ずっとましでしょ!」 「そっ、そんなー!わからないよー!」 泣きそうな声を上げる幹部ちぇん。 「ふん!なさけないこえあげるんじゃないわよ!みっともない! それじゃ、そういことで、みょんもいいわよね!」 「よくないみょん!」 「……あんですって!どっ、どういうことよ!」 「よくないって、いったんだみょん!」 「なっ、ちょっと!あなたいまのじょうきょうがわかっているわけ!」 長ぱちゅりーが信じられないといった面持で見つめてくる。 わかってる。 いわなくても今の状態が絶望だというのは重々承知だ。 れいむの側につけば、将来的にあのゲスれいむに弱みを握られ、ゆっくりできない毎日。 かといって、長ぱちゅりーの側につけば、群れ中のゆっくりたちから侮蔑され、長どころか幹部の座すら危ぶまれることになる。 どちらにしても最高にゆっくりできないことは確実だ。 クソッ! どうしてこうなったんだ! 始めは軽い気持ちだったんだ。 ちょっとした点数稼ぎのつもりだったんだ。 それがこんな事態になるなんて誰が予想できる! そもそも!そもそもだ! 元はといえば、長ぱちゅりーがいけないんじゃないか。 さっさと自分を長に指名しないから!そればかりか、あのまりさなんかを長候補として持ち上げるから! だからこんなことになったんだ。 だというに、まるで自分たちが悪いみたいなこの扱い! ふざけやがって! そもそも長ぱちゅりーの策を行った場合、ダメージを受けるのは結局自分たちだけじゃないか。 自分が元凶のくせに、被害を全く受けないなんて、そんなバカげた話があるか! だいたい、長ぱちゅりーは本当に群れのことを思って行動しているのだろうか? 結局のところ単に長の地位を奪われたくないだけではないのか? そのために自分らを群れから抹殺しようとしているのでは? そうだ!そうに違いない! 長ぱちゅりーは始めからそいういう腹積もりだったのだ。 だってそうでも考えなければおかしいのだ! なぜ長ぱちゅりーはれいむの嘘を看破していたのにもかかわらず、そのことを早急に群れのみんなに発表しなかったのだ? 自分と幹部みょんが、あのクソれいむと組まざるを得なかったのは、れいむの嘘が長ぱちゅりーにばれているということを知ったからだ。 だから問題を群れの長の問題にすり替えようという策をとるため、早急に同盟を組む必要があった。 だが、いつまでたっても、長ぱちゅりーは真実を発表しようとしなかった。 なぜだろうか? その理由は一つしかない。 長ぱちゅりーはきっと待っていたのだ。 自分たちがれいむと組むのを。 そして三匹が組んだところで、例の提案を持ちかけ自分たちを社会的に抹消するつもりなのだ! そして最後に残ったまりさは、群れ外へ追放してしまえばいい。 これで、長候補と目されていたすべてのゆっくりは綺麗にいなくなる。 よって自分が死ぬまで長の地位は安泰というわけだ。 なんてことだ。 こいつが!こいつこそがゲスじゃないか! みずからの地位を守るため、何の罪もない自分や幹部みょん、さらにまりささえも抹殺しようとする。 こんなやつを長にしておくわけにはいかない! 「みょん!ちょっと!きいてるの! このままじゃ、あのげすれいむが、むれのはけんをにぎるかもしれないのよ! そんなことになれば、このむれぜんたいが、きけんにさらされるのよ! それがわかってるの!」 「だまるみょん!このげすが!」 ギリッと長ぱちゅりーを睨みつけて言う。 「なっ、ちょっと!なにいうの! げすはそっちじゃないの!げすれいむとてをくんで! あなたしょうきなの?あたまは?」 「ふん!かくしてもむだだみょん!みょんは、ぱちゅりーのかんがえをみやぶったみょん! はじめから、みょんやちぇん、まりさをしまつするつもりだったみょんね!」 「なにわけのわからないこといってるの!そんなわけないじゃない! いいかげんになさいよ!」 「だったらどうして、むれのみんなにしんじつをじぶんのくちでつたえないみょん!」 「えっ……」 その瞬間、いままで詰め寄ってきていた長ぱちゅりーの表情が固まった。 それを見て幹部みょんは確信する。 やはり長ぱちゅりーは、意図的に真実を隠ぺいしていたのだ。 「おもったとおりだみょん! やはりおさはわざと、しんじつをむれのみんなにはつたえないようにしていたんだみょん! そして、みょんとちぇんがれいむとくんで、あともどりできなくなるたいみんぐをみはからっていたんだみょん!」 「わっ、わからないよー!どういうことなのー!」 幹部ちぇんが混乱し、助けを求めるような口調で聞いてくる。 ふん、普段から頭脳派だと威張ってるくせに、肝心なときにこれか。 「かんたんなことだみょん! おさは、はじめからみょんたちをはめるつもりだったんだみょん! じぶんがおさでありつづけるために!」 「まって!まちなさい! それはごかいよ! たしかにぱちぇは、いとてきにしんじつを、むれにみんなにつたえなかったことはみとめるわ! そして、そうきゅうにこのことを、むれのみんなにせつめいしていれば、こんなふくざつなことには、ならなかったかもしれないこともみとめる! でもそれにはふかいわけがあるの! けっしてあなたたちをおとしめようとか、そういういとは、まったくないわ!いませつめいする!」 慌てふためくように長ぱちゅりーが言う。 まったくしらじらしいことこの上ない。 「いいわけなんてききたくないみょん! いや、もうこうなってしまったいじょう、もはやりゆうなど、どうでもいいことだみょん! みょんはこのむれのおさになるみょん!」 「しょうきなの!れいむのことはどうするき!」 「みょん!あんなげす、あとからどうとでもなるみょん! いざとなれば、どんなてをつかってでも、しまつすればいいだけのはなしだみょん!」 「そんな! いくらげすとはいえ、ただしいてじゅんをふまないでのせいっさいは、ゆるされないわ! そんなことをすればむれのちつじょがみだれる! あなた、ぼうくんになるつもりなの! はじをしりなさい!」 「だまれみょん! みらいのおさにむかって、そのくちのききかたはなんだみょん! だいたい、ほんらいなら、たいしたつみじゃないまりさを、むれからついほうしようとしたやつのいうことかみょん!」 「ぐっ……」 幹部みょんのセリフにたじろいだ様子の長ぱちゅりー。 しかしすぐに気持ちを立て直すと、こんどは幹部ちぇんに向き直った。 「ちぇん!あなたはどうなの? みょんといっしょにおさになってむれをきけんにさらすの?それとも、ぱちぇのいうことをきいて、 むれのために、れいむとえんをきるの?どっち?」 「ちぇんは……ちぇんは……」 おろおろと戸惑う幹部ちぇん。 幹部みょんを説得するのは難しいと踏んだ長ぱちゅりーは、まず崩しやすそうな幹部ちぇんを説得することにしたのだ。 確かにれいむの側について長になる場合は二匹がそろってないとだめだが、長ぱちゅりーの側について、れいむの指示を崩す場合は、 二匹のうち一匹だけでも効果はある。 最悪幹部ちぇんだけでも引き込めれば、幹部みょんとれいむの企みは阻止できるのだ。 「ちぇん!おもいだすみょん!いままでのひびを! みょんたちがいくらおさになりたいといっても、おさは、ぜんぜんおさにさせるけはいがなかったみょん! それは、はじめからじぶんがずっとおさをやるつもりで、みょんたちのおさをやらせるきなんてなかったからだみょん! あまつさえ、こんかいのけんをりようして、みょんたちをまっさつしようとした! こんなことされてくやしくないのかみょん! くやしかったら、みょんといっしょにおさになるみょん!」 「みょん!よくききなさい! ちいさいころからいいつづけてきたように、むれにげすがはびこるのはとってもきけんなのよ! れいむはいうまでもなくげす!そしてみょんもげすへとおちたわ! もうあなたしかいない! ぱちぇといっしょにこのむれをただしいほうこうへとみちびくのよ! そうだ!このけんがおわったら、あなたをせいしきにおさへとすいせんしてあげる!」 お互いに自分の側へと引き込むように説得の言葉を投げかける幹部ちぇんと長ぱちゅりー。 幹部ちぇんはしばらく黙っていたが、やがて顔を上げてハッキリとした口調で言った。 「ちぇんは!ちぇんは、みょんといっしょにおさおやるよー! おさもれいむもしんようできないけど、みょんならしんようできるよー! なんだかんだいって、ちっちゃいころからのくされえんなんだねー!」 「そっ、そんな!」 「みょん!さすがちぇんだみょん!」 そうだよ!そうだった。 自分たちはもともと仲だって悪くなかったのだ。 だが、どちらかが長に、という話になってから急激に仲が悪くなっていったのだ。 互いにライバル同士となり、しなくてもよい争いをし続けてきた。 だがそれも終わりだ。 よく考えてみれば、二匹が長になれるのなら嫌う理由は何もないのだ。 そして二匹一緒なら老害ぱちゅりーにも、ゲスれいむにも負けやしない! そうさ!新しい群れは、自分たちが切り開く。 「なんて……おろかなことを……」 放心したように長ぱちゅりーが呟く。 「これでわかったみょん! おさのまけだみょん! おとなしくおさのざをあけわたすみょん! いまじたいすれば、むれのみんなからのいんしょうもわるくないみょん!」 「……そうね」 長ぱちゅりーがポツリと言った。 「みょん?」 その瞬間幹部みょんはおやっと思った。 あの長ぱちゅりーにしてはいやにあっさりすぎる。 いや、それもしかたのないことなのか? なぜなら打つ手などなにもないのだから。 「もうぱちぇにはあなたたちをとめれれないようね。 ……はぁ。 このてだけは。 このてだけはつかいたくなかったけど、しかたがないわ! むれをげすのてにわたすわけにはいかない!」 「なっ、なんなんだみょん!」 長ぱちゅりーは、どこかあきらめたような、達観したような表情だった。 それは何か壮絶に不吉な予感を幹部みょんに感じさせた。 その恐怖は長ぱちゅりー自身からではない、 長ぱちゅりーの背後に漠然と存在している、絶対的な何かから漂っているものだった。 「えいきを!ゆっくりえいきをこのむれのよぶわ!これでぱちぇもあなたたちもおしまいね!」 長ぱちゅりーは静かにそう言ったのであった。 続く ナナシ作
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人里の街頭にて。 「今度『文々。新聞』が懸賞つきでゆっくりできているゆっくりを募集するらしいぜ」 「へえ、一等賞はなんだい?」 「加工場送りさ」 とある加工場のの大部屋に三匹のゆっくりが収容されていた。一匹目の野良ありすは人間の飼いれいむを襲ったかどで収容され、 二匹目の野良まりさは飼いれいむと仲良くなったために収容されていた。三匹目は飽きられ捨てられた当の飼いれいむだった。 ある時、射命丸が野生のゆっくり避けにれみりゃを有効活用した農家を取材した。その時のキャプションより。 「写真:豚とおぜうさま(右から二匹目)」 ドスの群れからありすが誘拐されて、虐待お兄さんからうーぱっくで手紙が送られてきた。 「妖怪の山から山菜を山ほど取って来い。さもないとレイパーを増やして帰すぞ。」 ドスと、参謀役のぱちゅりーの間で、群れから脱出するゆっくりが増えている問題が話題になった。 「むっきゅん。このままでは、むれにのこるゆっくりは、わたしたちにひきだけになってしまうわ!」とぱちゅは述べた。 ドスは答えた。「ゆ? 二匹って、ぱちゅりーと誰のことなの?」 ドスまりさが真のゆっくりになればお腹一杯になれると演説していた。 すると一匹のゆっくりれいむが「みんなゆっくりしているのに、どうしておなかいっぱいたべられないの?」と尋ねた。 するとドスまりさは次のように答えた。 「大丈夫だよ。永遠にゆっくりできたらお腹なんて気にならないから」 寿命で死んだドスがあの世で参謀役のぱちゅりーと出会った。 「ゆゆっ、ぱちゅりー。おひさしぶりだよ! ところで、ドスが忘れてきたお帽子の飾りを持ってきてくれた?」 「むきゅぅ、ごめんなさい。わすれてしまったわ。でももうすぐむれのみんながもってきてくれるとおもうわよ」 虐待お兄さんに飼われている飼いれいむが、たまたまドスの群れに迷い込んだ。 「ドスはドスだよ! ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね! ねえドス、れいむもここでいっしょにゆっくりさせてくれる?」 「ゆう。ゆっくりじさつしたいなら、とめはしないけど……」 「権力の継承における人間とゆっくりの違いは何か?」 「人間では権力は同じ社会に属する人間の間で継承されるが、ゆっくりでは世代が変わる頃には社会集団が崩壊している。」 文々。新聞助手のきめぇ丸に聞いた。 Q:「かこうじょうのかんきょうはすばらしいってほんとう?」 A:「おお、本当です本当です。五日前に同じことを聞いたドスの群れがありましたが、それを調べるために加工場に送られました。 まだ戻ってきていませんが、そこがとても気に入ったからだそうです」 Q:「ゆっくりにもにんげんさんみたいなゆっくりのじゆうがあるってほんとうなの?」 A:「おお、原則においてその通りその通り。人間さんが仕事を前倒しに済ませてからゆっくりしていても問題ないように、 ゆっくりが死期を前倒しにしてゆっくりしていても問題ありません」 Q:「まりさはじゆうにかわさんをわたれるっていうのはほんとうなのぜ?」 A:「おお、原則においてその通りその通り。事実として多くのまりさが川の水に溶けて海へ渡り越しています」 Q:「ありすのはんぶんがれいぱーだってのはほんとうなのぜ?」 A:「おお、誤りです誤りです。実際にはありすの半分はレイパーではないのです」 Q:「にんげんさんがゆっくりプレイスをゆっくりできなくしにきたら、れいむたちはどうしたらいいの?」 A:「非常にゆっくり、全員が髪飾りを外さなくてはならず、最寄の人間さんが背負う篭の中に入らなければなりません」 Q:「ゆゆん? どうしてゆっくり?」 A:「おお、愚問愚問。あなたたちはゆっくりであり、その状況では今更なにをしても無駄だからです」 Q:「ゆっくりできないにんげんさんに、ゆっくりしてもらうことはできるの?」 A:「おお、可能です可能です。しかしその場合、あなたたちは誰からお野菜を盗んでくるつもりですか?」 Q:「むっきゅん。ゆっくりはゆっくりだけでいきていけるかしら?」 A:「おお、可能です可能です。ゆっくりの餡子を肥料に草花が育てばの話となりますが」 Q:「かしこいドスはどうやっておばかなゆっくりとはなすの?」 A:「群れから立ち去るという態度によって」 Q:「多くのゆっくりれいむは傲慢で自分本位、非常に攻撃的であるように見えます。このようなゆっくりに、博麗の巫女との共通点はあるのでしょうか?」 A:「おお、危険危険。きめぇ丸は可能な範囲で質問に回答せねばなりません。ありません!」
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前 「れいむ、ちょっといいかしら?」 毎晩恒例の会議が終わり、それぞれ自分たちの部屋に帰ろうとする中、側近ぱちゅりーがれいむを呼び止めた。 「ゆ? どうしたのぱちゅりー?」 「むきゅ……ちょっと、お話があるの……まりさとありすは先に寝ててね」 「ゆっくりわかったんだぜ! おやすみみんな!」 「ふたりとも! ねぶそくはびようによくないからむりしないではやくねるのよ!」 そういって部屋に戻っていく二匹を見送ると、二匹はゆっくりと洞窟の外へ向かった。 「ゆぅ~、ぱちゅりーったらふたりがいるのにだいたんすぎるよ~」 洞窟の外に出て早々に、れいむの態度が豹変した。 猫なで声……とでもいうのだろうか、実に気持ち悪い声でぱちゅりーに甘えだした。 実はこの二匹、こっそりと付き合っていたのである。 番いにならずに付き合うという形をとっていたのはれいむに前夫のまりさの子供たちがいるためだったが、二十匹の子供たちと当のれいむは浮気をした挙 句すっきりのしすぎで死んでしまった父まりさなど等に見限り、すっかりぱちゅりーを慕っている。 すでにこっそりと言いながらも、群れ一番賢いぱちゅりーと群れ一番子だくさんでやさしいれいむの関係にドスを除くほとんどのゆっくりが気が付いてい た。 「むきゅ~、実はれいむに話しておきたいことがあるのよ……」 「ゆ? どうしたの?」 「実はにんっしんしてるまりさ達なんだけど……」 「ゆ! あのあかちゃんがすごくゆっくりしてるまりさたちだね! きょうもみにいったらまたおおきくなってたよ!」 ぱちゅりーとれいむが言っているのは、あのお兄さんが改造したゆっくり達と同じ出産室にいた動物型妊娠のゆっくり達のことである。 あのゆっくり達はぱちゅりーの見たところ植物型出産のゆっくり達と同じ日に出産を迎える見立てだったのだが、あの地獄の出産劇の後もそういった気配 はなく、むしろ今まで以上にゆっくりとし、今まで以上の食糧をむさぼり、わずか二日で二倍近くまで肥大化していたのだ。 「ぱちゅりーの経験からすると、あのまりさ達の赤ちゃんはもう生まれてなくちゃいけないはずなのよ! それがまだ生まれていない上にあんなにふとっ ちゃってるのは……」 「ふとっちゃってるのは?」 「想像にんっしんに違いないわ!」 「な、なにそれえええええええ!?」 「むきゅ! 前の群れにもいたんだけれど、赤ちゃんが本当はできていないのに出来てるって言って、ぶくぶくと太っちゃうことなのよ!」 ぱちゅりーの言っていることは本来の想像妊娠とは違っているが、ゆっくりが想像妊娠した場合の餌の大量摂取と肥満はセットのようなものなので、ゆっ くりにとってはあながち間違いではない。 「ゆ! それはほんとうなの!」 「むきゅう…にんっしんしてからもうお日さまが二十回以上昇ったわ。あのまりさ達には赤ちゃんは生まれないのよ」 「ゆー! それじゃあみんながっかりするよ! あかちゃんがうまれるのたのしみにしてたのに!」 れいむの言うとおり、二日前の惨劇以来この群れのゆっくり達は動物型で妊娠している十匹のゆっくり達が赤ちゃんを産むのを楽しみにしていた。 ゆっくりするという行為に赤ん坊を眺めることを含めるゆっくり達にとっては、やはり普通に生まれた赤ちゃんを見たいという思いが強いのだろう。 「むきゅ! だからね……れいむ……ぱ、ぱちゅりーとれいむで赤ちゃんを作ってみんなを喜ばせましょうよ!」 この言葉にはれいむも驚いたようで、はっと目を見開いた。 いきなり子作りをしようと言われたのだから無理もないが。 「も、もちろんだいさんせいだよぱちゅりー! ゆっくりあかちゃんがうまれればみんなげんきになるよ!」 だがぱちゅりーの言葉と同じくらい素早くれいむは返事をしていた。 どうやらぱちゅりーがこういうのをずっと待っていたらしい。 「む……むきゅー! れ、れいむー!」 先ほどお兄さんと妖怪兎が賢い賢いとほめちぎっていた二匹とは思えない様子で交尾を始める二匹。 もともと自分たちが敷いたすっきり制限でいろいろと溜まっていたのだろう。 ぺにぺにのない二匹はお互いのモチモチとやわらかい頬をやわらかく、それでいて激しくすり合わせる。 「すーり! すーり! ぱ、ぱちゅりーのほっぺたすごくふわふわでゆっくりできるよー♪」 「むきゅぅ♪ れいむのほっぺたももちもちであったかいよぉ♪ すーりすーり♪」 ヌメヌメとした液体を体から染み出し、洞窟の前で交尾にいそしむ二匹のゆっくり。 今まで群れの体面や何やらですっきりできなかったのだから無理もないが、群れの仲間の出産状況を理由にすっきりするとは、この二匹ゲスの一面があっ たのかもしれない。 「ぱぱぱぱ、ぱちゅりー! もうがまんできないよー!」 「むむむむむむきゅー! ぱちゅりーもだよおおおおお!」 だからなのか、群れでトップクラスに賢く、群れでいちばん狩りのうまい二匹は交尾に夢中でついに気がつかなかった。 「「すっきりー!!!」」 自分たちの背後にいる…… 「むきゅう♪ れいむううううううう、ゆっくりした赤ちゃんよぉ!♪」 「ふとくてしっかりしたくきだね! これならゆっくりしたこがうまれるよぉ♪」 「むきゅぅ♪ おちびちゃんたちにも妹ができるね!」 「れいむはすごくうれしいよ! ゆっくりしたこにそだっ」 ぶちい!!!! 「むぎゅ!」 「あ、ああああああああああ! あがぢゃんがああああああああああ!」 一人の鬼意惨に。 「い~~~~~~い実ゆっくりだなあああああ! ちょっと貰うぞ!」 「むびゅうううううううううううううううう! ぱちゅりーのあがぢゃんがああああああああああああ!」 「ゆっぐぢでぎばいにぶげんはじねええええええええええええええ!!!」 久しぶりのすっきり。愛おしい相手との初めてのすっきり。その末に授かった赤ちゃん。 その茎を勢いよく引きちぎ李、恍惚の表情を浮かべるお兄さん。 光学迷彩を解いたその姿は、久しぶりの直接的な虐待にヘブン状態なのか全裸だった。 「その叫び声最高だよ! さすがお兄さんの大好きなド饅頭!」 そう叫ぶが否や、二匹のゆっくりの口に手を突っ込んで舌をつかんで持ち上げる。 「「んんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!」」 「兎からお前らを始末する許可はもらっている! すでにお前らの餓鬼どもも確保済みだあああああああああああああああああ!」 『私を”鬼意惨”と見込んで依頼を下さったのならば、信頼していただきたい』 『わかったウサ。幹部たちを殺して直接群れに介入するあなたの計画、了承するウサ』 そう、お兄さんが妖怪兎に許可を求めたのはぱちゅりー達を殺し、飾りを用いてゆっくりになりすまして介入するという、群れ虐待における非常にオーソ ドックスかつ危険なものだったのだ。 通常飾りで個体を識別し、飾りさえついていれば人間でさえ仲間と認識してしまうゆっくりだが、ドスまりさなどの比較的頭のいい個体には見分けられて しまう。 だが、一週間以上この群れを監視したお兄さんは気が付いていた。 この群れのぱちゅりーに対する過剰ともいえる期待と信頼に。そしてドスまりさの馬鹿さに。 だからこそ、ドスと幹部ゆっくりによる軋轢が生まれる前に群れをコントロール出来るこの手法を提言したのだ。 そして直接的な虐待のお墨付きをもらったお兄さんはヘブン状態になり、全裸に光学迷彩スーツを着込むとぱちゅりーとその恋人である幹部れいむを虐待 するために洞窟に向かったのだ。 そして鬼意惨と化したお兄さんの頭の中にあるのは、一週間以上にわたる幸せなゆっくり達を見続けたことにより溜まりに溜まったフラストレーション、 それだけである。 「なーにが依頼じゃ! なーにがじっくりじゃ! あの兎が勝手なこと言いやがって! 俺はもっとシンプルな虐待がしたいんだよ!」 「ばべでえええええええええええええ!」 「じだがいだいいいいいいいいいいいいいいいい!」 「今夜に限っては依頼は関係ねええええええええええええ! ひゃああああああああああ! 虐待だあああああああああああああああ!」 深夜二時。 ゆっくりの群れを虐めるために作られた森の中に、お兄さんの奇声が響き渡った。 そしてこの夜、森の賢者(笑)と称えられたぱちゅりーとれいむの地獄が始まった。 「ほらよ、ついたぜ!」 「ぶぎゅべ! むぎゅうううううううう!」 「いだいよおおおおお! ゆゆゆ!! ばがな”じじいばれいぶだじをおうじにがえじでね”! ……ゆ!?」 全裸のお兄さんに捕まれ小屋についた二匹が最初に見たのは、床にある真っ黒な塊とそれに生い茂る緑色の茎だった。 普通のゆっくりなら気がつかなかったかもしれないが、頭のいい二匹はすぐに気がついたようだ。 「おじびじゃんだじがあああああああああああああああ!」 「どぼじでごんなごどにいいいいいいいいいいいいいいい!」 「そのとおおおおり!!! てめえらが気持ちわりい逢引ごっこで交尾してたんでなあ! 親切なお兄さんが餓鬼どももすっきりさせてやったんだよ!」 相変わらずのハイテンションで叫んだお兄さんは、れいむの子供たちのなれの果てから赤ゆっくりのなり始めがついたままの茎をブチブチと引きちぎると 、まな板の上に乗せた。 「む、むきゅう! ちびちゃん達の赤ちゃんがついた茎を千切らないでね! まだ茎を餡子にさせば大丈夫だからやめてね!」 ぱちゅりーはお兄さんの行為に即座に反応したが、れいむの方は「ちびちゃんちびちゃん」と呟きながら餡子の塊にくっついている。 強すぎる母性のせいで合理的判断が取れなくなるれいむ種の典型的行動だった。 「はーっはっはっは! だーれがやめるかゲスぱちゅりーが!」 「むきゅ! ぱちゅりーはゲスじゃないよ! ゆっくり訂正してね!」 「いーやゲスだね! 自分ですっきりを制限しておきながら仲間が出産しないのをいいことに自分達はすっきりしちまうような奴はゲスなんだよ!」 「むぎゅ!」 うろたえるぱちゅりー。どうやら自覚はあったようだ。 「で、でもそれはしょうがないのよ! 群れのみんなを励ますためにも赤ちゃんは必要だったのよ!」 「ぞうだよ”! ぞでなのにぱじゅりーをげずよばばりするじじいはじねえええええええ!」 立ち直ったのか一緒になってお兄さんに罵声を浴びせるれいむ。 群れのゆっくりと同様に、いやそれ以上に信頼し、尊敬しているぱちゅりーを馬鹿にされたのが許せないのだろう。 「うるせえ!」 だがお兄さんにはそんなことは関係ない。 素早くスプーンをつかむと、それでれいむの両目をくり抜いた。 「ぎゃああああああああああああああ! でいぶのがばいいいおべべがあああああああああああああ!!」 「む、むぎゅううううう! ぷぺ!」 愛しいれいむに起きた惨状に思わずクリームを吐き出そうとするぱちゅりー。 しかしお兄さんの素早い腕がぱちゅりーの口をホチキスでふさぎ、それを許さない。 「落ち着けぱちゅりーさんよお。群れのやつらなら明日生まれる赤ゆっくりのおかげでしっかりとゆっくりできるさ!」 「…!!!」 「どぼいうごどなのおおおおおお! そうぞうにんっしんじゃだいのおおおおお!」 「想像妊娠? んなわけあるか! あいつらの出産が遅いのは俺が出産を遅らせる薬をあいつらの餌に混ぜ込んだからだよ」 お兄さんの言葉に絶句する二匹。 「それだけじゃない! 二日前に生まれた赤ん坊どもをああいう風にしたのも俺だよ」 「!!!んー!!!! んんんー!」 「どぼじでぞんだごどずるのおおおおおおおお!」 「それはなあ……お前らを虐待するためだあああああああああああああ!」 「ぎゅべえええええええええええええええ!」 ネタばらしで二匹のリアクションをたっぷり楽しんだお兄さんは、本日のメイン虐待を始めた。 「さあ! ゆっくりクッキングの始まりだぜ!」 「やべでええええええ! だずげでぱちゅりいいいいいいい!」 「んんーーーーー!!!!」 「まずはゆっくりの皮を剥きまーす!」 「ぶぎゃあああああああ! でいぶのもじもじのおばだがああああああああ!」 れいむの体の表面を包丁で器用に向いていくお兄さん。 肌色だった表面みるみるうちに白い饅頭になっていく。 「そして虫なんかをさんざん食べて汚い口をえぐりとりまーす! リアクションがほしいので喉は残しまーす!」 「むがーーーーーーー!!!! がーーーーーーー!」 「そしてさっき子ゆっくり達を交尾させて作った実ゆっくり付きの茎を強火で炒めまーす!」 「はへへーーー! ははひふへはひほーーーーー!(やめてーーー! まだしんでないよーーーーー!)」 喉だけで器用に叫ぶれいむ。 薄情なことにぱちゅりーは目と口の部分に穴のあいただけの饅頭になったれいむを見て、気絶してしまっている。 「塩こしょうで味を調えて完成! ゆっくりの実ゆっくり付き茎炒め!」 「んはーーーーーーーーーーーーーーーー!」 「そしてリアクションに飽きたれいむは温い油に入れて二時間かけて揚げ殺しまーす♪」 「ひひゃああああああああああああああああああ!」 油の入った鍋に突っ込まれ、ふるえながらゆっくりと油鍋の下から伝わってくる熱に怯えるれいむ。 お兄さんの言うとおり、すべてを失った悲しみを抱えながらすさまじい恐怖と狂うに苛まれあげ饅頭になるのだろう。 「さあて……やっぱりただ直接やるだけだとすっきりはするけどあんまり達成感はないなあ……」 すっかり溜まっていたフラストレーションを吐き出して通常に戻ったお兄さん。 イライラ解消のためだけに計画変更を認めさせられた妖怪兎はとんだ迷惑だろう。 「なんだかんだ兎には文句言ったけど……やっぱりじっくり虐待っていいよなあ……」 呟きながら静かに気絶したぱちゅりーを手に取るお兄さん。 「というわけで安心してくれぱちゅりー。あの群れは俺がしっかりとゆっくりさせてやるよ」 ひどくやさしい声で囁きながら、ぱちゅりーの帽子を取り上げるお兄さん。 そんなお兄さんの言葉にも、命より大切な帽子を取られたことにも、濁りきったぱちゅりーの眼は何の反応も示さなかった。 (むきゅう……ここは?) 体中に感じるズキズキとした痛みでぱちゅりーは目を覚ました。 愛しいれいむがひどい目にあわされているのを見て、思わず気絶してしまったところまでは覚えているのだが、その後は…… (むきゅ! そ、そうだ! れいむ! れいむは!) れいむを探そうと慌てて辺りを見渡そうとするぱちゅりーだが、なぜだかあたりは真っ暗で、そのうえ声も出すことができない。 (ど、どういうことなのおおおおおお! れいむううううう! ドスうううううううう! みんなああああああああ!) 必死に声を張り上げ、飛び跳ねようとするが、体に全く力が入らず、それはおろか自分の体が物に触れている感覚すら感じることが出来ない。 (むきゅうううううう! どういうことなの!) 慌て、混乱するぱちゅりー。するとその時、懐かしい、そして今のパチュリーにとって救世主ともいえる声が聞こえてきた。 「ぱちゅりー! ゆっくりおはよう!」 ドスまりさの大らかでとてもゆっくりとした声だ。 ぱちゅりーはようやくこのゆっくり出来ない状態から解放されると思い、ドスに挨拶を返した。 (ゆっくりおは)「ゆっくりおはよう! ドスまりさ!」 だが、その耳に聞こえたのは自分の声ではなく、昨日れいむとちび達を殺した憎むべき人間の声だった。 (む、むきゅうううう! ど、どうしてあの人間がいるのおおおおお!) 「ゆ! ぱちゅりーどうしたの? なんかおおきくなったみたい!」 そのドスまりさの声でぱちゅりーは気がついた。 あの人間は帽子を取り上げて自分になり変っているのに違いないのだ。 (むきゅう! 騙されちゃだめよドス! あの人間が群れに行ったらみんなゆっくり出来なくなるわ!) 帽子でのごまかしが聞くのは概ね普通のゆっくりまで。 ドスともなれば大きさなどに違和感を感じてそれに気がつくことが出来るはずだ。 ぱちゅりーはドスまりさに一縷の希望を託したが……。 「実は夜の内にぱちゅりーには体が生えてきたんだよ。これでもっとみんなをゆっくりさせてあげられるよ!」 (ああああああ! だめよドス! だめよおおおおおおお!) だが、ぱちゅりーの願いは、 「すごいねぱちゅりー! どすはぱちゅりーみたいなゆっくりがそっきんでとってもうれしいよ!」 愚かなドスまりさには届かなかった。 (どすううううううううううううう!) 「ありがとうドスまりさ! これもドスまりさのおかげだよ! これはそのお礼だよ!」 「ゆ! なにそれ! しろくてまんまるでとってもゆっくりしてるよおお!」 (むきゅ!) しろくてまんまる。 ドスのその言葉にぱちゅりーはあることに気がついた。 自分がドスと自分になりすました人間の近くにいるのに、なぜドスは帽子がないとはいえ自分に全く反応しないのだろうか。 その時、最後に見たれいむの状態を思い出す。 目を抉られ、体中の皮を削られてまるでお饅頭のようになったれいむの姿を……。 (むきゅううう! まさか! まさかあああああああ!) 「これは森で見つけたお饅頭だよ。れいむ達が見つけてくれたんだ、ドスまりさにあげるよ。」 「ゆうううう! ぱちゅりーありがとうねええええ! 本当にぱちゅりーはゆっくりしたそっきんだよおおお!」 そう言って舌でお兄さんが抱える饅頭をからめ捕るドスまりさ。 その表情は甘い物が食べられる喜びでとてもゆっくりとしていた。 (むきゅううううううううう! ドス!やめてえええええええ! ドスうううううううううううう!) 「ゆーっくりいただきまーす! むーしゃ♪ むーしゃ♪」 (いぎゃああああああああああああああ! ぶぎゅううううううううううううううう!) 少し間の抜けた、けれどもゆっくり達のことを第一に考えているドスまりさ。 前の群れでも、そして今の群れでも頑張っている、尊敬すべきドスまりさ。 (いぢゃいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! どすうぅぅうううううぅううううう……………) そのドスまりさに咀嚼されて、目と口と皮を失ったぱちゅりーは苦しみながら死んでいった。 「美味しかったドスまりさ?」 「とってもゆっくりできたよぱちゅりー!」 「それはよかった。さあ、朝礼を始めようドスまりさ」 「ゆっくりわかったよ! あれ、そういえばれいむとおちびちゃんたちはどうしたの?」 「ああ、れいむ達には新しい餌場を探しに行ってもらったんだよ。少し群れを留守にするから待っててあげようね」 「ちびちゃんたちとおとまりだね! ゆっくりわかったよ! さあ、みんなをおこすよお!」 成長したそっきんと働き者の幹部たち。 そしておいしいプレゼントにとてもゆっくりした気持ちで、ドスまりさは声を張り上げた。 「ゆっくりしていってね!!!」 ※どうも、えらい間のあいた割には虐待模写が少なくてすいません。 一応話の筋は考えてあるので、暇を見つけてじっくりと描き上げますので、もうしばらくお待ちください。 このSSに感想を付ける